49話 精霊刀
村では精霊祭の結果がよかったとどんちゃん騒ぎだ。
精霊祭の間中も飲んで食べて踊ってだったのに、それ以上に盛り上がっている。
数十人しかいない小さな村で歓喜の笑い声が響く。
「クロツキ様、ありがとうございました。まさかここまでしていただけるとは夢にも思っていなかったです。これで来年も憂いなく暮らすことができます」
「なんとかなってよかったです」
ほとんど成り行きではあったが無事依頼を終えた俺は村長の勧めでお酒をいただいている。
もちろん、つい先日のことも考え嗜む程度に抑えるつもりだ。
「実は村を捨てる覚悟もして領主様に相談していたんです」
「ですが、精霊の加護は一年と聞きましたが」
良くも悪くも一年経って次の精霊祭が始まればそれまでの結果は流れる。
よっぽど精霊を怒らせて精霊祭すら開かれないほどのことをしなければそんなことにはならないと聞いている。
天候によっては不作の年だってあり、作物のお供えができないことは珍しくないはずなので疑問に思ったが村長が答えてくれた。
「私どもが精霊を祀っている祠があるのですが、それが賊の手によって破壊されていたのです。村ができるよりも遥か昔からある祠でしたので先人が精霊と結びつけただけなのかもしれませんが、事実は分からなかったものですから。もし、本当に精霊を祀っていたのなら、と最悪の事態を想定していました。今回の精霊たちの様子からも無関係だったようですので一安心です」
「では一体何が祀られていたんでしょうか?」
地域ごとに何かが祀られるのはよく聞く話だ。
この世界はそういった存在が実在する。
村長のいうように精霊が祀られたり、土地神が祀られたりしているわけだ。
「それは分かりませんが、特に変わった様子はなかったので大丈夫かと思います。すでにどこかに行ってしまったのかもしれませんね」
「イヴィルターズはどうしてそんな祠に行ってわざわざ破壊したんでしょうか?」
祠は村から離れた森の中にある。
たまたま見つけて破壊するかな。
イヴィルターズの連中なら大いにありそうな気もするが。
「もしかしたら力が手に入ると考えたのかもしれません。あぁいった古くから伝わる祠や遺跡なんかではスキルやアイテムが授けられることもあるので」
その代表的なものが試練のダンジョンだろう。
踏破すれば力が手に入る。
俺も実際にサンドロ地下迷宮でスキルやアイテム、称号も獲得している。
気にはなるが、イヴィルターズの考えなんて分からないし、分かりたくもない。
もう、済んだことだし、お酒もいい感じに入ってきてどうでもよくなった。
そんなことよりもこの精霊刀の方が気になる。
かぼちゃやズッキーニの精霊からすると刀でも俺にとっては小刀のようなものだ。
ただし、今の状態では機能していないらしい。
-精霊刀-
精霊の加護がないため力を発揮することができない。
この刀を渡してくれたズッキーニナイトが加護をつけてくれればよかったのに、という簡単な話ではないらしい。
こういった精霊由来のアイテムは本来、精霊から気に入られたときに貰えるもので、その精霊の加護と共にアイテムが渡される。
精霊が気にいるということは相性がいいというわけで、相性が悪ければアイテム使えないし、そもそも気に入られることもない。
この精霊刀を貰った経緯は特殊で別に俺が気に入られたわけではなく、お詫びとして譲り受けただけ。
つまり、新たに精霊を見つけて加護を授けてもらわなければいけない。
非常に残念ながら今のところ精霊刀はお蔵入りだ。
影の小窓へそっとしまう。
「英雄様、そんなところでなにをしんみりとしてるんですか、さぁさぁ飲みましょう!!」
村人に誘われ宴は翌朝まで行われた。
§
ジャンヌが酔ったクロツキにドラゴンを頼まれた翌朝のこと。
ジャンヌはドラゴンを入手するべく手配をしていた。
断らなければいけなかったにも関わらず挑発されつい熱くなり受けてしまった。
その瞬間は大勢に見られていたし、一度受けたものを実はダメでしたなどシュバルツの名に泥を塗るような真似はできなかった。
しかし、それでも簡単にいく問題ではない。
「すまぬがそういうわけでドラゴンを
「ジャンヌさん、またですか?」
「そこをなんとか、お主にしか頼めんのじゃ」
「社長に確認をとってみてからですよ」
「さすがはたぬきじゃ」
なんとか通話先の相手との会話を終え、背伸びをして椅子に深々ともたれてだらんと座る。
そこに普段のお嬢様然とした雰囲気はない。
「はぁ、どうしてこんなことになったんじゃ。貸しばかりできるなど恐ろしいわ」
「全てお嬢様の撒いた種ではないですか」
セバスは顔を俯けるジャンヌへ呆れ顔を向ける。
「まさかこんなことになるなんて思わんじゃろ」
「これに懲りたらもう少し落ち着いた姿を見せていただきたいですね」
実はクロツキが酔っぱらって暴走した背景にはジャンヌの影響が大いにあった。
妙に真面目なクロツキの違う側面を見ようと企み、そこでとった手段が酔わせるというなんとも古典的な方法でクロツキに渡すお酒だけ度数の高い特別なものを混ぜていた。
クロツキの暴走している様子を録画しながら作戦通りだと内心でニヤニヤしていたら、ドラゴンを渡すことになっていた。
断りきれなかった理由の一つに自分が酔わせたからというのもあったがもう一つ負い目があった。
ジャンヌは村での戦闘を監視していた。
もちろん現場で直接ではなく、モニター越しにリアルタイムで見ていた。
録画もしていた。
それを動画に流したら思いのほか拡散されてしまった。
どこからどう見てもジャンヌの自業自得。
扉が叩かれメイドからクロツキが来たと告げられる。
まずは謝罪をしようとした矢先、クロツキが飛んだ……
「申し訳ありませんでした」
ジャンピング土下座に圧倒され、そこからは終始クロツキのペースで謝る隙を与えてくれずヒコ村へと行ってしまった。
「謝罪はまた後日にしようかの……」
「そうですね」
いつもは冷静沈着で何事にも動じないセバスでさえもクロツキの土下座には圧倒されていた。
「我も練習しておこうかの……あれ」
謝り慣れているジャンヌを持ってしてもジャンピング土下座などという必殺技は持っていない。
これは使えると閃いたが、セバスに灸を据えられるのだった。
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