55話 トレヴィネ大墳墓

 翌日、太陽はまだ真上に位置しているがここの雰囲気は暗く、怪しげな霧が漂う。

 トレヴィネ大墳墓、かつての戦場跡地に跋扈する死者を鎮めるために作られた墓地だが不気味さは全く拭えていない。

 そもそも跋扈する死者はいなくなったと言ってるがしっかりとアンデットたちが歩いている。

 過去、鎮めるために浄化に当たった聖職者が不正で成り上がったヤブ聖職者でスケルトン種のみが浄化されただけでそれ以外のアンデットは健在だ。

 アンデットに健在という言葉が合ってるのか分からないが。


 王国もこの場所が浄化されていないのは認知しているが冒険者たちからするといい稼ぎ場所になるため完全浄化には至っていない。

 精々が結界を張って外に出さないようにしているくらいだ。

 俺は早速、それにあやかるわけだが……


「グールは任せてくれ」

「じゃあ、リビングアーマーもーらいっ!!」

「私はウィスプをやります」

 グールは再生力が高く、複数回の攻撃を継続して再生力を上回る攻撃を続けなければいけない。

 リビングアーマーは防御力が高い。

 ウィスプは物理攻撃がほぼ通じない。

 それぞれの得意分野を活かして戦闘を行う。

 これはもの凄くパーティ感が出ている。

 だが、お目当てのモンスターはこいつらではない。


 火山地帯の時と違ってあまりスキルを使わずともモンスターを倒せるので楽だ。

 これは俺たちの職業が噛み合っている。

 多くのモンスターが状態異常を使ってくるが、隠者系統の俺とリオン、それに呪術師のルーナにはほとんど効かない。

 難所指定されているのはモンスターの強さよりもこの状態異常にかかる土地そのものだ。


 モンスターを倒しながら先へ進んでいくとようやく出てきてくれた。

 戦場の怨念が黒い靄となり人の姿を形作っている。

 実はこいつについてはあまり情報がなかった。

 モンスター名は残穢ざんえの影。

 残穢の影は広がり俺たちを包み込むように展開する。

 闇雲に攻撃しても一切通じることはない。

 冷静に核をみつけそれを砕けば倒すことができる。


 特に攻撃をしてくるわけでもなく、よくわからないと思ったがそうでもなかったようだ。

 後ろにいた二人が膝をついている。

 パーティ画面を見ると、弱化の状態異常。

 耐性があるはずの2人に効き、攻撃らしい攻撃がないことを鑑みると状態異常特化のモンスター。


「大丈夫か?」

「ちっ、体の力が抜ける」

「すみません……」

 まだまだ残穢の影は奥から現れる。

 2人には残穢の影に触れない位置に移動してもらいたいが、行動ができる状態ではないか。

 残穢の影だけならダメージは負わないがここに通常のモンスターが組み合わさるとどうしようもない。


「くそっ……」

 四方からグール、リビングアーマー、ウィスプが近づいてくる。


「手助けする」

 颯爽と現れた少年が槍を振るうたびにモンスターたちが蹴散らされていく。

 それに追随して俺も残穢の影を倒す。


 少年に助けられて窮地を脱することができた。

 2人もようやく動くことができるようになってきている。

「ありがとう、助かったよ」

「いえいえ、困っていたならお互いさま……クロツキ?」

 握手する少年は俺の顔を見て驚いていた。


「えっ、どこかで会ったっけ?」

「すみません。あの動画を見ていたのでつい……」

「あー、あの動画、無断で投稿されたみたいで困ってるんだよね」

「そうだったんですね、僕の名前はリンです」

「知ってるかもしれないけど、俺はクロツキ、こっちの2人がルーナとリオン」

「助かったぜ」

「ありがとうございます」


 リンは表面上では冷静ながらも内心、驚きを隠せなかった。

 それはつい最近話題にしていたクロツキとこんな偶然に会うことがあるのか。

 その驚きもあったし、想像していた人物像とのギャップにも驚く。

 動画では黒い靄を纏って不気味なお面をして敵を駆逐していたところから、気性の荒い性格だと思っていたが目の前のクロツキは非常に穏やかで仲間を助けるためにその身を挺するところもリンからすれば好印象だった。

 見た目はここにいるモンスターと言われても納得の格好ではあったが。


「よく平気だね」

「一応、そういうアイテムを装備しているので」

 祈りの捧げられた腕輪は不浄な気を寄せ付けないらしい。


「すみません、聞いていたよりも威力が強くて……」

 難所とはいえ事前に仕入れた情報ではここまでのものだと話に出なかった。


「いっ、いえ、たしかに僕も何度かここにはきたことありますが、いつもよりも不気味です」

「なんか良くない流れだな」

 ほらね、話をしている途中で異変を感じ取った。

 霧が濃くなっていき、おどろおどろしい空気があたりを包んでいく。

 濃くなっていく霧の向こうから不気味な笑い声と共に現れたのは複数の残穢の影。

 そして中央で一際、異彩を放っているのがボスモンスターなのだと理解できた。


「滅多に出ないと聞いていたんですがね……」

「あれは?」

「残穢の影の上位種の死穢の影ですね。初めて見ました」

 滅多にポップしないはずのモンスターに運悪く遭遇してしまったようだ。

 死穢しえの影は残穢の影以上に情報が少ないが、残穢の影の厄介さを考えれば強敵だと分かる。


「クロツキさん!!」

「分かってる」

 死穢の影が手をかざすと瘴気が放たれる。

 その瘴気の範囲は広く、俺とリンは回避できたが後方で回復しかけていたルーナとリオンの2人が再び戦闘不能に陥る。

 影たちの不気味な笑い声が墓地中に木霊する。


「俺が死穢の影の相手をする。リンは周りを頼んだ」

 俺は死穢の影の瘴気を浴びても、まだ影響が出ていない。

 しかし、リンはそうではない。

 動けないほどではなさそうだが、明らかにきつそうだ。

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