30話 ヴェルヴァ

 スケルトンオーバーロード・ヴェルヴァ、こっちがオーバーロードならオウカが戦闘をしていた奴はなんだ?

 オーバーロードを名乗っていたし、試練のダンジョンの力で奴がオーバーロードというのも確認した。


 現在オウカと戦闘中のスケルトンを見る。

 すると向こうもオーバーロードだったようだ。

 スケルトンオーバーロード・フォメレスと頭に浮かぶ。

 まさか二体のオーバーロードが組んでいるとは。

 オーバーロードといえばアンデットの中でも上位に位置するモンスターだ。

 それが二体も。


「ヴェルヴァ様、こちらはすぐに終わらせますので、少しだけお待ちください」

 ヴェルヴァとフォメレスの関係性が垣間見える一言だった。

 フォメレスは雰囲気も言葉遣いも先程までとは変わっている。

 バレた今となっては影武者の役割も無意味というところか。


 ヴェルヴァの格好はナイフを持っていてアサシンに近いがさっきは杖を使っていて戦闘方法も魔法が中心だ。

 逃げながら魔法を放ってくる。

 しかし、闇槍ダークランスが俺の体に当たることはない。


「くっ……フォメレス、まだか……」

 後ろでコソコソと隠れている時点で薄々思ってだけど、ヴェルヴァはオーバーロードの風格が全くない。

 フォメレスの方が王の風格があった。

 しかし、実力は本物だ。

 俺との戦闘を継続しながらフォメレスへの援護も行なっている。


 つまりは俺が舐められている。

 このままじゃオウカに申し訳が立たない。

 恐れのオーラ、虚の心得を発動。


「乱刀・斬」

「くっ!?」

 ヴェルヴァは五つの斬撃を正しく避けたはずが傷を負ったことに驚いたらしい。

 高速で繰り出される斬撃の上に虚の心得で正しく把握できていない攻撃を避けれるはずがない。

 そして一瞬の隙はこの高速戦闘において致命的すぎる。

 追撃でさらに何度も紫毒のナイフを振るう。


 それでもヴェルヴァはギリギリ致命傷を避けている。

 しかし、傷を与えるたびに毒もしくは恐怖の状態異常が入る可能性が高くなる。

 手応え的にはかかっているはずなんだが、どうも効きが悪い。

 どちらもスケルトンに効くことはここに来るまでに証明されている。

 となるとレベルと職業が関係している。

 まずいな、時間がかかるかもしれない。

 このままいけば俺はヴェルヴァを倒すことができるだろう。

 ただし、それは一対一での話。

 オウカがフォメレスに敗れればその瞬間、勝ち目がなくなる。

 いや、落ち着け、焦る気持ちを抑えろ。

 決して相手に悟られてはいけない。

 オウカを信じてフォメレスへの援護をさせないことに力を割くべきだ。

 淡々と同じことを繰り返して圧力をかければいい。

 嫌だが、社畜時代を思い出す。

 心を殺して目の前にある仕事を無心でこなす。



§



 ありえない……

 こんなことはあり得ないはずだ。

 生前の記憶はない。

 あるのはスケルトンとして蘇ってからの記憶だけ。

 弱肉強食の世界で脅かされることなどなかった。

 なぜなら自分は強者で周りは弱者だったからだ。

 唯一といっていい相手はフォメレスが生きていた頃だろう。

 人間でありながら闇に魅了され力を求めて私の元へとやってきた。


 弱者の分際で強者である自分を配下にしようとしていたのはいただけないが、長い年月の中で多少は楽しませてくれた存在として殺した後に力を与えてやった。

 フォメレスを配下にしてからより盤石となった私の戦力を前にここに辿り着ける存在はいなくなっていた。

 いつしかフォメレスもオーバーロードへと進化を果たしたがその関係性が変わることはなかった。

 遊戯としてダンジョンを弄ってみたものの楽しめたのもはじめの数年間だけ。

 いつしかダンジョンは表と裏の二つに分かれ、冒険者たちは表の低レベルなスケルトンと対峙して一喜一憂する。

 私の存在に気づく冒険者は少なく年に数度くればいいほうだ。


 久方ぶりに現れた挑戦者は全身に紅蓮の鎧を纏った1人の少女だった。

 年齢に見合わずレベルが高いと一目でわかった。

 それでも私に気づく前にフォメレスに葬られる。

 不可思議であった。

 死んだはずの人間が光の粒子に変わるなど、私が地下にこもっている間に開発された魔法か何かなのか。


 そして少女は再び現れ、フォメレスの前で命を散らす。

 しかし、今回は私の正体に気づいたのかもしれない。

 自身の命を脅かす存在だというのに何かを期待してしまう。


 少女の三度目の来訪は仲間を連れてやってきた。

 少女は来る度に力をつけている。

 横に立つ男はそんな少女とは比べものにならないほど矮小な存在。

 気配も希薄でなんともつまらない男を連れてきたものだと嘆いた。

 少女が先頭に立ち男は後ろへ下がる。

 やはり足手まといでしかないようだ。

 なぜ連れて来たのか理解に苦しむ。


 それと同時に少女の力の上昇に久々に感情を高められた。

 それは異常といえるほどの力。

 なぜ短期間でこうも力を向上させられるのか。

 フォメレスを圧倒するほどの力を見せはじめたのだ。

 自分の援護がなければフォメレスでは敵わないだろう。


 少女の奮闘に久しぶりに私も直接戦闘に加わるかもしれないと心が昂る。

 このとき、すっかりと男の存在を忘れていた。

 全身に寒気が走り、その原因に目を向けると矮小だと思っていた男は私の存在を捉えて攻撃を仕掛けようとしていた。


 その男の攻撃を受ける度に失われた生前の記憶が呼び起こされる。

 長い年月で初めての経験。

 そもそも攻撃を受けることすら珍しい。

 思い出すのは生前の死の瞬間、なす術もなく強者に蹂躙される最後の記憶。


 矮小だと思っていた男の姿が大きく見え、体の動きが鈍くなる。

 この身になって初めて恐怖を知った瞬間だった。

 何かのスイッチが入る感覚とともに突如別の感情が沸き起こる。

 ありえない……

 こんなことはあり得ないはずだ。

 強者として君臨してきた私が恐怖を感じることなど許されるわけがない。

 数多の魔法を放つが当たる気配はない。


 それでも休むことなく打ち続けているとようやく魔法がかすり始め、ついには放った黒き槍が体を貫き、安堵を覚える。

 しかし、それは虚構のものだったと気づいたときには遅かった。


「フォメレス……!?」

「ヴェル……ヴァ……様、もうしわけ……」

 最も信頼できる配下の名前を呼び、目を向けると灰と消えていく最後の姿が目に映った。

 目の前の男との戦闘に夢中になって援護がおざなりになってしまっていた。


 私は全てを思い出して最後の攻撃を放つ。

闇槍ダークランス

 十本の黒槍が男めがけて飛んでいく。

 もはや当たったかどうかを確認することができなかった。

 目の前が真っ暗になり体が崩れていく感覚だけが残る。

 不思議と悪い気はしなかった。


「待たせて済まなかった。もうそっちに行くから……」

 シェリン、シャルロッテ、それにみんな。

 妻と娘、それに慕ってくれていた人々の元へようやくいける。

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