51話 グローリーロード

 王都のメインストリートに店を構えるというのは一種のステータス。

 王国で最も栄えていて王城へも続くこの道はグローリーロードと呼ばれる。

 そんなグローリーロードに店を構え、成功の証としてきらびやかな生活を送っているように見える彼らは商売人。

 表面上はそう見せていても腹の中では何を考えているか分からない。

 実は熾烈な争いの渦中にいて、追い込まれていようがそれを他に見せるのは三流のすること。


 グローリロードの席数は決まっている。

 その数は僅か三十しかない。

 常に新しい風はやってきて牙城を崩さんと心を燃やすが高い壁に阻まれて踵を返すことになる。

 されとて、少しでも気を抜けば牙城はすぐさま落とされ交代が起きるため油断などする余地もない。

 それだけ日常茶飯事に商人同士の蹴落とし合いが行われている中で未だに落とされることなく10年以上居座り続ける商会が5つある。

 そのうちの一つ、鍛治工房『至高の一振り』こそ青江が指定した場所だった。


 伝説の鍛治師が作り出した至高の武器を越える武器を生み出すことを目標とするためにつけられた名前だ。

 優秀な鍛治師と優秀な商人が揃った大手商会は大陸中に名を広げている。


「これは……入るのに勇気がいるな」

 出入りする人数は他の商会に比べると多くはないし、そもそもショーケースが並んでいたりどういうものが売ってるかなど一切表に出ていない。

 それに出入りする誰もが見るからに強力な装備を身につけた歴戦の猛者の貫禄が漂っているというのに、俺の格好はボロボロの装備でいかにも怪しい感じが出ている。

 場違いにも程がある。

 本当にここであっているのか不安になってしまうが、勇気を出して一歩ずつ近づく。


「おい、あれって……」

「あぁ、そうだよな」

 周りの視線が突き刺さり陰口を言われてるのがそれとなく聞こえる。

 牛歩の歩みで一歩ずつ足を進めるとあまりにも歩くのが遅すぎたのか俺を抜いて若い男女の2人が店に入ろうとする。

 別に列ができてるわけでもないし順番を抜かされたとかでもない。

 俺はラッキーっと内心喜んだ。

 この二人の後ろについてささっと店内に入ってしまおうと考えたのだ。


「ちょっと待ってくれ、あんたらはグローリロード出禁だろ」

 店に入ろうとした2人の男女は槍を持った衛兵に止められた。

 高価な品を取り扱っているし、そうでなくても人通りが多いということはトラブルも多いため、グローリーロードでは多くの衛兵が巡回をしている。

 前の2人は何かをやらかして出禁になっているようだ。


「はぁ、意味わかんねぇし。客は神様だろうがよ、入れろや」

「悪いが入れることはできない」

「くそが、舐めやがって。俺が買ってやるだけで箔がつくってのがわかんねぇかなぁ」

「ねぇ、もう他のところに行こうよ」

「お前は黙っとけ」

 男は背中の剣に手をかけたとき、パンパンっと二回手を叩いて店から一人の男が出てきた。


「ハイハイ、そこまで。衛兵さんもおたくらもこんな往来で暴れられたら敵わんわ。まぁ、お客様が神様っちゅうのはわかるけどなぁ……」

「はっ、そこの店員はわかってんじゃねぇかよ」

「衛兵さん、ここはぼくが対応するさかい、もう行ってええで」

「しかしですね……」

「たのんますわ」

 少し考えてから衛兵は去っていってしまった。


「てなわけで、お帰りください」

「はぁ、意味わかんねぇし!? 客は神様だって言ったのはテメェだろうが!!」

 とうとう男が剣を抜いて斬りかかろうとする。

 さすがに脅しのつもりか本気で斬るつもりはないらしいが、手出しは……必要なさそうだな。


「おたくらお客様ちゃうやん」

 店員が剣を取り出して男の振り下ろす剣にぶつけると、男の剣が粉々に砕け散った。


「なっ……!? テメェこの剣がいくらしたか分かってんのかよ!!」

「はいはい、死にとうなかったら暴れへんといてね」

 男の首に剣が突きつけられる。


「で、おたくらまだ用があんのかい?」

「おっ、覚えてろよ!!」

「あっ、待ってよー」

 2人は走って逃げていった。


「うーん、まぁまぁやな、この素材ならもう少し火入れの温度を……」

 店員は試作品の試し切り感覚で追い返したらしい。


「アホなやつらだな、至高の一振りの会長に喧嘩を売るなんて」

「あぁ、噂では五次職だって話だぜ」

 周りの見物人達がヒソヒソ話をしている中に気になるキーワードが。

 五次職……

 そもそも四次職すらまだ解放はされていなかったはずだが、それは来訪者ビジターのみの話し。

 現地人ローカルズの中にはプレイヤーを余裕で超える実力者がいる。

 例えばセバスを筆頭にシュバルツ家で働く人たちは軒並み実力者である。


「しかし、困ったな」

 どうにも入る雰囲気ではなくなってしまった。


「んっ? あっ、あんさんは……どうもお初にお目にかかります。ぼくは鍛治工房至高の一振りの会長やっとります、スメラギいいます。ささっ、どうぞ中へ」

 先程までの男女2人に見せていた威圧的な態度が嘘のように俺に低姿勢で話しかけてきた。


「えっ……」

「ウチにようがあるんやないですか?」

 まぁ、店の前で立ってたらわかるよな。

 それにしても会長だったのか。

 俺は案内され店の中へ入っていく。

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