31話 ダンジョンクリア
ギリギリだった……
辛勝も辛勝、一つでもピースが欠けていれば、地下迷宮で多くのスケルトンを倒してレベルアップしていなければ、スカル屋でスキルを獲得していなければ、相手が油断していなければ勝つことはできなかった。
「……シャル……ロッテ……今そちらに」
崩れさるヴェルヴァの眼窩の奥に負の色はなく、悠久の果てに忘れていた愛すべき人たちを思い出したのか暖かなものに変わっていた。
シャルロッテという人物も大事な人だったのだろう。
目と目が合う。
「……天……に気をつけ……」
何かの警告だったのだろうか。
残念ながら明確に聞き取ることはできなかった。
いずれにしても終わりだ。
-インフォメーション-
ダンジョンボス踏破おめでとうございます。
ダンジョン外へ転移を開始します。
頭の中にボス踏破のアナウンスが流れ、突如目の前の景色が変わる。
「……っう、眩しっ」
灯りの少ない地下から外に転移したために太陽がやたらと懐かし眩しく感じる。
視界も慣れてくると何もない空間に宝箱が現れた。
これが試練のダンジョンクリアのボーナスアイテム。
宝箱は本人にしか開けることは叶わず、有用なものしか出ないとの噂だ。
宝箱に手を触れると自ずと開く。
中には一振りのナイフ。
握った瞬間にこのナイフは俺のためのものなんだと分かるほどに手に馴染む。
そして再び頭にアナウンスが流れ始めた。
-インフォメーション-
功績によって報酬が与えられます。
小刀『刹那無常』を獲得しました。
スキル『怨恨纏い』を獲得しました。
称号『不死殺し』を獲得しました。
「オウカ、俺は少し休んでから街に戻ろうと思う」
「私も」
終わったと思ったら急に疲れが襲ってきた。
それに獲得した報酬の確認をしたいと思うのは当然のことだろう。
-不死殺し-
不死を冠する特定モンスターへの攻撃が強化される。
不死を冠するとはつまるところアンデットのことだろう。
オーバーロードは死を超越した存在の意があったし、そんな存在を倒して獲得したのだからそういうことだ。
ただ、称号は一つしか設定できないので悩みどころ。
安定を求めるなら冒険者、格上相手なら大物喰い、人間相手なら同族殺し、そしてアンデット相手ならこの不死殺しか……
まぁ、一長一短だしケースバイケースで使い分けるのがいいだろう。
-怨恨纏い-
一定時間、その場に渦巻く怨恨をその身に受けてステータスを上昇させる。
なんともおどろおどろしいスキルだこと。
安直にアンデットらしいといえばその通りだが、ステータスアップのスキルはあればあるだけいい。
バフの重ねがけは戦闘において非常に重要な位置を占める。
そして次は今回の報酬の中で最も俺が欲していたであろう能力を持つ武器。
-小刀『刹那無常』-
一刹那一瞬毎に変化する世において変わらぬものはない。刹那無常による攻撃も同じく恒常的なダメージを許さない。
なんだか難しい説明ではあるが、ようは防御貫通に近い能力を持っている。
恒常的とはダメージ0が続くのはダメですよということだ。
つまりダメージ0が出たあとは必ず0以外のダメージになるということ。
俺にとっては例え少量でもダメージを与えることに意味がある。
今までは相手の防御が高ければ何発攻撃しようとも倒せない、いわゆる詰みの状態があったがそれがなくなる。
それにダメージが与えれれば状態異常にかけることだってできる。
1人で興奮してると横から声がかかった。
「ありがとう、お陰で勝てた」
「いや、俺の方こそ大満足の結果だったよ」
オウカはどんな報酬だったのか聞いてみた。
鎧装『餓者髑髏』、フォメレスの奥の手がそのまま装備になったらしい。
鎧をサポートする装飾品でこれを装備した状態で鎧巨人を顕現させると鎧を纏った餓者髑髏が顕現される。
装備しているだけでも耐久力が上がる上に追加効果で周囲の怨念を魔力に変換することができる。
こちらの追加効果の方がオウカにとってありがたそうだ。
獲得したスキルは『不動の心』、その場に停止することで魔力回復速度が上昇し、精神状態異常耐性が上昇する。
こちらもオウカの生命線である魔力を確保するようなスキルになる。
称号は俺と同じ『不死殺し』だった。
やはり全てがオウカに有用で腐らない報酬ばかりだ。
