14話 転職

 俺は今、冒険者ギルドで頭を抱える問題に直面している。

 前に渡していたゴブリンが実はただのゴブリンではなく、ゴブリンバーサークという強力なモンスターだったらしい。

 さらに今回の紫森蛇を含めたモンスターを討伐したと認められて冒険者ランクが最低ランクのGランクからEランクに飛び級した。

 モンスターの死体は解体してもらい必要そうな素材だけを貰って他は売却した。

 結構な金額になったと思うがシュバルツ家の報酬に比べれば安く感じてしまう。


 冒険者ギルドに来る前にシュバルツ家を訪ねて今回はセバスに会うことができた。

 そこでノルマだった一角ウサギを倒したことを報告して銀貨1枚となんとスキルをいただいてしまった。


-なまけの-

一定時間、自身の視覚情報処理能力を上昇させる。


 簡単に言えば周りがスローモーションに見える強力なスキルでお金では計れない価値がある。

 ここまでは今までにないほどに幸運が続いている。

 では何に悩んでいるか。


 ズバリ転職先をどうするかの嬉しい悩みだ。

 今のところの選択肢は四つ。


-斥候-

AGI、DEXにプラス補正がかかり、探索能力に優れている職業。


-スパイ-

DEXにプラス補正がかかり、諜報能力に優れている職業。


-盗賊-

AGI、DEXにプラス補正がかかり、盗みや罠解除を得意とする職業。


-暗器使い-

AGI、DEXにプラス補正がかかり、多種多様な軽量武器を扱うことができる職業。


 斥候、スパイ、盗賊、暗器使いの四つになるのだが、悩んだ末ある一つに決めた。

 俺としては戦闘をメインにしていきたいと思っている。

 そうなると斥候とスパイは戦闘から少し離れてしまうので候補から外れる。

 盗賊だったリオンは戦闘をこなしていたが、実際の役割はダンジョン攻略のサポートだ。

 索敵から地図作成、罠解除、さらには戦闘も行うことができ、ダンジョン攻略する上でパーティに一人は欲しい職業だがソロの俺には適していない。

 将来的にはパーティを組むこともあるかもしれないけど、それがいつになるかも分からないので候補から外す。


 消去法で暗器使い一択だ。

 スキルポイントをINTに振っていれば忍者という選択肢もあったが気づくのが遅かった。

 まぁ、暗器使いに転職してからINTに振れば忍者に転職できるのだが、デメリットも大きいしそこまで忍者になりたいわけでもない。

 ということで暗器使いに決定。


-インフォメーション-

二次職、暗器使いへと転職しました。

ステータスが変更されます。

暗器使い初期スキル『暗器術』、『不意打ち』を獲得。


 さて、このままモンスター狩りに行くか、という衝動を抑えて、セバスに紹介してもらったあの店へ向かことにする。


「案内通りならこの先のはずなんだが……」

 ここにはあまりいい思い出がないな。

 そこは以前、セバスに頼まれジャンヌの落とし物を見つけた場所。

 アウトローな雰囲気漂う裏路地の先に目的地がある……はず。


 あのときとは違いそれなりに人がいる。

 スキンヘッドで片目が潰れた男、腕に刺青を入れてるが傷だらけでなんの模様か分からない男、妖艶すぎる雰囲気を纏う女など堅気には決して見えない裏の住人達が跋扈している。

 そいつらはあくまでも俺に興味がなさそうな態度をとりながらもこちらを観察している。

 余所者が何をしにきたと、カモがネギを背負ってきたぞと獲物として認識されている。

 それでも絡まれないのは周りとの駆け引きが行われているからであろう。

 ルール無用のような裏の世界は意外と暗黙の了解とやらが多い。

 しかしその時はとうとうやってきた。


「あっ!? お前はこの間の!!」

 口ぶりからして人形を持ち去ったときにいたんだろう男が口火を切ったせいで傍観していた周りの奴らが逃げ道を塞ぐように近づいてくる。


「おいおい、誰の許可を得てここを通ってんだ?」

 肩口が破られていて、肩にトゲトゲが乗っかっている男が先頭に出てきた。

 全員が剣やナイフで武装しているのに奇抜なファッションのせいでイマイチ緊張感がない。


「ちょっと用事がありまして……」

「そうか、ここを堅気が通りたけりゃ通行料がいるんだよ」

 男はサーベルを振り下ろしてくる。

 しかし、随分とゆっくりした攻撃だ。

 俺は軽く躱して首元にナイフを当てる。


「ひっ、いつのまに……」

 男に俺の動きは見えなかったようだが困った。

 戦闘は出来るだけ避けたい……

 目の前の変な格好の奴らは弱そうだが、見物してる人間の中に俺よりも格上そうなのが何人もいる。

 所詮、俺はまだ駆け出しの初心者なのだ。


「あんたら人の店の前で何を騒いでんのさ」

 店の中から魔女のような老婆が出てきた。

 後ろにヤバそうなクマみたいなでかい体格の男を連れている。


「セッ、セン婆さん、俺は堅気がウロウロしてたから注意しただけだぜ」

「はぁ……小銭稼ぎで殺されたら世話ないね、あんた悪いが離してやってくれないか」

 俺は突きつけたダガーナイフを下ろした。


「なんの用があってこんなとこにやってきたんだい? ここはそいつが言うように堅気が気軽に通っていい道じゃないさね」

「情報屋に用があってきました」

「ここらに情報屋は一軒しかないよ。それに表向きは情報屋じゃない。誰に聞いて来たんだい」

 セバスのことを話してもいいのか?


「……」

「ヒッヒッヒッ、まぁどうせセバスのジジイだろ? あんたらこの坊やは私のお客だよ。さぁ、入んな」

 どうやら知り合いのようだ。


「げっ、兄さん悪かったな、じゃあな」

 さっきまでの男たちは逃げるように何処かへ行ってしまった。

 見物人達までも蜘蛛の子を散らすように消えていく。

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