二章

44話 宴の翌朝

 宴から一夜明け、目を覚ますとベットの上にいた。

 見覚えのない部屋、ふかふかの高級布団、天井にはシャンデリア、壁にはよくわからない絵画が飾られている。

 高い確率でここはシュバルツ家のどこかだ。

 昨晩の記憶がほとんどない。

 ルキファナス・オンラインに熱中しすぎたせいか、ここ最近は寝不足の日が続いていた。

 そんなところにヒコ村襲撃事件があり、イヴィルターズを壊滅させて村人の救出に成功したが、考えさせられる一件でもあった。

 お酒を注がれるままに飲んで飲んで、そしてここに運ばれたと……

 微かにだが記憶も蘇ってきた。


 ジャンヌがワインを楽しみながらヒコ村の村長と今後について話してあっていた。

「村長、税については当分は必要ない、田畑にも相当な被害が出ただろうからな」

「ありがとうございます。貯蓄していた農作物もやられてしまいましたのであれには間に合わないです」

「だろうな、あれらはその土地の精霊であるからして、別の地域で育った作物では満足せんからな」

「そうなりますと、来年からの実りも厳しくなってしまいますし、一応はギルドに声をかけてはいるのですが……」

「もう一つの選択肢か、して返事は」

「芳しくはないです」

 何やら難しいことを話していたようだが酒で頭も回っていなかったしよく分からなかった。

 そこは別にいい。

 問題はその後なのだ。


「クロツキ、宴は楽しんでおるか?」

 グロッキーな俺に突如話が振られた。

「あい、しょれはしょれは……楽しんでむしゅ…」

「……うむ、まぁ楽しそうで何よりじゃ。ところで英雄殿に一つ頼みがあるんじゃが」

「なんでしゅかぁ?」

「ヒコ村に再び危機が迫っておるんじゃ」

「はぁ……しょれで?」

「もちろん報酬も用意しよう。ちなみにだがそなたは何を望む?」

 時間と共に記憶が鮮明に蘇ってくる。

 確実に黒歴史になるだろう最悪の記憶。


「どらごん……」

「はっ?」

「どらごんがほしい」

 このときの俺は何を思ったか、ドラゴンは浪漫だなんて沸いた発想が突如脳に落ちてきたわけだ。

 おそらくはグランシャリアからレストリアに来るときに乗った黒竜の存在がでかかったんだと思う。

 たぶん……

 酔っ払いの思考なんて何がどうなってるかわからない。


「ド、ドラゴンか……!? しかし、それは……うーむ」

 ジャンヌは困惑した表情をしながら悩んでいた。

「あーあ、できないのかぁ。天下のしゅばるつ家様でもどらごんはむりなのかぁ」

 恥ずかしい……

 どらごんはむりなのかぁ、じゃねぇんだよ!!

 そんなわけがないだろ、執事が乗ってたんだから用意しようと思えばできるに決まっている。

 ジャンヌが迷っていたのは俺なんかに渡してもいいかどうかだろう。

 ジャンヌはれっきとした貴族、それもかなりの権力を持つであろう貴族なのだ。

 その場で首を落とされてもおかしくない失礼な俺にジャンヌは答えた。


「なっ、なんだと……いいだろう。そこまでいうなら用意してやろうではないか」

 そこまでがなんとか思い出せるギリギリだ。

 とりあえずベッドから起きて廊下に出てみる。

 さすがはゲーム世界、二日酔いはないんだな……

 いや、でも無礼講のときはあった。

 となるとレベルが上がって耐性が上がったかだ。

 とにかく、頭が冴えているだけに昨日の出来事は心へのダメージがでかい。

 できれば忘れたままでいたかった。


「おはようございます、クロツキ様。ジャンヌお嬢様はこちらでございます」

 廊下に出るとメイドが待機していたようでジャンヌの元へと案内してくれる。


 廊下を数分歩き……ってどんだけ広いんだよ。

 ここまで来ると不便しか感じないだろ。

 ジャンヌがいる部屋へ辿り着く。

「ジャンヌ様、クロツキ様をお連れしました」

「入っていいぞ」

「失礼します」

 俺は扉を開けてすぐさまジャンヌの位置を確認。

 ジャンプして空中で正座の姿勢を整えジャンヌの目の前で着地からの額を床に押しつける。

 開口一番のジャンピング土下座。

「申し訳ありませんでした」

「あっあぁ、まぁそんなに気にするな。昨日は無礼講といっただろう……ところでドラゴンの件なのだが……」

「本当に申し訳ありませんでした。もちろん無理なのは承知していますし、ヒコ村での問題、不肖クロツキ尽力させていただきたい所存です」

「いや、ドラゴンなら問題ないぞ」

「えっ……!?」

「まぁ、もちろんヒコ村のことは任せるが、そなたならそこまで難しくもないじゃろうからな」

 顔を上げると困惑したジャンヌの顔があり、後ろで控えるセバスはにこやかに笑っている。


 どうやら本当に許してくれたようだ。

 ただの悪戯好きな貴族ではなく心が広いタイプの貴族だ。

「何か失礼なことを浮かべておらんか?」

「いえいえ、滅相もございません」

「まったく、妾が諸々の手続きを済ませたのじゃからな、感謝しておくように」

「もちろんでございます、ジャンヌお嬢様」

「ふんっ、いつも通りにしておれ気持ち悪い」

「はい、調子に乗ってすみませんでした」

 ドラゴンなどの危険指定モンスターの受け渡しは色々と問題があるらしいが、昨日の今日でジャンヌはそれを解決してくれたらしい。

 ちなみに時刻はとっくの昼過ぎで

 ルーナとリオン、村人は朝には行動を開始してそれぞれ出発したってさ。

 昨日の黒歴史に追加で1人だけ昼過ぎまで爆睡するという汚点まで追加された。

 汚名返上すべくジャンヌからの依頼を完遂せねば、そして今後はもう少しお酒を控えて睡眠時間を多く取ることを心に誓った。

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