17話 森の中の洞窟

 森の中に冒険者から見向きもされないとある洞窟がある。

 敵として出てくるのはコウモリやトカゲのモンスターだ。

 ここの存在を知ったときはこれはまさかと驚いたほどのいい狩場であった。

 冒険者の多くが見向きもしないのはコウモリは素早い上に自由自在に空を飛び回って攻撃を当てるのが一苦労でトカゲも速い毒攻撃を繰り出す。

 面倒なことこの上ないモンスターだが、俺からすればむしろありがたい。

 このモンスターたちは厄介ではあるがHPが低く、紫毒のナイフを一撃でも当てれば簡単に毒で倒せる。


 しかも、多くの冒険者が避けるということはこいつらの素材が市場に回ってないということで他の同ランクのモンスターと比べて高値で取引されている。

 経験値も悪くないため、洞窟と冒険者ギルドを往復して、今もまさにトカゲを狩ろうとしているところだ。


 ただ、今回いつもと違うのはトカゲはトカゲでもユニーク個体が現れた。

 通常種はケイブリザード、体長は2メートルほどで洞窟に同化する茶色の皮膚に弱毒を吐いてくる。

 同化といっても目を凝らせば普通に見えるし、弱毒も躱せば問題にならない。

 それに対してユニーク個体のバジリスリザードの外見はケイブリザードと灰色の皮膚以外はほぼ同じ。

 弱毒も吐くし厄介そうなのが相手を見るだけで石化させる能力だ。

 目を合わせなければ大丈夫らしいからそこだけ気をつければケイブリザードと変わらないはず。


「グラァ、グラァ」

「おぉ、こっちは毒攻撃を二連射できるのか」

 ケイブリザードは一発撃てば次の攻撃までに時間が必要だったが、さすがは上位に位置する個体というわけだ。

 しかし、二連射といってもあまりにも遅い。

 これではコウモリの方が遥かに……

 そうそう競争すればこんな感じでコウモリが、コウモリッ!?


「危なっ」

 毒の影から三匹のコウモリがこちらを襲ってきた。

 ケイブバットは羽を広げても手のひらより少し大きい程度の小柄なサイズ。

 遠距離攻撃はなく、鋭く尖った爪と空中高速移動を活かしたヒットアンドアウェイを得意としている。


 カウンター気味にダガーナイフで一匹の羽を切り裂き、もう一匹にも紫毒のナイフで傷をつけた。

 羽を失ったコウモリはそのまま地面に落ちて絶命し、毒の回ったコウモリはふらふらと落ちていく。

 残るもう一匹はというとすでに俺の射程圏から距離をとっていたが、きっちりと視界に捉えている。

 攻撃の様子を伺うコウモリを目で追う。


「ちっ、やってしまった!!」

 迂闊にもコウモリを見ているとその後ろにいたバジリスリザードと目が合ってしまった。

 その瞬間に体が重くなる。

 感覚としてはルーナのデバフ魔法にかかったのに近いが、こっちは石化というだけあって特に各関節の可動域の動きが悪くなった。

 しかし、実際に体が石になっているとかではないらしい。

 事前に集めた情報では体の一部が石化するはずだがその傾向は今のところない。

 これは隠者の特性が発揮されているのかもしれない。

 隠者系統は状態異常に耐性がある。

 この程度なら気にするほどでもなく戦闘が継続できるというものだ。


 石化を受けたときは少し焦ったものの終わってしまえば楽な相手だった。

 ユニーク個体といってもこれなら茶マンキーの方が強い気がする。

 ちなみにマーシャルマンキーは毛の色で実力が分かる。

 一番下が白、そこから茶、黒、紅の順で実力が上がっていく。

 この近辺の森では白色と茶色しか基本的には出ない。


 倒したモンスターをポーチに回収して冒険者ギルドで査定してもらう。

 ギルドは相変わらずの盛況ぶりで人で溢れかえっていた。

「なぁ、そろそろ一つ上のクエストに挑もうぜ」

「でも危険じゃないかな?」

「多少のリスクがなんだ、俺はもっともっと強くなりたいんだ」

「あーしはリーダーに賛成するっす」

「仕方ないわね、分かったわ」

 3人組のパーティーがたまたま目に入り、その会話が聞こえてくる。

 どのクエストを選択するかを悩んでるらしい。

 安全をとって地道にいくか、リスクをとって近道とするのか。

 なんというかそんなやり取りから初々しさのあるいいパーティに見えた。


 俺は現在パーティを組んでいない。

 冒険者になった当初は色々とあったせいでパーティを組んでくれる人がいなかった。

 最近はその噂もほとんどなくなり組もうと思えばパーティも組めるが今度は別の問題が浮上した。

 俺の冒険者ランクはEランク、しかしこの街にいる多くの冒険者はGランクかFランクだ。

 レベルも周りと比べればかなり高い部類に入ってしまう。

 組んでも互いにメリットが少ない。


「わぁ、これを一人で倒すなんて相変わらず凄いですね。さすがはクロツキさんです!!」

 バジリスリザードを見て目を輝かせているのはギルド職員のフーラだ。

 何を隠そう俺のステータスを大声で喋って、良くない噂が流れる原因を作った張本人である。

 ただ、本人はおっちょこちょいな天然娘で悪気があったわけではない。

 あのときのお詫びだと素材がより高く売れるように奔走してくれたりなど、良くしてくれている。


「実はそろそろ次の街に行こうかなと思っています」

「……そうですか。そうですよね、クロツキさんはレストリアで終わるような冒険者じゃないですから、寂しくなりますけど応援してます!!」

「ありがとうございます。それで向こうの街にも話を通しておきたいんだけど」

「分かりました、さすがはクロツキさんです。明日中にはいい報告ができるように尽力します」

「いや、そこまで気合を入れなくても大丈夫」

「いえいえ、このフーラにお任せください!!」

「えーっと……ではよろしくお願いします」

 別に話を通さなくても問題ないが、こういうことをしていれば街に入るときの審査も少なくなるし、冒険者ギルドでもスムーズに活動がしやすくなる。

 それに宿をとってもらうことで向こうに着いてから宿探しをしなくてもいい。


「そういえばクロツキさん、ちょうどうってつけの良さそうな依頼があるんですがいかがですか?」

 フーラが提示してきたのは俺が通っている洞窟での依頼だった。


「あの洞窟での合同依頼か、まぁそこまで難しいものでもなさそうだし受けることにするよ」

「ありがとうございます。では準備ができ次第お呼びしますので少し待っていてください」

 洞窟の奥のモンスター討伐依頼。

 ソロでは難しいと判断してそこまでは潜ってなかったけど、パーティでなら大丈夫だろう。


-メタモルスライム・ロック-

擬態するだけでなくその硬度や性質をもあわせ持つメタモルスライムが岩石の多い環境で育った姿。

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