46話 精霊祭

 精霊は姿形だけでなくその性格も千差万別であった。

 ヒコ村はイヴィルターズに田畑を荒らされ、備蓄していた作物も食い尽くされている。

 精霊祭で作物を納めれなければ来年の実りは厳しいものとなるだろう。

 それどころか最悪の結果、田畑が使い物になるかもしれない。

 精霊を怒らせてそうなった土地が実際にあったため村人たちの空気は重かった。

 しかし、精霊祭が始まって数日経ちその顔にも活気が戻ってきている。


 精霊の中には野菜を納めないことに激怒しイタズラを仕掛けてくるもの、呆れて何もせず帰ってしまうものもいたが村長曰く、結構な数の精霊が残ってくれたようだった。

 クロツキは初めて見る光景に目を奪われていた。


「幻想的な景色ですね」

「本当はもっと凄いんですが、今年は半分程度ですな」

「それは、眩しくて前が見えないのでは?」

 今でも色とりどりにチカチカと光り輝いているのにこの倍となると眩しすぎる。


「それが精霊の力なのでしょうか、不思議と見えるんですよね」

「なるほど」

「これだけの精霊が残ってくれれば来年は問題なさそうです」

「それは良かった」

 クロツキがジャンヌから受けた依頼は精霊から村を守ること。

 そして癇癪を起こした精霊が村を破壊して二度と住めないような土地に変えるのであればその精霊をこらしめるのがドラゴンの条件に出された依頼だった。

 こらしめるとは柔らかな表現で端的にいえば殺せということだ。

 しかし、精霊は死んでも少ししたら復活するし、精霊からすれば殺されることは気にするほどのことでもない。

 意外と精霊と来訪者はの性質は似ているためこの世界の住人は受け入れやすかったのかもしれない。


 ここに現れる精霊は害がなさそうで手のひらサイズの精霊ばかりだが、気をつけなければいけないのは、精霊の中には天変地異を起こすものもいる。

 流石にそのレベルの精霊とは戦闘しても勝てるわけないが、それなりに気合を入れてきたというのに肩透かしだった。

 大したことも起こらずにのんびりと精霊祭を楽しんでしまっている。

 こんなんでいいのだろうか?


「最終日か……結局精霊祭を楽しむだけだったな」

 ドラゴンか……

 この依頼が終わればとうとう手に入る。

 未だにドラゴンを獲得したなんて来訪者は見たことも聞いたこともない。

 一緒に戦闘をする、ドラゴンに乗って空の散歩、ドラゴンの背を借りて昼寝、想像するだけで楽しそうだ。


「クロツキ様、精霊祭も後数時間、何事もないようですのでお酒でもどうですか?」

「いやぁ、盛大なフラグを立ててくれますね」

 戦闘の可能性があるのだからお酒を我慢していた。

 隣で楽しそうに飲む姿を見て自分だけが我慢するのは中々に辛かった。

 しかし、シュバルツ城での失態を思い起こせば、スッと心が冷えて欲望が霧散する。


 ……!?


「どうやら本当にフラグを回収したようです」

「どういうことでしょうか?」

 村長は気づいていないが、場の空気が変わった。

 ほのぼのとしたものから一転、張り詰めた緊迫感が村に漂っている。


「村長、大変です!!」

 それを証明するように村人が駆け込んでくる。

「とにかく落ち着け、何があったというのだ?」

「あいつらが現れました」

「まっ、まさか……あいつらか!?」

「はい、あいつらです」

 村長も男もかなり慌てている。

 一体何がきたというのか?


「失礼ですが、何があったんですか?」

「そうですね、見たほうが早いかもしれません。ついてきてください」

 村の外れで村人たちが集まっていた。


「みんな、クロツキ様が来てくれたぞ!!」

「英雄様ならなんとかなる」

「お願いしますクロツキ様」

 俺が来たことで村人のボルテージが上がる。

 道が開いて進んでいくと精霊? らしきものが4匹地面に立っていた。

 まぁ、おそらく精霊なんだろう。

 それぞれ服装は異なるが全員が目と口が彫られたかぼちゃを被っている。

 体が30センチほどでかぼちゃもそれくらいの大きさ。


「おいっ、人間ども、せっかく新しい装備を揃えようとしたのに野菜がないとはどういうことだ!!」

 剣を持ったかぼちゃが何か怒っている。

 そのかわいらしい姿や子ども声のせいで緊張感に欠ける。

 それに剣の刃は潰されていた。

 まるでお遊戯会のようだが、村人は緊張してるので精霊なのは間違いないだろう。

 どうするのが正解なのかと困惑していると村長が前に出る。


「大変申し訳ありません。今年は納めれる作物が少ないのです」

「ふーん、ということはわかってるよな」

「こちらに英雄様がおられます……」

「なにっ、英雄だと!? 嘘だったら承知しないぞ」

「真実でございます」

「プリースト頼む」

「はい」

 法衣を着たかぼちゃがこちらをじっと見ている。


「ヒーロー、本当に英雄よ」

「そうか!! よし、ならばヒコ村の英雄……えっと……」

「クロツキだ」

「ヒコ村の英雄クロツキ、我らにその力を認めさせれば豊穣を約束しよう、ぼくは精霊の英雄、パンプキンヒーロー」

 剣を掲げて名乗りを上げたパンプキンヒーローに後ろのかぼちゃたちも続く。


「百の魔法を操り敵を殲滅するパンプキンマージ」

 ローブに杖を持ったパンプキンマージ。


「どんな傷も癒やし仲間を守るパンプキンプリースト」

 おそらくさっき俺を鑑定か何かで英雄と判断したパンプキンプリースト。


「鍛え上げた肉体で立ちはだかる困難を突破するパンプキンファイター」

 武道家の格好のパンプキンファイター。


 セリフ回しがより一層お遊戯感を強くしているが、村人の視線的にも付き合わなければいけないんだろうな。

 かぼちゃたちと村人の視線が俺に集まっている。


「ヒコ村の英雄クロツキ、いざ尋常に勝負!!」

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