15話 情報屋

「立ち話もなんだろ、中に入んな。私が情報屋だよ、適当にセン婆とでも呼んでおくれ」

 たしかに目的地はここであっているし入れという圧力を半端なく感じる。

 店の中は色々なアイテムが乱雑に置かれていた。


「でっ、なんのようだい? セバスのお使いだろ」

「お使いというか個人的な用事なんですが、情報が欲しいのと、ここにくればいい武器を見繕ってくれると聞ききました」

 まずはイヴィルターズについて聞いてみる。

 ルキファナス・オンラインの外、つまり現実世界で情報を集めてみたが主要人物の名前や性格、これまでの戦績などしか分からなかった。

 俺が欲しいのはこの世界での奴らの情報、相手もそんなこと承知でそれを隠している。


「さて、武器はもちろん情報についてももちろん無料ではないからねぇ、内容によっては高くつくよ。どんなことが知りたい?」

「イヴィルターズという集団について」

「予算は?」

「えっと、こういうのは初めてで、来たはいいものの勝手が分からないんですが……」

「はんっ、そうさね、できれば細かく聞いてくれた方が値段も掲示しやすいね、例えば構成人数だとか、拠点にしてる場所だとか、職業、スキル、装備についてなんかだね」

「構成人数と拠点だといくらぐらいですか?」

「銅貨一枚ってとこかね」

「では主要メンバーの職業やスキルならどうですか?」

「プラス銅貨一枚ってとこかね」

 およそ1万円か、これが高いのか低いのか分からないけど手が出せない金額じゃあない。

 懐的にも余裕はある。


「ちなみに武器を見繕ってもらうならいくらになりますか?」

「職業は?」

「暗器使いです」

「ステータスの振りは?」

「AGI全振りです」

「ふっ、武器になりそうな素材は持ってるかい?」

 セン婆が微かに笑った?

 AGI全振りがダメだったか。

 とりあえず俺はアイテムポーチから素材を取り出して見せる。


「見てやっておくれ」

 セン婆に声をかけられた大男は素材をじっとみる。

「これと、これを使ってもいいのか?」

「大丈夫です」

「なら銅貨8枚で毒のナイフが作れるがどうする?」

 約八万円、中々に高額だし素材も一角ウサギの硬角と紫森蛇の猛毒牙と珍しいものだ。


「よろしくお願いします」

「分かった、明日にはできる」

 そう言って大男は素材を持って奥へと行ってしまった。


「さて、イヴィルターズとやらの話に戻そうかね」

 俺は銅貨二枚を払って話を聞いた。

 イヴィルターズの構成員はおよそ50人、当初は20人弱だった数が最近は急激に増えたらしい。

 さらに中心メンバーについても聞くことができた。

 これで敵対することになってもそれなりに戦略は組みたてれる。


「しかし、そんな危険な連中のことを調べて復讐でもすんのかい?」

「何かあったときの備えです」

 備えとはいったものの敵対することはほぼ確実だろう。

 なぜならイヴィルターズは自分たちを舐めたと思った連中を見せしめにリンチするのが常套手段。

 流れだったとはいえ俺はイヴィルターズのメンバーを倒してしまった。

 目をつけられているのは間違いない。


「はぁ、あたしからは戦う気満々に見えるがねぇ、あんたら来訪者ビジターは命の価値を軽くみすぎるとこがあるね」

 セン婆の言葉は重みを持っている。

 プレイヤーは死んでもデスペナルティはあるものの生き返ることができる。

 それに比べて現地人ローカルズは死ねばそこで終わり。


「まぁ、口うるさくしても仕方なしか、血生臭いのはこっちもだからね。武器は明日以降に取りに来ておくれ」

「ありがとうございます」

 支払いを済ませて店を出ようとすると引き止められる。


「あぁそれと初回サービスで忠告しといてやるけど情報は金になる。気安く喋るもんじゃないよ。何か伝えなければいけないときは契約でも結ぶことをおすすめするよ」

「あっ……」

 俺は頭を下げて店を後にした。


 俺が職業とAGI全振りしたことを伝えたときにセン婆が笑ったのはそういうことか。

 こんな感じで情報は漏洩するんだ。

 これは迂闊だったかな。

 特にステータス振りは本人以外基本的に知る機会は少ない。

 情報としては結構な内容だ。

 この件は反省するとして他にも色々といい勉強になった。


 特に思ったよりも情報が安いのが気になったな。

 イヴィルターズのことを聞いてさらに中心人物については詳細なものまであったのにたったの2万円だった。

 いや、この世界で感覚が麻痺してるだけなのかもしれないけど。

 現実世界で2万円は結構な額か。

 向こうでも探偵に依頼して身辺調査なんてものもあるけどそんなもの使ったことも調べたこともないから相場なんて分からないし、こっちと向こうを一緒にするのも無理な話か。

 向こうだったら探偵が尾行や盗聴なんかをして結構な手間をかけて情報を集めるらしいけどこっちだったら魔法やスキルなんてものがあるからな。


 それ系のスキルもそんなに詳しいわけではないけど隠者からの転職のときにスパイや斥候があったため多少は調べた。

 恐らくはセン婆もそういう職業の人を使って情報を集めているのだろう。

 戦闘に飽きたらそういう店を開くのもありっちゃありだな。

 職業的にも転職は楽そうだし。

 まぁ、今のところは予定はないんだけど。


 翌日、注文していた毒のナイフを受け取った。

 見た目からして紫森蛇を思い出す毒々しい紫色の刃のナイフ。


-紫毒のナイフ-

紫森蛇の猛毒牙を基に作られたナイフ。

一角ウサギの硬角を砕いて混ぜることによりクリティカル率と毒付与率を上昇させている。

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