47話 ヒーローに憧れる

 かぼちゃたちは格好こそお遊戯会だったが、村人が緊張していた理由が分かった。

 かなり強い。


「乱刀・斬」

「なんのこれしき」

 パンプキンヒーローがおもちゃのような剣で俺の唯一の攻撃スキルを難なく弾く。

 イヴィルターズを倒してレベルも上がっているはずなのに押されてる。


「悪かった、本気を出さないのは失礼だな」

「むっ、負け惜しみか?」

 一対一の正々堂々の勝負を仕掛けてきているパンプキンヒーローに全力を出さないのは失礼だ。

 まぁ、それだけが理由ではないが。


「本気で行くぞ!!」

「かかってこい!!」

 白骨の仮面を被り、恐怖のオーラをばら撒く。

 熟練度が上がったおかげで恐怖のオーラは発動しただけで恐怖を感じさせられるようになった。

 攻撃を当てるとさらに追加で恐怖状態にできる。

 しかし、これは非常に見た目が悪い。

 暗殺者装備一式は黒で統一されているし、骸骨の顔した男からやばいオーラが出てるなんてダメだろ。

 向こうがヒーローならこっちは完全に悪役って感じだ。

 若干、村人も引いてる気がする。


「いいなそれっ!!」

 俺の本気の姿に一番興奮していたのは敵対するはずのパンプキンヒーローだった。


「英雄が闇堕ちとはワクワクするな」

 妙に人間かぶれしてるな、この精霊は。


「みんな、フォーメーションを組め!! 力を合わせて戦うぞ!!」

「「「おーーー」」」

 なるほど、こういう展開でお馴染みの悪役1人対正義側複数人ってやつね。

 その後も死闘は続いた。


 パンプキンマージが氷魔法を放ってくる。

 それを躱すとパンプキンファイターが先回りしてパンチやキックを仕掛けてくるので躱しながら紫毒のナイフで切りつける。

 ファイターらしい強固な肉体でかすり傷程度しかダメージを与えられないが毒にすることができた。

 使ってるナイフ2本も中々に見た目にインパクトのある悪役仕様になっているな。

 隠者のイメージ的には仕方のないような気もするが。


 パンプキンプリーストがファイターにかかった毒を解毒する。

 ついでに傷もなくなりバフがかけられ、恐怖に対する耐性もつけらている。

 俺の戦闘スタイルとは相性の悪い回復役のプリーストから落としたいが、ファイターが邪魔をするし、そうでなくてもマージの魔法による弾幕を掻いくぐらなければいけない。

 それにマージは魔法による防衛もできる。

 マージかプリーストに攻撃が通りそうになると氷の華の形をした魔法がナイフを防ぐ。

 パーティ構成が互いを完全に補完しあっている上に連携の練度も高い。

 唯一の救いはヒーローが後ろで何かの準備をして、今のところは戦闘に参加してないところか。

 いや、準備が終われば絶望的なことを考えると多少は無理しなければいけない。

 多少?


 なぜ多少のリスクなんだ?

 まだ心の中で相手を甘く見ているんじゃないか。

 それともこれが誰の命もかかっていないからこんなにも焦っていないのか。

 かぼちゃたちは強い。

 イヴィルターズの幹部たちよりも強いんだぞ。

 はぁ……自分が情けなくなる。

 本気を出すといってこの体たらく、これじゃあダメだろ。

 もっと集中しろ。

 この勝負には村人の生活がかかっているんだぞ。


 精霊祭にごく稀に姿を見せるかぼちゃたちは人間への憧れが強く、特に悪と戦う正義のヒーローになりたいと思っているらしい。

 強い相手を見つけては勝負を挑み、かぼちゃたちが満足のいく勝負ができなければそれまでの精霊の印象は一切関係なく翌年の豊穣は見込みがなくなる。

 逆に満足させれば豊穣が確約される。


-インフォメーション-

怠けの眼が怠惰の魔眼へとランクアップします。


 脳内に突如アナウンスが流れる。

 何がトリガーになったのかは分からない。

 ランクアップしますと、確定なのだから俺に選択肢はない。

 怠けの眼は脳の処理能力を上げることにより周りがゆっくり動いてるように見えるスキルだ。

 それが怠惰の魔眼になってどうなるかだ。

 マイナスにならないことを祈るのみ。


「これは?」

 すぐにスキルの力を実感することができた。

 周りの景色がゆっくりになる。

 しかし、俺はスキルを使っていない。

 怠けの眼はスキルを発動しないと効力が発揮されないアクティブスキルだった。

 それがランクアップしたことにより常に効力が発揮されるパッシブスキルになったのか。

 それならかなり強力なスキルになってくれた。

 一気に片をつける。


「敏捷向上、器用向上」

「くっ、急に動きが……」

 ファイターの横を駆け抜けるその一瞬で数発切りつけた。

 ダメージは少ないから目眩しには十分。

 プリーストに近づこうとすると無数の氷柱が襲ってくる。

 これを全て躱して近づくのは今の俺には無理だ。

 躱せるギリギリまで近づき、影の小窓から投げナイフを取り出してマージに投げる。


「うっ……」

「マージ、大丈夫!?」

 器用向上を使用したおかげで投げナイフの精度が上がった。

 3本のナイフを同じ射線上に投げることにより第一のナイフが氷の華にひびを入れ、第二のナイフがそれを壊し、第三のナイフがマージの肩に当たる。

 すぐにプリーストが回復に入るが、その一瞬の隙をついて距離を詰め、マージとプリーストを切る。

 人間なら死んでもおかしくない深さで首を切ったが精霊はまだ生きている。

 精霊に急所、例えば首や心臓を攻撃しても死ぬことはない。

 ダメージは他の部位よりも大きく入るがそれだけだ。


 追撃を仕掛けようとしたときだった、脳に電気が走るような痛みを覚える。

 その痛みは目にも襲ってきた。

 攻撃?

 いや、それらしき感じはない。

 これは怠惰の魔眼の副作用か?

 脳と目に負荷をかけすぎたってことなのか。

 景色が元の速度で動き出す。


「みんな待たせたな」

 ヒーローの体が光り輝いていた。

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