29話 餓者髑髏

 これがオウカの本気の戦闘か……

 間近で見ると凄まじいな。

 オーバーロードの召喚したスケルトンたちが紅蓮の炎に包まれた豪腕で片っ端から潰されていく。

 俺は巻き込まれないように遠くからその様子を観察するのが精一杯だ。

 しかし、これも作戦のうち。

 まずはオウカがスケルトンの数を減らしてオーバーロードに次の手を出させなければいけない。


闇槍ダークランス

「ヘビィアーマー」

 オーバーロードの闇の魔力で作られた三本の槍がオウカを襲うがヘヴィアーマーがそれを弾く。

 そして攻守逆転、今度は鎧巨人の豪腕がオーバーロードに殴りかかる。


骨壁ボーンウォール

 豪腕は骨の壁に阻まれるも召喚されたスケルトンはもう数えるほどしかいなくなっている。


「骨よ骨よ目覚めて踊れ、スケルトン召喚」

 しかし、オーバーロードの魔法で再びスケルトンが召喚される。

 さらにオーバーロードは詠唱を続けた。


「骨よ骨よせいうらやみ狂気せよ、『狂骨蔓延きょうこつまんえん』」

 スケルトンを闇の魔力が覆うと、白骨でできたスケルトンが黒い骸骨へと姿を変える。


「むっ、まだまだ……『豪炎解放ごうえんかいほう』」

 巨人の豪腕の炎が勢いを増す。

 尋常ではない熱気だ。

 強化されたはずのスケルトンが豪腕が振るわれる度に熱気を含んだ風圧だけで灰となって崩れていく。


「やるではないか小娘、これを使わされるとは思わなかったぞ」

 オウカが押しているように見えるが想定よりも時間がかかっている。

 凄まじい威力を誇っていてもオウカのスキルは燃費が悪い。

 鎧巨人顕現のスキルとフルアーマである忌火の守人の炎を纏うスキルの両方で魔力が必要になるらしい。

 忌火の守人の火力を最大まで上げた状態がどれだけもつか……


 懸念点はオーバーロードが余裕そうにしていることだ。

 ルキファナス・オンラインは来訪者だけが成長するのではない。

 現地人はもちろんモンスターも成長をする。

 前回、オウカと戦ったときからどれだけ成長をしているか。


 ここサンドロ地下迷宮は観光地のようになっていて攻略難易度はかなり低いだろう。

 それでも攻略に失敗する冒険者だっている。

 来訪者なら死んでも復活するしととりあえず挑戦してみることだってある。

 オーバーロードはそんな倒れた冒険者の経験値を得ている。

 そして自分たちは隠しダンジョンの最奥でひたすら隠れているのだ。

 オウカが隠しダンジョンを見つけなければどうなっていたことか。


 部屋の魔力濃度が一段と高くなった。

 オーバーロードの放つ闇の魔力が強くなっていっている。


「骨よ骨よその怨念を以て敵を喰らい尽くせ『餓者髑髏がしゃどくろ召喚』」

 オーバーロードの持つ特性の一つで負のオーラを自らの力に変える。

 スケルトンが倒されれば倒されるほど負のオーラは強くなり、より強い魔法が扱える。

 無数の骨が重なり合い巨大な一体の骸骨へと姿を変えていく。

 それはオウカの使う鎧巨人と同じほどのサイズ。

 ただ、鎧巨人は両腕だけで餓者髑髏は全身揃っている。

 質量の差は歴然。

 餓者髑髏と鎧巨人の豪腕が組み合って力比べを始めるが押され気味だ。

 この餓者髑髏こそがオーバーロードの切り札の魔法。


「むむむっ、やはり前よりも強くなっている……」

 やっとここまできたが持つのか?


「お兄さん、一気に行くから準備して」

 餓者髑髏と組み合っていた豪腕がオウカの元へと戻っていく。


「ハッハッハ、どうした諦めたか」

 オーバーロードの声が部屋に響く。


「鎧巨人:忌火の守人、顕現!!」

 鎧巨人の両腕から炎が噴き出して、炎が通ったところから鎧が構築されていく。

 肩、胴体と炎は伸び、最後に首元から炎が逆立つ。。

 あまりにも莫大な魔力を必要とするため滅多に使うことができないオウカの秘密兵器。

 それでも上半身の顕現が精一杯ということだ。

 鎧巨人の上半身は宙に浮いていて、下半身はないが、まさにオウカをそのまま巨大化させたような姿をしている。

 猛々しく燃え盛る炎を纏ったそれは炎の巨人と呼ぶに相応しい。

 鎧巨人は宙を浮かび餓者髑髏と力比べを再開させた。

 餓者髑髏の両手と組み合った瞬間に餓者髑髏の両腕が爆散する。

 そのまま顔を殴ると大爆発を起こし餓者髑髏の眼窩が大きく広がる。

 砕けた個所を修復するように餓者髑髏がスケルトンを吸収すと徐々に骨が再構築される。

 しかし、餓者髑髏の再生速度よりも鎧巨人の破壊力の方が上回っていて、餓者髑髏が次第に後方へと押されていく。

 ついにはその巨体が膝から崩れ落ちて、全身が散り散りと砕ける。


「バッバカな、我の餓者髑髏がこんな簡単に……」

 餓者髑髏を破壊した勢いそのままに鎧巨人は有無を言わさずオーバーロードを殴る。

 骨の壁が遮るように出現するが、なんの障害もないかのようにオーバーロードは鎧巨人の拳を受けて壁に叩きつけられ、その右半身が吹き飛んだ。

 それでもさすがは死を超越する存在というべきか、まだまだ倒れる様子は見られない。


「くっ……ここまでやられるとは予想もしなかったが、我は不滅の存在、不死の王なり、この程度で倒せるとでも思ったか」

 オーバーロードがスケルトンを強化したときのように今度はオーバーロード自身を闇の魔力が覆う。

 骨の色こそ変わらないものの、吹き飛んだ右半身は完全に元通りだ。

 オーバーロードは焦りなどなく負けるはずがないと不敵に笑う。


 見つけた!!


 スケルトンを強化した魔力はオーバーロードが放った魔力だった。

 しかし、このオーバーロードを回復している魔力は違う。

 よく観察すれば別の場所から供給されているのがわかる。

 二度の挑戦でオウカが敗れた原因はこれだ。

 ここからが作戦の第二段階であり、やっときた俺の出番でもある。

 魔力を辿ると部屋の隅、普通に見れば何もないように思えるが、俺の目には薄らと戦闘には一切参加せずにオーバーロードに魔力を供給している存在が見える。


 これは隠密?

 もしくはそれに近いスキルか魔法だろう。


 オーバーロードとオウカの戦闘の補助で相手はまだこちらが気づいたことに気づいていない。

 隠密、敏捷向上……

 気配を消して部屋の隅にいる骸骨に一気に近づく。

 さすがに相手も気づいたようで驚きながら逃げる。

 倒すことはできなかったが及第点だろう。

 オーバーロードに魔力を送っていた杖を破壊することができた。


 逃げた敵を追いかけるが相手と俺の速度はほぼ同等、いやギリギリこちらが優っているか。

 ステータスをAGIに振っていて良かったと思える。

 振っていなければ追いつけなかった。


 逃げれないと悟ったスケルトンの希薄だった気配が確かに感じられるようになったところで頭の中にそいつの名前が浮かぶ。


 スケルトンオーバーロード・ヴェルヴァ、試練のダンジョンのありがたい機能の一つでボスの名前が自然とわかる。

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