9話 一角ウサギ
一角ウサギは強く大地を踏み鳴らして地面を蹴った。
厄介なのがこの突進スキル、一瞬で距離を詰めて額に生えた鋭く尖った角を突き立てんと迫ってくる。
そのスピードに驚いていては気づいたときに腹に風穴を開けられるだろう。
例え、強固な鎧で身を包んでいようとも安心することなかれ、突進には防御貫通能力があり、鎧は無事でもその衝撃は内側の体に伝わって大きなダメージを与える。
ここで狩りをするような初心者ならば大抵は一撃でHPを持っていかれる。
初見殺し、初心者狩り、その名に相応しく隣で多くの冒険者が貫かれては光の粒子に変わっていく。
それは
死んでも復活できると高を括って油断していたのだろう。
町を出る際の危険だから気をつけろという門番の忠告も意味がなかったらしい。
「あっ、あいつゴブリンの一匹も倒せなかった奴じゃね」
「マジッ? ゴブリンも倒せないのに一角ウサギに挑むのかよ」
「何も知らないんじゃないか、あの見た目に騙されて倒せると勘違いしたんだろ」
すでに貫かれ済みの来訪者たちが笑いながら会話をしているが俺は無視する。
というよりもそんな余裕はない。
ただ、思いのほか厄介だと聞いた一角ウサギの突進が意外と鈍く感じる。
ゴブリンを倒したことでレベルは5に上がり、スキルポイントの全てをAGIに振った。
これなら当たる気がしない。
しかし、問題はどう攻撃するかなわけで、セバスとの訓練では人型の模型を対象にしていたし、ゴブリンもモンスターとはいえ一応は人型だった。
こういったモンスターとの戦闘は初めてなのだ。
その上、一角ウサギは体も小さくなかなかに攻撃しづらい。
「
でも大丈夫。
レベル5になったことで新たに覚えたスキルを発動させれば、命中率とクリティカル率が上昇する。
俺のみぞおち目掛けてジャンプしてきた一角ウサギの突進を上半身を捻って倒しながら躱すと同時にナイフを持つ手の力を抜いて優しく撫でるように首を沿わせた。
一撃で倒そうなどとは思っていない。
教えに忠実にまずは攻撃で隙を晒さないよう、薄皮一枚切れれば御の字だと思ってダガーナイフを振った。
「えっ!?」
しかし、予想とは大きく異なる現実がそこにはあった。
軽く振っただけのはずがウサギの胴と首が見事に一刀両断される。
なるほど、スピードと攻撃力が高い代わりに防御力は紙なのか。
セバスが五匹倒してこいなんていったときにはどれだけ時間が掛かるか不安になったけど、俺に相性のいい相手を選んでくれたのか。
一匹、二匹と一角ウサギの骸を積み上げる。
とはいっても、全てアイテムポーチに飲みこまれていくのだが。
周りでは馬鹿にしていた人たちが呆然と殺戮ショーの観客となっている。
切り落としてポーチに入れる、繰り返される作業はより早く、より効率的になってノルマであるはずの五匹を優に超えてもとどまる気配はなかった。
辺りに一角ウサギがいなくなり、ようやく動きを止める。
「おっ、おい、一角ウサギってあんな簡単に斬れるもんなのか?」
「いんや、知り合いが大剣をまぐれ当たりさせても途中で刃が止まってダメージをくらったって愚痴ってた」
「そうだよな、意外と硬いんだよな」
一角ウサギはただでさえ素早く、STRに振っている冒険者では攻撃をクリーンヒットさせることがまず難しい。
かといってAGIに振っている冒険者の攻撃では体を覆う真っ白な獣毛によって防がれてしまうのだ。
もちろん誰も彼もが苦戦するわけではない。
STRとAGIにバランス良くステ振りすれば時間はかかるが倒せるし、炎系統が弱点なので炎魔法を扱う魔法使いやそれに準ずる魔法を使える職業なら他職業に比べれば気持ち楽に倒せる。
まぁ、どちらにせよソロで挑むには厳しい相手に変わりないが、パーティで挑めばまず苦戦はしないはずなのだ。
しかし、パーティで挑むには経験値も稼ぎもよくなく、割に合わないのがこの初見殺し、初心者狩り、またはかわいいウサギの皮を被った白い悪魔などと呼ばれる一角ウサギというモンスターだ。
「あのナイフを見ろよ、あれのおかげだろ」
目立っていたのはクロツキよりもその手に握られるダガーナイフであった。
初心者用の武器と比べれば何ランクも格が上の武器なのは鑑定などなくても明らかに見てとれる。
「まