ルキファナス・オンライン-素早さ極振り暗殺者は正義の味方！？

60話 初陣

　やはりダメか……

　刹那無常でエルダーレイスにトドメを刺した煉獄斬が使えるか試そうと思ったが、スキル欄に煉獄斬はない。

　スキル発動中のみ使用可能になるスキルがあり、煉獄斬はその類ということだ。

　怨恨纏い発動中のみ使用できる攻撃スキル。

　普段から使えれば強力だと思ったのに、そう上手くはいかないようだ。

　刹那無常から精霊刀に握り変える。

　この精霊刀はディーが加護を授けてくれたことで武器として機能するようになった。

　能力はディーの扱う魔法を俺も使えるというもの。

「闇槍（ダークランス）」

　コボルトウィザードは近づく俺に向けて炎の槍を放ってきたので闇の槍でお返ししようとするが、槍同士がぶつかり炎の槍は多少小さくなったものの、依然こちらへと向かってきている。

　これは仕方がない。

　魔法の威力に影響を与えるINTに一切振ってないので魔法を使えるといっても威力はかなり下がる。

　魔力に関しては精霊刀自体に魔力が補充されていて俺の雀の涙ほどの魔力でも魔法がいくらか放てるというわけだ。

　これは魔法を撃つよりも普通に斬った方が早そうだな。

　と思ったが、やめよう。

　後ろで魔力が膨れ上がっている。

　振り向くとディーが小さな翼をパタパタと羽ばたかせ宙に浮いていた。

　魔力が口に集まり咆哮と共に闇の槍が放たれる。

　コボルトウィザードは自分目掛けて一直線に飛んでくる槍に慌てて槍で相殺を狙おうとするが俺のなんちゃって魔法とは威力が違う。

　見事にコボルトウィザードのどてっ腹に風穴が空いた。

「キュイキュイ」

　どんなもんだといった表情で頭をすりすりしてくるディーが可愛すぎる。

　威力は申し分ないがディーはあまり早く動けない。

　固定砲台としてなら強力だし、俺の後ろにいてくれれば比較的安全だが、なぜかディーは魔法を使わずに突進をしたりする。

　これは好みの問題なのだろうか、それともドラゴンだから？

　もしくは種族としての本能とか？

　とにかく何もかもが手探りだ。

「満足したか？」

「キュイ」

　満足気な顔で影に潜って行った。

　どうやらMP切れのようだ。

　まぁ、生まれたてで闇槍（ダークランス）なんて撃てば当然だな。

　これでディーの初陣も無事終えたということで、俺はせっかくここまで来てるんだし、もう少しコボルト狩りをしていくか。

　コボルトの群れを見つけた。

　まだこちらには気付いていない。

　コボルトファイターが二体とコボルトウィザードが一体。

　まずはウィザードから落とす。

　気配を消して背後に忍び寄り首を落とす。

　俺に気づいたファイターが襲いかかってくるが乱刀・斬で一気に方をつける。

　やはり俺には魔法よりもこういう暗殺の方が向いている。

　何日かコボルト狩りをしてディーの最強の戦闘スタイルを編み出した。

「ディー、闇槍（ダークランス）」

　俺はコボルトファイターの剣を回避しながらディーに合図を送る。

「キュイ」

　ディーがそれに答え、影の中から槍が出現してコボルトを貫いた。

　これなら奇襲にも使えるしディーが危険に晒されることもない。

　ディーは若干物足りなさそうだが、これもディーの安全のため。

　本当はコボルトキングと戦闘したかったが物欲センサーが働いているのか、求めたときに出会うことができない。

　至高の一振りの会長から言われていた期日もきたしコボルト狩りも終わりだな。

「キュイキュイ！？」

「そんな顔しても仕方ないだろ。それに心配しなくてももうすぐ厳しい戦いが待ってるよ」

「キュイキュイ！！」

§

「会長さん、これどうするんですか？」

「さぁ、どうしようかな」

　至高の一振り鍛治工房で青江とスメラギが完成したクロツキ専用の装備を見て頭を抱えていた。

　2人で計画を立てていると、職人たちが次々と興味を示してなぜか工房一丸となって装備を作ることになってしまった。

　一丸となって何かの計画、例えば大規模戦闘で多くの人数の装備が必要になったりすれば国からの依頼で動くこともある。

　しかし、1人のためにこれだけの職人が動くなんて前代未聞だ。

「これは正式な仕事いうより趣味に近いもんや、給料なんて雀の涙もでえへんで」

「俺は青江さんと一緒に仕事ができるなら金なんていらねぇよ」

　そういったのは至高の一振りでも若手ナンバーワンの呼び声が高い青年だった。

　こういう業界は手取り足取りと技術を教えてくれるようなことは少なく技は見て盗むしかない。

「俺も金なんていらねぇよ。レストリア周辺にはダチが住んでる村があってよ、悪漢どもが蔓延っておちおち外も出歩けねえっていってたよ。それがよぉ、そんな状況を救ってくれた英雄のために装備を作るって話しならのらねぇわけがねぇだろ。なぁお前ら」

　男に賛同する声が工房に響く。

「ぼくも手伝う」

　男衆の中で珍しい女性の職人が手を上げた。

　商会で働く女性は決して少なくはない。

　しかし、職人となると極端に数は減る。

　さらに来訪者となれば彼女1人だけだ。

「まぁええわ、ほんまに金なんてでえへんで、せやけどやるからには妥協は許さへん。それでもええんやな？」

　スメラギは自然と笑顔が溢れる。

　一体どんな装備が出来上がってしまうのか。

　知らぬところでそんな大事になっているとつゆ知らず、クロツキはのこのこと至高の一振りの商会に訪れていた。

　商会に入ってまず気になったのは妙に職人たちから視線を受けている。

　しかも全員がニヤニヤとしているものだから、とても不気味だ。

　前回来たときはこんなことなかったのに。

　受付のお姉さんに案内された部屋は前と同じ部屋、座り位置も同じで青江とスメラギが座っている。

「よぉ来てくれました、クロツキはん。今回の装備はうちらの総力を上げたといっても過言ではないほどや。その価値にして…………や」

　芝居がかったスメラギの口上から始まったが語尾は弱まっていき、値段の部分が聞こえなかった。

　青江がその隣で青ざめている。

「えっと……いくらっていいました？」

　スメラギの口からとんでもない金額が飛び出した。