16話 暗器使い

「すっかり日が落ちてしまったな」

 狩りに夢中になりすぎて辺りは暗く、月明かりが微かに道を照らす。

 紫森蛇との戦闘もはや数日前、今は主な狩場を森の奥へと移して活動をしている。

 ただ戦闘に夢中になりすぎて時間を忘れるのを少し反省した方がいいかもしれない。

 新たな職業、スキル、武器と楽しすぎる。

 レベルが上がれば選択肢は広がり、より一層ルキファナス・オンラインの世界にハマってしまった。


「ウキウキッ、ウキキ」

「ウキャキャキャキャキャキャ」

 森の中に人を小馬鹿にしたような声がこだまする。

 現れたのは手足の細長い白色の猿とがっちりした茶色の猿だった。


 どちらもマーシャルマンキーというモンスターで肉弾戦を得意としている。

 白のマンキーは細長い手足を生かして左左右とコンビネーションでパンチを繰り出してくる。

 こちらがそれを全て避けるとハイキックから尻尾を地面に立ててバランスをとり、逆立ちしながら足と手を使って同時に攻撃してくる。

 中々にトリッキーなやつだ。


 躱して距離を取ったところに茶色のマンキーが横から飛んできて、どっしりと構え、地面を踏みしめて正拳突き、上段蹴り、さらに尻尾での突き、どれも一撃が重そうな攻撃を繰り出してくる。

 白マンキーとは違って王道スタイルのようだ。


 俺が暗器術を発動させると左手にダガーナイフ、右手に紫毒のナイフが現れる。

 素手だと思わせておけば意表をつくことができる。


-暗器術-

設定している軽量武器を別空間にストックして解放したり収納できる。

解放した武器は装備状態で現れるが、装備枠がない場合は解放できない。

収納した武器は装備枠から外れる。

設定:紫毒のナイフ、ダガーナイフ


 予め設定しておいた武器を出すこともできれば消すこともできるのがこのスキル。

 軽量の武器に限るがクールタイムも短く使いやすい。

 重要なのは出すだけでなく装備した状態で出すというところに意味がある。


 これは武器だけに限ったことではないが実は装備しているのと持っているだけというのには大きな違いがある。

 例えばただの尖った鉄と見た目同じな装備できる尖った鉄では性能に大きな差が出る。

 そして装備可能なものを持てば装備できるというわけでもない。

 装備品と合わせるのに時間がかかるのだ。

 装備によっても異なるが短くても数秒は必要になり、その時間は戦闘中であれば致命的になりうる。

 コロコロと装備を入れ替えることはできない。

 それを可能にするのがこのスキル。

 今は真に使いこなせてるかといわれると否になっしまうがそれでも優秀なスキルであることに変わりはない。

 ストック数が今は二つだが、スキルの練度が上がれば増えるらしい。


 ダガーナイフで正拳突きの軌道をズラして紫毒のナイフで斬りかかるが尻尾で弾かれる。

 かすり傷一つない。

 俺の攻撃力不足と柔軟かつ強固なマーシャルマンキーの毛のせいだな。


 茶マンキーの相手をしていると背後から白マンキーがかかと落としをしてくる。

 紫毒のナイフとダガーナイフをクロスさせて受け止める。

 細身なのに大した力だ。


「敏捷向上、器用向上、怠けの眼」

 持っているバフスキルを全て重ねる。

 敏捷向上によってスピードが上がり、器用向上でクリティカル率を上げ、怠けの眼で動体視力を引き上げる。

 この状態から繰り出すのは圧倒的なスピードによる手数。

 白マンキーも両手両足尾を使って巧みに防ぐ。

 ほとんどの攻撃がかすり傷も負わせられないが続けていると微かな傷が白マンキーの腕につく。

 クリティカルが出たようだ。

 数打てば当たりが出る確率も高くなる。


 徐々に傷が増えていくが白マンキーは気にする様子もない。

 それもそうだろう。

 傷といっても薄皮一枚程度のものだ。


 同じような繰り返しで白マンキーの攻撃を躱して俺は首を狙う。

 この攻撃で首に当たったとしても大したものではない。

 ほとんどの確率で無傷、良くても皮一枚切れる程度、それを分かっている白マンキーは警戒する様子もなく、とりあえず腕でナイフを受け止めようとする。


「虚の心得」

 受け止められるはずだった紫毒のナイフは腕をすり抜けて首に命中する。

 このスキルは防御だけでなく攻撃にも転用できる。

 そして首元へのクリティカルに成功した。


「ウキッ?」

「やっと出たか、隠者でAGI極振りだと戦闘時間が長引くな」

 首につけられた傷は今までと違って薄紫に滲んでいる。

 紫毒のナイフの効果でやっと毒状態にすることができた。

 といってもそれですぐに戦闘が終わるわけではない。

 茶マンキーもいるし、白マンキーもまだまだ戦える。


「ウキキ……」

 ただ毒状態にしてから俺はは回避に専念する。

 10分弱で白マンキーの足が止まり地面に倒れた。

 首から毒状態にしたことで巡りが早いのにこれだけ時間がかかってしまう。


 残る茶マンキー相手にも切れたスキルが戻るまで時間を稼いで同じように倒した。

 まぁ、さすがに警戒されて腕に傷をつけるのが精一杯で毒にしてから30分以上もかかってしまった。


 これが隠者が敬遠される理由であり、俺はSTRにステを振ってないのでより顕著になってしまう。

 これで武器がそこらの初心者用ナイフなんかだったら一体どれだけの時間がかかることか。

 それでも相手を置いていく感覚、一撃でも当たれば終わるという極限状態の中で集中力が最大限に高まりアドレナリンが湧き出るのはなかなかに悪くない。


 レベルアップで獲得したスキルポイントを即AGIに振る。


「ステータスオープン」


名前:クロツキ

種族:人間

称号:冒険者

職業:暗器使い(Lv8)

Lv:18

HP:280

MP:28

STR:19

VIT:19

INT:19

DEX:37

AGI:65

SP:0


武器:紫毒のナイフ、ダガーナイフ

防具: 隠者のローブ、隠者の手袋、隠者のズボン、隠者の靴


スキル

隠密、敏捷向上、器用向上、虚の心得、暗器術、不意打ち、怠けの眼


所持称号

冒険者、同族殺し、大物喰い


経験職

隠者(Lv10max)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る