43話 計画

 ジャンヌがやりたいといえば炊き出しから豪華絢爛ビュッフェスタイルの宴会に早替わりだ。

 まずメイド達の手によっていくつかの円卓が並べられていき、上に高級そうなテーブルクロスが敷かれる。

 食事形式は立食のなので基本的に椅子は用意されていないが座りたそうな人がいればメイドが察して椅子を持ってくる。

 各円卓の中央で巨大な肉の塊が存在感を示しそのサイドにお洒落な料理が並んでいく。


 セッティングされた会場を満足気に眺めていたジャンヌが俺を手招きする。

「ふふんっ、どうじゃクロツキ、すごいもんじゃろ」

「そうだな、なんといっていいか……」

 あまりにも現実離れした貴族の遊び。

 まぁ、実際に現実ではなくゲームの世界なんだが……


「まだ暗い顔しとるのか、お前は村人と話し合うべきじゃな、立食で会話もしやすいじゃろ」

 随分と気を遣われたものだ。

「まぁ、我は酒が飲みたかっただけじゃがな、なっはっはっは」

「こっちの飲酒は何歳からなんだ?」

「…………」

 可憐な少女は慣れた手つきでワイングラスを回す。

「なっ、何を言っておるんじゃ、そんなもの妾なのだから飲んでいいに決まっておろう……さっ、さぁ皆のもの、今夜は無礼講じゃ〜〜」


「リオン、元気そうだな」

 つい数刻前まで監禁されていた少女は巨大肉を片手に豪快にかぶりついている。

「元気も元気だ。それにしてもすげぇなこれは……」

「リオンはしたないよ、クロツキさんお疲れ様です」

「あぁ、おつかれ」

 ルーナが恭しく頭を下げる。

 馬車で多少は会話したのに随分と他人行儀な挨拶だ。

 あれかな、俺も社畜時代に経験したことがある。 

 飲みの場での接待……

 面白くもない話を聞いて大袈裟にリアクションをして場を盛り上げる。

 あれはなんとも辛かった。

 ルーナもこういう飲みの場が苦手なのかも知れない。

 こういうときはあまり話しかけず、適切な距離を取るのが一番だ。


「おーーい、何をお通夜みたいにしてんだよ。私が気になること聞いてやる。クロツキは何歳なんですか? 彼女はいるんですか? 年下に興味はあるんですか?」

「リオン、そんな失礼なこと聞いちゃダメでしょ」

「なんだと〜、姉ちゃんが気になるって……」

「リオン……」

「じょっ、冗談だよ」

 リオンは巨大なジョッキを飲み干していて顔が真っ赤だ。

 ルーナも顔を赤くしているし酔っ払ったんだな。


 ふらふらなリオンを介抱するということでルーナがどこかへ引っ張っていく。

 1人残された俺は現実に目を向けることにする。

 背けてはいけない、正面から向き合わなければいけない現実。


 村人は歌え踊れよのどんちゃん騒ぎ。

 大人は全員ができあがっている。

「きましたきました村の英雄殿のご到着だ」

「さぁさぁ、これを持って飲んで飲んで」

 ジョッキを渡されてなぜか飲まされる。

 味の方は絶品だが楽しむ余裕なんてない。


 俺のことを受け入れてくれるがどうにも乗り切れない俺の顔を見てママさん集団が俺を囲む。

 その中にはあの2人の母親、夫を亡くした奥さんもいた。

「あんたのおかげでみんなで笑ってられる。子供も無事だった。旦那もあんたには笑っていて欲しいと思ってるはずさね」

「でも……」

「でもなんだってんだ。あんたはよくやった!! 顔を上げな。さぁ、弔いの意味を込めて今日は飲み明かすんだよ!!」

「「飲むよーーーーー」」

 ママさん集団がジョッキを空に掲げると村人たちも一層と盛り上がる。

 そしてママさん集団に気にするなと背中を叩かれて喝を入れられた。

 強いな……

 あぁ、少しだけ楽になった気がする。

 その後も宴は朝方まで続けられた。



§



 ルキファナス・オンライン、特別サーバー室で骸骨が仮面に浮かぶ数字を前に頭を抱えていた。

「社長、これでは王国と帝国が強すぎて他との差がありすぎます」

「くぅぅ、なら他の国に介入しよう」

「それはリスクが高すぎると思いますが」

「くっ、ならほかのメンバーに助力を求めよう」

「すでに拒否されています」

「そっ、そんな……我って社長だよね」

「任せておけと言い切った社長に非があるかと思いますが」

 1人の女性は顔色一つ変えずに淡々と真実を告げる。

 その間も同じ顔の他の女性は画面を前に仕事を続ける。

 女性は五つ子というわけではない。

 本体は一人でドッペルゲンガーをモチーフにキャラメイクされている。

 アナザルドでは全員が好きなようにキャラメイクしたキャラクターで仕事をしている。

 社長の骸骨もそういうことである。


「だってさ、ヴェルヴァがやられてどうするか考えてたらこれだよ、次から次に面倒ごとが襲ってくる」

「後、数ヶ月は期間があるはずですから全力で準備してください」

「まぁ、ある程度のプランはできてるんだけど、四神の獣相手じゃあ、今のままではキツすぎるよね」


 頭をフル回転させているところに今会話をしている女性とは別の女性が報告を上げてくる。

「社長、ブンブクさんからツクモシステムについての計画変更の資料が送られてきています」

「ツクモシステムは全面的にブンブクさんに任せてあるからなぁ、あっ、でもこれはナイスかもしれない。オッケーって言っといて。全体の微調整はブンブクさん任せでってのもね」

「では、ブンブクさんの裁量に任せると回答しておきますよ」

「はい、お願いします」

 骸骨の眼窩に灯る光は画面に映るイーブルとクロツキの戦闘を捉えていた。

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