13話 PK
「
先に仕掛けたのはリオンだった。
スキルによりその速度はAGI全振りのクロツキに迫る勢いを見せる。
「敏捷向上」
落ち着いた声で静かにクロツキもスキルを発動、相手の仕掛けに合わせようとクールタイムが明けても発動をせずに温存していたのだが、発動後に感じたのは圧倒的な速度で相手を置き去りにする全能感ではなく気怠さだった。
体が重く、脳が命令を下してからのタイムラグがひどい。
これまでの戦闘なら敏捷向上を発動し、かつ回避に専念していれば当たる気配などなかったのに、それが今では辛うじてといったところ。
「姉ちゃん、効いてないぞ!!」
「そんな、ちゃんと発動してるよ」
クロツキとは違った意味で2人も困惑していた。
とっておきを使ったのにも関わらず攻撃が回避されるという異常事態。
さらに追い討ちをかけるようにスティールの効果が切れてダガーナイフがクロツキの手元に戻った。
「時間稼ぎは終わりだ!!」
やっと戻ってきた。
この気怠さはデバフだな、先に後衛から潰したいがこいつが邪魔か。なら先にこっちから潰す!!
リオンに狙いを定めたクロツキは速度ではなく、技でもって二人を翻弄する。
ルーナのデバフによってAGIが下げられた状態で重要になるのが虚の心得だ。
同系統であるということはリオンにも虚の心得は使える。
しかし、クロツキのそれは練度の違いから別物のスキルのように感じてしまうほどの効力を発揮していた。
「チッ、本当に一次職かよ!? そこら辺の二次職よりもやりづらいじゃん!!」
「リオンッ!?」
ダガーナイフがリオンの首を捉えようとするのを見てルーナは焦るが当の本人は何食わぬ顔で口角を少し上げる。
「はんっ、舐めるなぁぁぁぁ」
ダガーナイフは首に届く前にリオンのナイフによって大きく弾かれた。
「焦りすぎたか……」
手の痺れがリオンの放った攻撃の威力を物語っている。
ナイフを手放さなかったのは運がよかっただけだ。
隠者が不人気な理由の一つに敵を倒すのが遅いことが挙げられる。
ただでさえSTRが上がりづらい上に攻撃スキルが極端に少ないからだ。
「やっぱ、アウトローブレイク程度じゃあどうにもならないか、あんたの仲間がこそこそしてるからこれ以上手札を見せるのは癪だったんだけど仕方ないね」
「はぁ? こそこそしてるのはそっちの仲間だろ」
「あぁん?」
睨み合う2人の間にルーナが割って入る。
「ちょっ、ちょっとまってまって!! リオン、やっぱしなんか会話が噛み合ってないよ」
「どういうこと? こいつが持ってるダガーナイフは私の奴じゃん」
「このダガーナイフは俺がちゃんとしたルートで入手したものだ」
「うそだっ!! ダガーナイフはここらで簡単に入手できるもんじゃない」
「すみません、実は……」
2人がどうしてクロツキに襲いかかったのかをルーナが説明する。
この辺りでPKが出没しているのは事実ではあるが、しかし2人は被害者なのだと。
リオンのダガーナイフが盗まれ、偶然にもダガーナイフを使って活躍していたクロツキをPKの仲間だと思ってしまったとのことだった。
「じゃあ、あいつらは?」
「ふーん、私らが潰しあうのを待ってたって感じだね」
「仕方ない、やるか」
クロツキとリオンは頷きあって再びナイフをぶつけ合う。
先ほどまでとは打って変わって精彩を欠いた動きが目立つ2人を遠くから見つめる4人の男たち、その顔はどことなく満足気な笑みを浮かべていた。
「戦い始めて数十分、そろそろ疲れもピークだろう」
「そうっすね、お頭を待たせすぎると恐いっすから」
「タタキツブス」
「まずは俺が先制攻撃を仕掛けよう」
木の陰から男がナイフを構えて出ようとした瞬間だった。
「姉ちゃん!!」
「覆い隠せ、ダークミスト」
ルーナを中心に黒い霧が立ち込めてあっという間にクロツキとリオンも飲み込みさらに広がっていく。
「なんだ!?」
「視界が……」
「出てくるぞ!!」
「ミエ、ナイ」
霧から飛び出る二つの影が四人に襲いかかる。
「はっ、はやい!? さっきまでと……は……」
「くそっ……」
クロツキとリオンが2人を仕留め光の粒子が空気に溶けていく。
「舐めんなよぉ!!」
4人の中で唯一の隠者職だった男は霧の中の動きを察知して攻撃を交わしていたが、2対1では分が悪かった。
「あとはあいつだけか」
クロツキの視線の先には大男が呆然と立ち尽くしている。
大男は何が起きたかをようやく理解して大声を上げて暴れ出した。
「大丈夫、もう終わりだよ」
リオンの言葉通りだった。
ルーナの魔力が跳ね上がり雷が迸る。
それは大男を襲い周りの地面を焦す。
もちろん大男は無事であるはずもなく黒焦げになった。
「さすがは魔法使い、凄い威力だな」
「お粗末様です」
殲滅力なら魔法使いと言われるだけのことはある。
二次職でこれなら、極めれば都市一つを一撃で焦土にできるというはなしもあながち嘘ではなさそうだ。
「この度は本当にご迷惑をおかけいたしました。ほらリオンも」
「悪かったな」
「まぁ、今回は勘違いだったということだし、さっきの奴らが例のPKか」
「そうですね、プロゲーマーを中心にした有名なチームです」
「ちっ、群れなきゃなんもできない害悪どもが」
街へと戻って互いに知っている情報を交換しあってその日はお開きとなった。
イヴィルターズ、プロゲーマー5人とそのファンなどから結成された数十人規模のPKチーム。
他ゲームでも悪い意味で知名度が高く、厄介なのがトップ5人のゲームセンスは本物で熱心なファンたちの連携も抜群、組織だって荒らしを行なっても周りから潰されないだけの力がある。
今回、倒したのはイヴィルターズの下っ端だが目をつけられるのは間違いなく、面倒ごとに巻き込まれてしまったということだ。
ただ、下っ端の割には経験値が美味しかったな。
それと妙な称号も手に入った。
-同族殺し-
戦闘において相手が同族に近ければ近いほどステータスが上昇する。
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