53話 火山地帯
至高の一振りの店内は喧騒だった先ほどまでとは比べものにならないほど静まりかえっていた。
元々がこれぐらいの静かさなのだろう。
すでに平常運転されていて小さなBGMに接客の声があり嫌な静けさではない。
そう、表現するなら優雅、大金持ちの休日のようなVIP感を味わえる。
奥へと通された俺は客室、おそらくは交渉の席などで使われる部屋のソファに座る。
社畜時代の営業を思い出してしまうので、こういう場は少し苦手だ。
特にこの会長は気が抜けない。
商人として大成功を収めただけに、一癖も二癖も三癖もある。
俺が青江に用があると話して今は待っている状態なのだが、あれこれと根掘り葉掘り聞かれた。
特にイヴィルターズとの戦闘についてがほとんどで単純に興味を持っているといった感じだった。
「おぉ、クロツキ、よくぞきてくれた」
青江が部屋に入ってくる。
「青江さん、お久しぶりです」
「わざわざ足を運んでもらって悪かったのう。その上面倒ごとに巻き込まれたんじゃろ。こちらの会長さんは油断せん方がいいぞ」
「ほんま青江はんは厳しいなぁ。ウチでもトップクラスの職人でな、かなわへんねん」
「どの口が言っとるか」
青江は三次職ではあるものの、現実では40年以上も刀匠をしているベテランだ。
ステータスやスキルを凌駕する技術力ということになる。
「せやせや、あれ見せてぇな。イヴィルターズとの戦いでつことったナイフ」
「はぁ、断ってもいいんじゃぞ」
「まぁ、見せるくらいならいいですよ」
俺は小刀『刹那無常』を机の上に置く。
「これは……ユニークアイテム、いやそれ以上かな、鑑定しても?」
「えぇ、どうぞ」
「刹那無常、瞬間瞬間で物事は変化していく……か。それにしても刹那無常いうて、不死の存在にまつわるて、えらい皮肉の効いたもんや」
さすがというべきか、一瞬でかなりの情報が読み取られた気がする。
「この刹那無常はまだまだ力が隠されてるわ、いわゆる封印っちゅうやつやな」
「封印ですか?」
「さすがに条件までは分からへんけど、まぁ、そんなもんゆうてる間に自ずとなんとかなるもんや、それよりもクロツキはんには世話なったし、ぼくもそれなりにお返ししましょか。青江はんも怖いしな」
会長の目が刹那無常から俺に移る。
「うーん、防具一式でどやろか」
「んっ?」
「最高の防具一式や」
「いや、あの……」
「ほなその仮面も強化する」
「えーっと……」
「まだかいな、クロツキはん、ええ商人になれますわ。特別クエストへの同行とそこで手に入ったアイテムの一部でどやっ!! これ以上はビタ一文まけれまへん」
「はい……」
いきなりこっちを見て防具一式だなんて言われてどう返答すればいいか迷ってるうちに話しが勝手に進み、防具一式と仮面の強化とよくわからないクエストの同行まで決まってしまった。
防具一式となると数日かかるらしく、俺は会長に幾つかのアイテムを渡し、至高の一振りから半ば強制的に追い出された。
数日となると卵を孵すための素材集めをしたいが、防具の揃ってない俺が行くには不安材料しかない場所だ。
そもそも、素材集めのために防具をグレードアップしようと思ったのに……
いい防具が揃うのに新しいのを買うのも微妙な気がするし。
パーティを組むか。
問題は組んでくれる人がいるかどうか。
最初の頃の無能扱いはなくなったが、動画が拡散されたおかげで別の意味で名前が広がってしまった。
冒険者ギルドの王都支店へ足を踏み入れる。
さすがの賑わいで人が多いが、ギルド自体も広いのでそこまで窮屈には思わない。
受付もいくつもあって、多くのギルド職員が忙しなく動いている。
見知った二人の少女と顔が合って、あの黒歴史が蘇る。
「あっ、姉ちゃん、クロツキがいる」
「えっ……」
「久しぶり、奇遇だね」
シュバルツ城での宴会以来の再会だ。
「あたしらは王都を拠点に冒険者やってるからなぁ、ほらっ、姉ちゃん」
「あっ、あの、お久しぶりです……一緒にクエストなどどうでしょうか?」
§
「あちぃーーー」
「火山地帯らしくなかなかの熱気だな」
「そうですね、ダメージが入らないギリギリなので助かってますが……」
まだ麓でこの熱気。
ルーナとリオンの2人とパーティを組んで火山地帯にやってきていた。
簡単な事情を説明して卵の孵化に必要な素材を入手するためにこの場所を選んだ。
2人の目的は単純にレベリングだったらしいので狩るモンスターは俺に合わせてもらった形になる。
必要な素材は三つ。
まずはそのうちの二つがこの火山地帯周辺で獲得可能だ。
火山内部のダンジョンに入るには熱さ対策必須になるため、専用のスキルか装備が必要になるが、今回はそこまで行くつもりはない。
そもそもパーティを組んでも俺たちのレベルでは太刀打ちできないし、目的のモンスターは麓に出現するためそこまでリスクを上げる必要はない。
「出てきたよ」
岩陰から出てきた複数の蜥蜴のモンスター。
手首、足首と尻尾の先が燃えている
火炎蜥蜴の一匹が口を大きく広げて炎を吐いてくる。
「
炎はルーナの放った黒槍と相殺する。
その間に俺とリオンは火炎蜥蜴に近寄り攻撃を開始する。
「乱刀・斬」
50以上の斬撃が火炎蜥蜴の一匹を斬り刻む。
「バンデッドスイング」
リオンの振り下ろした武器はナイフというには大振りなククリ刀。
それが火炎蜥蜴を一刀両断した。
火炎蜥蜴の攻略として即殺がベスト。
のんびりと戦闘しているとどんどんと仲間を呼び寄せてしまう。
俺たちは持てるスキルを使用して全力で狩りまくる。
とりあえず一帯の火炎蜥蜴を処理して一安心といったところで休息を取る。
俺とリオンは次のスキル使用までのチャージ待ち、ルーナは瞑想とポーションを使ってMPを回復する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます