54話 爆発

 素材が必要な個数に少し届かず。

 火炎蜥蜴は体内にある心臓から炎を身体に巡らせている。

 その炎心が必要な素材なんだが、サイズに指定があり大きすぎず小さすぎずのものを集めるのが大変だ。

 休憩から再び火炎蜥蜴を狩りに行こうとしたとき、山の上から悲鳴が聞こえ近づいてくる。


「ぎゃあーーー」

「お前らふざけんなよー」

「俺のせいじゃねぇだろ」

「足引っ張りやがって、全然使えねぇじゃねぇか」

「違う!! これはたまたま調子が悪かったんだ」

 あー、目の前で4人パーティがやられてしまった。

 そのうちの2人は至高の一振りの前で一悶着を起こしていた男女ペアだった。

 光の粒子が儚く散っていく。

 後に残ったのは引き連れてきた多くのモンスター。


 火炎蜥蜴の群れにフレイムパピヨンという蝶のモンスターも複数いる。

 全部で20体以上はいるだろうか。


「はぁぁぁぁ、まじで最悪なんですけど、クロツキ1人で時間稼げる?」

「作戦でもあるのか」

「まぁね」

「引き受けた」

「姉ちゃん、あれの準備よろしく」


 俺はモンスターたちに少しずつだけ攻撃してヘイトを集める。

 俺へ一斉に火炎蜥蜴の吐き出した炎が襲ってくる。

 しかも、先ほどよりも強力な炎が。

 原因は空中を飛ぶフレイムパピヨン。

 羽根を羽ばたかせるたびに鱗粉が舞い散り、その鱗粉が炎の威力を上げている。

 まぁ、避けることに専念すれば特に問題はない。


 全ての攻撃を回避し続ける。

 単調な攻撃で一度も炎は俺の体に触れてはいない。

 それでもHPが減っていき、余裕がないのがAGI極振りの運命。

 炎の直撃は避けても高熱のせいでダメージを受けてしまう。

 そこまで高いダメージではないが、チリも積もれば俺の低いHPには十分な脅威となっている。

「まだかっ?」

「もっ、もう少しだけ待ってください」


「ちっ、しまった」

 モンスターの中央に陣取り避けていたが、攻撃を大きく回避しすぎてしまった。

 端の方の火炎蜥蜴のターゲットが俺からルーナへ変わってしまった。


「ダブルスラッシュ」

 リオンは二連撃で炎を切り裂くが自身が炎に包まれる。

 その甲斐あって炎はルーナには届いていない。


「準備できました」

「アチィィィ、やっとかクロツキ、とっとと逃げようぜ」

 リオンは所々を黒焦げにしながらなんとか生きていたようだ。

 俺はすぐにその場を離れると、黒い霧がモンスターたちを覆っていく。


 これは闇霧ダークミスト

 たしか、視界を奪う魔法のはず。

 この隙に逃げるのか。


「全てを覆い隠せ闇霧ダークミスト、伝って引き裂け黒雷ブラックライトニング

 ルーナの指先から一筋の黒い電気が霧へ向かって飛ぶが、それはあまりにも小さな小さな電気だった。

 しかし、霧に触れた瞬間、無数に分かれて凄まじい音と稲妻が霧の中からほとばしる。

 霧が晴れていくと中には黒焦げの火炎蜥蜴と地に落ちたフレイムパピヨンがいた。


 なんとか生き延びたのは火炎蜥蜴の一匹だけだった。

 凄まじい威力だ。

「へぇ、あれを喰らって生きてるなんてやるじゃん。私がとどめを刺してやるよ」

 リオンがククリ刀を振り下ろす。


「ダメだよ、リオンっ!!」

 ルーナの声も虚しくククリ刀は火炎蜥蜴を一刀両断した。

 いや火炎蜥蜴に似た蜥蜴を両断したのだ。

 その蜥蜴の絶命と同時に大爆発が起きる。

 あたりが黒煙に包まれるが俺とルーナは無事だが、リオンはあの爆発ではさすがに生きてないだろうな。

 俺は手を合わせて黙祷する。

 リオンは爆発に巻き込まれて死んでしまった。

 あんなにここにくる前ルーナに注意されていたのに。

 火炎蜥蜴に似たモンスターの爆発蜥蜴ばくはつとかげは体力が多く、絶命時に周囲を巻き込む爆発を起こす。

 色も少し違うので焦らずに見てれば気付くもんなのに。


「おいっ、クロツキ何を手を合わせてんだよ。パーティなんだから生きてるの分かるだろうが」

 黒煙を払いながらリオンが出てきた。

 リオンの言う通り、パーティを組めば近くにいる味方の生存は確認できる。

 もちろん確認して、生きてるのは知ってたけど、何となくノリで手を合わせただけだ。


「なんであの爆発で生きてるの?」

「新しいスキルのおかげかな」

 妙に自慢げだしよっぽど凄いスキルなのか。

 しかし、あんま聞きすぎるのもマナー違反だしなぁと思ってるといかにも聞いて欲しそうな顔をしている。

 よっぽど自慢したいのか。


「なんと未だ判明されていないレア職業、逸楽義賊になったときに獲得したスキルなのさ」

 逸楽とは気ままに楽しく遊び暮らすこと。

 リオンの性格にマッチしている。

 義賊は悪い奴から盗んだものを恵まれない人たちに分け与える盗賊のこと。

 この間のイヴィルターズとの一件が反映されたんだな。


「どんなスキルなんだ?」

「聞きたいか、聞きたいだろ。実は『盗むも一興』ってスキルでな、一定時間相手からランダムで何かを盗むんだけど、それで爆発蜥蜴の炎耐性を盗んで生き残れたってわけ」

「なにそれ? ランダムって運が悪ければ死んでたってことじゃん」

「いやいや、結構な確率で生き残れる勝算はあったさ。ああいうタイプのモンスターは装備なんてしてないからスキルなのは分かってたし。私には使えない特性は盗めないから、ほとんど炎耐性しかないってこと」

 リオンのくせに意外と考えてるな。

 しかも、結構強力なスキルだ。

 ランダムとはいえ、リオンからすればそこまで必要でなくても盗まれた方からすれば面倒だ。

 相手の何かを封印できるみたいなもんだからな。


「そういえば姉ちゃんも特殊な職業になったよな」

「そうなの?」

「はい、黒天呪術師になれました。これはセン婆様に教えていただいている影響かと思います」

 魔法使いの職業は使う魔法の熟練度なんかで枝分かれするらしい。

 それにしても一気にモンスターを倒したことで欲しかった素材の二種類が揃った。

 火炎蜥蜴の炎心×5、フレイムパピヨンの鱗粉×3瓶分。

 もう火山地帯には用はなくこの日は一旦街へ戻りログアウト、翌日もう一つの素材を集めに行く約束をした。

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