42話 弔いの祭り
目を開けて体を起こすと馬車の中にいた。
ルーナとリオン、セン婆もいる。
「ありがとう」
「安全装置が作動したんですか?」
「あぁ、そうみたいだ」
「ぷっぷっぷっ、安全装置を作動させるなんてイカレタ奴だな」
「リオンっ!!」
「でも、そのおかげで村の人たちが助かった、サンキューなクロツキ」
リオンが照れ隠しに下手な口笛を吹きながら感謝を伝えてくる。
「そうです、本当にありがとうございました」
「いやいや、みんなのおかげだよ」
1人ではまず不可能だった救出劇、なのにニュースには俺1人の手柄のように書かれていた。
それを話すと2人は別にどうでもいいらしい。
それにその手のニュースは一度出回るともう消すことはできないし、多くの人も100%信じて読んだりしないとのことだ。
つまりそこまで気にしなくていいという事実に安心した。
-インフォメーション-
スキル熟練度が規定値達成かつ三次職へ転職したことにより虚の心得がランクアップできます。
ランクアップしますか?
-インフォメーション-
スキル熟練度が規定値に達しました。
なお、特殊スキルのため敏捷向上は失われません。
ランクアップしますか?
-
常にAGIが上昇した状態へと至る。
スキルポイントをAGI以外に振るとスキルが消滅する。
スキルセットから敏捷向上を外すとスキルが消滅します。
常に敏捷向上を発動させた状態という極振り専用スキル、しかも敏捷向上は残るという破格のランクアップ、今後もAGI以外に振る予定もないし、あったとしてもとりあえずランクアップして損はない。
俺は迷わずランクアップを選択した。
領都レストリア、シュバルツ城に帰ってくると村人が一区画でかたまって食事を頬張っていた。
数日間まともな食事をできていなかったはずだ。
一心不乱に食べている所へ近づいていくと、俺に気づいた村人から歓声が聞こえてくる。
「クロツキ様ありがとうございました」
「クロツキ様のお陰で子どもも無事でした」
「村の英雄だ!!」
食事を横に置いて頭を下げたり、拍手をしたりと様々だが、誰もが俺へ感謝の意を示してくれる。
「兄ちゃん……」
少年2人がゆっくりと前へ出てくる。
その子は地下牢で俺にイヴィルターズをやっつけてくれと頼んできた子どもとイーブルに立ち向かっていった子ども。
よく見ると2人の顔が似ている。
「こいつから話を聞きました。すみませんでした!! ほらっ、お前も謝れ」
「ごめんなさい」
弟の方は目から大粒の涙を流しながら頭を下げている。
「気にしなくていいよ、2人が無事そうでよかったよ……」
俺は逃げるようにその場を後にした。
2人の顔を直視すことができなかった。
決して犠牲がなかったわけではない。
どう接すればいいのか、彼らの父親は亡くなったばかりなのだ。
ジャンヌへの報告に向かう。
「クロツキには随分な借りができてしまったな」
村人が食事をする横で優雅に紅茶を飲む少女には執事かメイドしか近づかない。
その中でも常に側で控えているのはセバスだけだ。
こちらの世界の一般人からすれば貴族は雲の上の存在なのだろう。
「助けれなかった命がある」
「その顔はそういうことか……気にするななどといっても意味はないのだろう。恥ずかしい話じゃが国が動くまでに後数日は必要じゃった。その間に何人の犠牲があったか分からない。しかし、お前の尽力によって大勢の命を助けたのも事実じゃ、胸を張れクロツキ、村人にとって英雄なのだ」
「……ですね」
「それに主らの世界では珍しいかもしれんが、この世界では珍しくもない。モンスターに殺されることもあれば盗賊や山賊、はたまた悪徳領主に殺されることもしばしば……」
どこかで割り切らなければいけない。
頭では分かっていても簡単にできるものではない。
ジャンヌはあぁ言うが、今回の事件は来訪者が起こしたことだ。
少しずつ自分の中で消化していくしかない。
ジャンヌが席を立つと酒の入った人間も嘘のように静かに耳を傾ける。
「我が領地を救ってくれた英雄に恩賞を授ける」
一瞬の静寂の後、歓声が響く。
「リオン様、前へ」
セバスに呼ばれてリオンが前に出るがその表情は緊張している。
意外な一面だ。
「敵に捕まりながらも村人の盾となり、さらに情報を得たことは今回のヒコ村奪還の大きな力になったことは言うまでもない。そして最後の詰めの部分ではよくぞ成功させた」
「ルーナ様、前へ」
「超遠距離から村全体に届く緻密な魔力コントロールを駆使しての魔法でのサポート、戦闘においても敵の首魁の1人を落とす活躍も見事じゃ」
「クロツキ様、前へ」
「今回の件での最大の功労者は間違いなくそなたじゃ。特に妾から何か言う必要もなかろう」
ジャンヌが村人を見るとそれに応えて歓声が湧き上がる。
「ここからはかたいことなしの宴じゃ!! 酒と食事をじゃんじゃん持ってくるのじゃ。宴じゃうたげ〜〜〜」
セバスが恭しく頭を下げて音もなくその場から消え去った。
城の中からメイドがワゴンを押してきて宴のセッティングを始めている。
メイドや執事が機敏に動いているが異常な光景だ。
AGI極振りの俺が目で追えない動きでみるみるうちに会場の準備がされていく。
死者を弔う祭りがある。
規模や慣習は地域によって様々だがここら一帯では死者が出れば飲んで食べてどんちゃん騒ぎで死者を弔うらしい。
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