お互いにダンジョン報酬の報告をして、俺がそろそろかと腰を上げるとオウカが俺にまだ座ってろと地面を叩く。
「どうしたんだ?」
「きた……」
前から普通の倍はある巨大な黒馬にひかれる馬車が近づいてきて目の前で止まる。
「はいはい、えろう待たせてもうてすんません」
「ナイスタイミング」
「そらよかった、ところでそちらのあんさんはどちらさんやろか?」
「クロツキといいます……」
手綱を引く女性はおしとやかそうな美人なのに関西弁でグイグイとくる。
「さよか、ウチはオウカたんと同じ修羅の
「……よろしくお願いします」
切長の目がこちらをじっと睨みつける。
「コトが来たんだね」
「堪忍してやオウカたん、ウチが来ないわけあらへんやろ」
「クロツキをアルムニッツまで送ってあげてよ」
「へぇ、呼び捨てなんや……ウチは全然かまへんけど、くろつきはんはそれでええの?」
凄い睨まれてる気がするけど、オウカは一緒に乗る気満々だしな。
「送ってもらえるならお願いします」
「ふんっ、ほなさっさと乗りや」
荷台に乗ると中は思ったよりも広かった。
馬車とはいえ魔法の存在する世界であればこそ、現代にある車なんかよりも快適に移動ができる。
アイテムポーチにも使われている空間拡張魔法がかけられているらしい。
しかし、ポーチは生物を入れることができない。
荷台にかけられている魔法の方が上位であるといえる。
ただし、この規模の荷台となるとかなり高級なアイテムでなかなかあるものではない。
「ええやろこの馬車、このレベルはなかなか乗れるもんやないで、くろつきはんはラッキーやったな」
「そうですね、ありがとうございます」
「感謝はオウカたんにな。オウカたんが嫌ゆうたら今すぐ叩き出せるんやけど」
怖っ、目が本気すぎる。
叩き出されるのが怖いのではない。
オウカへの愛が怖い。
「ダメだよコト、クロツキのおかげでダンジョンクリアできたんだから」
「……マジっ!? オウカたんが苦戦してたダンジョンを……二人きりで……吊橋効果で……いや、まさか……」
なにやら湖都はぶつぶつ言いながら上の空になっている。
こんな状態で運転は大丈夫なんだろうか。
悪い予感的中だ。
「おいっ、前からアルム猪の群れが突進してきてるぞ」
運が悪いな、アルム猪はこの周辺では滅多に出ないはずなのに。
「なんやねん……なんやねん……なんやねん……」
湖都はどう考えても正気じゃない。
あーマジでやばいかも。結構な速度出てるけど飛び降りれるかな。
横を見るとオウカは一切焦る様子がなく首を横に振って座れと促してくる。
「あーーー、ウチは今すこぶる機嫌が悪いんや。八つ当たりや、八つ当たりや、イコちゃん、やったってや」
湖都が奇声を発しながら指示を出すと馬の頭部に二本の巨大な角が生えてくる。
「ヒヒーーーーン」
黒馬が大きいとはいえアルム猪はさらに倍ほどの巨体を誇っている。
しかし、正面衝突して吹き飛ぶのは猪の方だった。
猪に振り向きもせずそのままアムルニッツへと進む。
スピードもかなり上がっているはずなのに、荷台はほとんど揺れることがない。
二本の角を生やしてからあっという間にアルムニッツにたどり着いた。
「また何かあったら連絡して、大体ここにいる。ここにいなかったら適当な人に言ってくれればいい」
「あぁ、ありがとう」
修羅の拠点を教えられても寄ろうとは思えないが……
ギリギリギリギリ……
「クゥゥゥゥ」
声にもならない音を発する湖都の横で冷静にオウカは手を振りながら去っていった。
うん……
今日は宿に帰って早く休もう。
名前:クロツキ
種族:人間
称号:冒険者
職業:暗器使い(Lv19)
Lv:29
HP:480
MP:48
STR:39
VIT:39
INT:39
DEX:68
AGI:116
SP:0
武器:紫毒のナイフ、小刀『刹那無常』
防具: 隠者のローブ、隠者の手袋、隠者のズボン、隠者の靴
スキル
隠密、敏捷向上、器用向上、虚の心得、暗器術、不意打ち、怠けの眼、恐怖のオーラ、乱刀・斬、怨恨纏い
所持称号
冒険者、同族殺し、大物喰い、不死殺し
経験職
隠者(Lv10max)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます