12話 怪しい2人
紫森蛇を倒してご満悦で町に戻る途中だった。
若い女性二人に声をかけられる。
「ちょっとすみません」
「……? 俺ですか?」
周りを見ても俺以外にいない。
困惑していると1人がグイグイと近づいてきて腕を掴んで自身の胸に押し当てた。
「なっ!?」
慌てる俺をよそに、そのまま赤の強いオレンジ髪の女性は上目遣いで自己紹介を始めた。
女性との経験がないわけではない。
しかし、それは遥か昔のことで社畜と化してからはそんな暇あるはずがなかった。
一回りは年下であろう女性に積極的に来られてどうしていいか分からず、振り払うこともできずにその場に立ち尽くしてしまった。
「はじめまして、リオンっていいます!!」
押し当てられた柔らかいそれに顔を赤らめていると急な殺気を感じる。
「ルーナと申します。以後お見知り置きを……」
黒髪ストレートの女性が軽くお辞儀をして切長な目で睨みつける。
背中からゴゴゴゴゴという音ともに殺気がオーラのようになっているのを見て我に帰る。
怪しさ満点の2人が一体何を目的に近づいてきたのか。
「クロツキといいます。それでなにか?」
「遠目で戦闘を見てたんですけどすごいなぁって思って、良ければ武器を見せてもらえませんか?」
「武器ですか?」
「私も隠者なのでどんな武器を使ってるのか参考にしたくて」
リオンの服装はたしかに隠者のそれであった。
そして、ルーナはおそらく魔法使いであろうと推測する。
「ダガーナイフですね、これって二次職後半でやっと釣り合うランクの武器ですよね?」
「まぁ、随分とお世話になってるかなぁ」
「ちなみにお兄さんのレベルはいくつなんですか?」
「隠者Lv10に到達したところです」
職業にはそれぞれ職業Lvがあり、これらの合計値が総合Lvになる。
職業Lvは職業毎に最大Lvが異なり一次職なら最大がLv10となる。
職業が最大レベルに到達すると転職が可能となって次の職業へと至れるわけだ。
二次職ならLv20、三次職ならLv30、四次職ならLv40、五次職はLv50が最大レベルとされている。
一次職である隠者の職業Lvが10に到達して、これから転職をと考えているところだった。
微かな殺気!?
「ッ!? どういうつもりだ?」
腕に残る柔らかな感触、楽しみな転職と脳内お花畑だった思考が一瞬で戦闘モードに切り替わる。
それはリオンから発せられた殺気で先ほどのルーナが発していた殺気とは根本から違う。
その証拠に体をずらしていなければリオンの振ったナイフで首が落とされていた。
「チッ、運のいい奴め!! 姉ちゃん予定通りにやるよ」
「リオン、気をつけてね」
「分かってるよ、オラァ!!」
「PKかっ!?」
PKはプレイヤーキラーの略で本来のゲームの楽しみとは逸脱した行為を行う害悪プレイヤーのことだ。
人気があってプレイ人口が多いとどうしても一定数こういったプレイヤーは出てきてしまうものである。
特にここ最近は噂にもなっているPK、まさか自分がその被害者になろうとは夢にも思っていなかった。
ルキファナス・オンラインの開発、運営を行なっているゲーム会社アナザルドは公式にPKを黙認することを発表している。
自由が売りのゲームでPKを選択することすらも本人の自由らしい。
ただし、対策となりうるシステムは導入されているし、どうしてもというなら自分たちの所属する国に働きかけて指名手配を出して貰えばいいとのことだ。
「あぁ? 舐めたことほざいてんじゃねぇよ!!」
「ちっ……疲れてるっていうのに」
幸いなことにリオンは隠者であっても俺の速度にはついてこれていなかった。
しかし、紫森蛇との死闘を終えたばかりで全てのスキルが発動できるまでそこそこの時間を有している。
逃げれるか?
「はっ、うざいくらいに回避しやがるね」
「隠者の割にはお粗末な攻撃だな」
「言ってくれるじゃん!! これでも余裕でいられるかな、スティール」
掛け声とともに握っていたはずのダガーナイフが消える。
リオンは右手に元々持っていたナイフ、そして消えたはずのダガーナイフを左手に握っていた。
「盗賊だったのか」
「ちぇっ、思ったよりも冷静でつまんないの」
「いやいや、充分驚いてるさ」
冗談めかして口に出したものの内心では相当な焦りを感じていた。
リオンの使ったスキルは敵からアイテムを盗むスキル。
つまり、隠者系統ではあるが上位職の盗賊という二次職になる。
上位職になるだけでステータスもスキルも跳ね上がって強力になる。
最悪の状況だ。
相手が格上で人数的にも不利、さらにスキルも使えない。
生き残るためにやることは一つ、時間稼ぎ。
「かわいい顔してPKとはな」
「ふんっ、時間稼ぎが見え見えなんだよっ!!」
「残念、口での時間稼ぎは失敗か、でもこっちは目にも見えない攻撃を仕掛けてくる執事に延々追い回されてたんだ、この程度わけないんだよ!!」
「マジかよ……姉ちゃん!!」
「分かってる、けど速すぎて当たらない」
言葉通りにリオンの持つ両のナイフから繰り出される斬撃もルーナの闇魔法の援護射撃も全てを避けきった。
「ちっ、さすがは卑怯者のやることは違うねぇ」
リオンは狙いをつけられたルーナを守るようにクロツキの前に立つ。
クロツキとしても盗賊であるリオンへ素手での攻撃は望みが薄いとみて、リオン同様に二次職に上がっていたとしても攻撃の通りそうな魔法使い系統のルーナに狙いを絞っていた。
実際のところは本当に攻撃してルーナを落とそうなどとは微塵も考えていない。
リオンを攻撃に集中させないようにフェイントをかけているだけだが、それに気づいていてもリオンはみすみす見逃すことができないでいた。
「PKには言われたくないな」
「本当にふざけた野郎だっ、姉ちゃん一気に仕留めるよ」
「えっ、えぇ……」
ルーナは二人の会話が噛み合ってないことに違和感を覚えつつも魔法を発動させる準備に入った。
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