45話 隣村
レストリア近郊は大自然に囲まれた土地で点々とある村々はその恩恵を大いに受けているといえる。
ここらに限った話ではないが大自然には往々にして精霊が介入している可能性が高い。
良い精霊もいれば悪い精霊も存在している。
ヒコ村の隣村でのこと。
隣といってもいくつもの山を挟んでいるため距離的にはかなりある。
イヴィルターズリーダーのイーブルがクロツキに討たれたニュースは来訪者だけでなく現地人、特に被害を受けていたレストリア近郊農村部にすぐに伝わった。
被害を受けていても国がなかなか動かず、泣き寝入りするしかなかった農村らには吉報である。
しかし、本当に安心かといわれればそうではない。
来訪者は死んでも蘇る。
短い間の平和が訪れたというのが現地人の認識である。
それにイヴィルターズはメンバーも多かったが傘下のような組織がいくつかあった。
中には実力者もいたが傘下に甘んじていたのはイヴィルターズにブランド力があったからだ。
しかし、それもクロツキによって壊滅させられたことにより地に落ちた。
傘下はちりじりになって好き勝手に暴れまわるようになってしまった。
もともと、そういう目的でイヴィルターズについていたので当然の帰結ともいえる。
「フェイ、この裏切り者め」
「弱い者イジメしかできないあなた方にほとほと呆れた果てただけですよ」
「ガハッ……」
手刀で心臓を貫かれた男は光の粒子に変わる。
ほかにも30人ほどいたあらくれ者が1人の牧師服の男によって殲滅された。
「それにしても敗北した私を散々煽っていたやつらがクロツキに壊滅させられるとは滑稽ですね」
「ぼっ、牧師様ありがとうございます……これで村に平和が戻ります……」
村に住む男は案内人として血生臭い現場に同行したのを後悔していた。
あらくれ者の中には現地人も混ざっていて死体がしっかりと残っている。
「当然のことをしたまでですので、お気になさらず、さぁ村の皆様に真実を伝えにもどりましょう」
フェイの細い目がしっかりと男を捉える。
男はあらくれ者と内通して、おこぼれを懐に収めていた。
これが村に知らされればどんな仕打ちを受けるかわかったものではない。
フェイが背を向けた瞬間に飛び掛かかった。
§
「申し訳ありません、大したもてなしもできず」
「いえいえ、こんなご馳走をいただけるだけでありがたい」
「うち自慢の野菜ですから」
簡素な木造建築の家、肉少しに大量の野菜が並べられた食卓。
村の村長宅で夕飯にお呼ばれしたフェイは村長と娘、その孫と食事をしていた。
村長の妻は病で亡くなっており、娘の夫はとある貴族。
詳細を話そうとはしないが貴族に目をつけられ数年世話になったそうだが邪魔になり捨てられたそうだ。
たしかに村長の娘は顔立ちは美人で貴族に目をつけられるのも分からなくないが、服装や髪の毛などはぼろぼろだった。
これは仕方ないことだ。
風呂などなく、現代とは程遠い生活水準ではこれくらいが普通なのだ。
貴族制度が一般的な社会において農民の階層はかなり下に位置し、それが垣間見える。
しかも、レストリア領主は平民にも優しく税もかなり軽いものとなっている。
それでもこの生活水準。
「やはりそうですか……」
フェイからことの顛末を聞いた村長は項垂れる。
男が怪しいと思っていたが、信じていた。
しかし、村に害をなす盗賊の類に手を貸していたと聞いてショックを隠しきれない。
小さな村では家族ぐるみの付き合いが当然で男と村長は数十年、村で共に過ごしてきた。
「牧師様にはご迷惑をおかけしました」
「牧師様はいつまでここにいるんですか?」
暗い雰囲気を切り裂くように明るい声を出すのは村長の孫だ。
「そうですね、特には決まってないですね」
「ずっとここにいればいいじゃん」
「そうだよそうだよ」
孫は全員で3人、何事にも好奇心旺盛でフェイのような外からの人間に非常に興味を持つ。
「こらこら、牧師様を困らせちゃダメよ」
立ち上がってフェイの服を掴む娘を母親が行儀よくなさいと引き剥がす。
「そうだ精霊祭を見ていけばいいよ」
「精霊祭?」
「一年に一度この時期に精霊に感謝を込めてその土地でできた作物を納めるのです。そうすることで来年もまた精霊のお力で豊作にしていただけるという祭りです」
「それは少し興味がありますね、外部の人間でも参加できるものなのですか?」
「精霊は非常にデリケートなので本来はダメなのですが、牧師様にはこの村をお救いいただきました。私が許可を出すので問題ございません」
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「やったーーー」
「すんごい綺麗なんだよ」
「そう、ちかちかするの」
「それは楽しみですね」
それから数日後、日が落ちてから精霊祭は始まった。
村人から始めるのではなく精霊から接触がある。
それもものすごくわかりやすい。
村全体が淡い光に包まれてそこらかしこに精霊が現れる。
空を飛んでいるものもいれば土を駆けるものなど、姿形は千差万別である。
お供えとしてこの村でできた野菜やお酒を置けば少しずつ減っていくのがわかる。
幻想的な光景が一週間続いた最終日、完全に懐かれた孫3人を足元に光が薄れていくのを眺めていた。
そんな中突如指に違和感を感じる。
一匹の精霊が指にキスをして笑いながら消えていった。
「すげーーー、精霊に認められたんだよ」
「さすが牧師様です」
「やったやった!!」
いつの間にか指輪がはめられ、称号『精霊に認められし者』を獲得していた。
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