48話 正々堂々
光り輝くパンプキンヒーローが登場し、光が剣を作る。
両手に持った剣だけでなく、空中にも3本の剣が浮いている。
「とうっ、とうっ、とうっ!!」
同時に5本の剣を相手にしなければいけないわけだ。
それも宙に浮いている3本はヒーローが操っているわけではなく自動で動いている。
ヒーローの意識の外から不意打ちしようとしても見事に防がれる。
それと短い間ながら怠惰の魔眼についてもある程度わかった。
集中すれば景色がスローになり、集中が途切れれば効果が消える。
慣れは必要だがオンオフもできる。
これでさっきのように使いすぎで脳と目に負荷をかけることなく立ち回れる。
しかし、埒があかない。
ヒーローの攻撃は鋭いが怠惰の魔眼を駆使すれば避けるのは難しくない。
問題は攻撃面であまりにも隙がない。
常に2本以上が守りに徹しているせいで不用意に攻撃を仕掛けると防がれて反撃されてしまう。
「頑張れヒーロー!!」
「もう時間がないですよ……頑張って!!」
「負けるんじゃねぇ」
マージ、プリースト、ファイターは手を出してくる気配はなく、完全に観客になっていた。
「頑張れ、クロツキ様!!」
「負けるな!!」
「もう少し粘れば終わりだよ」
村人は俺を応援してくれる。
なんだよ、まるでヒーローもののショーでもやってる気分だ。
「さすがだな英雄クロツキ、精霊剣舞を使ってここまで粘られるなんて」
「次で決着をつける、全力でいくからな」
「っ!? 時間稼ぎはしないのか?」
「するつもりはない、行くぞ!!」
精霊祭終了まで粘ればいいと村人は思っているが、勝負が始まる前にヒーローは満足させてみろと言った。
つまり、勝ち負けよりもヒーローを満足させるのが優先だ。
この展開で時間切れを狙うなんてないだろ。
光の剣は刃が潰れた剣とは違って殺傷能力が上がっている。
一つ間違えれば死ぬ。
まぁ、最悪俺が死んだとしてもヒーローが満足すればそれでいい。
簡単にやられるつもりないが。
「行くぞ!!
「精霊剣舞・星の瞬き」
今までで最も鋭く速い攻撃が左右と上の三方向から同時に襲ってくる。
剣が届く寸前で急停止する。
行くぞとは言ったが馬鹿正直に正面衝突する気はない。
あくまでも全力で勝ちに行く。
3本の剣が空を切る。
そして、急停止から一気にトップスピード、2本の剣は不意打ち対策なのか常にヒーローの斜め後ろで待機していた。
正面からなら間に合わないはず。
だったが、2本の剣の切先はこちらを向いていた。
時間差攻撃だった。
ここまで攻撃に参加していなかった剣が最後の最後で襲ってきた。
中々やるな、相手を油断させておいて隙をつくなんて意外と気が合うかもしれないな。
心臓と肺に光の剣が刺さる。
狙いもえげつない。
こういう場合、心臓と頭を狙いがちだが、頭への攻撃は最小限の動きで避けられる可能性が高い。
心臓と足への攻撃もなくはないが、次で決着をつけると言った以上、足への攻撃は殺傷力がなさすぎる。
そうなると最も動きが少ないかつ、殺傷力に優れる動体への同時攻撃。
「やった!!」
俺を刺した光の剣はすぐに気づいてヒーローの元へと帰ろうとしている。
しかし、残念ながらヒーローは俺がやられたと思っているようだ。
背後にいる俺に気がついていない。
「残念、それは影だよ」
「あっ……」
ヒーローも刺した俺が偽物だったと気づいた。
「負けた……僕の負けだ……」
めちゃくちゃ落ち込んでるけどよかったんだよなこれで。
負けた腹いせに村を滅茶苦茶にするとか洒落になんないぞ。
俺はもう全てを出し切った。
勝てたのはヒーローに対人経験が少なかったからなんとかってとこなんだ。
そもそも、観戦してる3人が加わっていれば負けていた。
「いや……まだだ、正義のヒーローが負けるわけない」
雲行きが怪しくなってきた。
どうする、この距離ならワンチャン攻撃を仕掛けても……
いや、厳しいか、光の剣が定位置に戻ってしまった今簡単に防がれるか。
「坊っちゃま、お戯れもその辺で」
「ズッキーニナイト、どうしてここに?」
颯爽と現れたズッキーニ頭の精霊。
見て分かる、強いやつやん。
「そこの御仁、坊っちゃまが迷惑をかけたようですな。大変申し訳ない。この村には最大限の加護を約束いたしますのでご容赦を」
「あー、こっちはそれでいいけど、大丈夫?」
後ろでヒーローはやる気満々だ。
それに呼応して3人もやる気を出している。
「坊っちゃま、これ以上問題を起こすようでしたら母君にお願いしてピーマンの刑にしていただきますが……」
「むっ、そっ……そんなヒーローらしからぬ行動はしないよ、なぁみんな」
3人がコクコクと頷く。
精霊祭の間中、村周辺を覆うようにしていた淡い光が一層強く光出して消えていった。
「精霊祭もそろそろ終わるし僕は帰る。また遊ぼうな英雄クロツキ」
ヒーローが消えて、追いかけるように3人も消えて残るはズッキーニ。
そのズッキーニは深々と頭を下げて謝罪を述べてくる。
「この度は本当に申し訳ございませんでした。実はあのお方はさる高貴な方の御子息でして、平にご容赦の程をお願いいたします」
「こちらは村の作物が豊作になってくれるなら大丈夫です」
「それはもちろんでございますが、それだけでは精霊の名折れ、この刀をお受け取りください」
ズッキーニが腰に下げている刀を半ば強引に渡してくる。
「ではありがたく」
「受け取っていただきありがとうございます。それでは私はお暇させていただきますので」
ズッキーニも消えた。
こう急に静かになられると寂しくなるな。
なんにせよ無事、依頼達成……でいいんだよな。
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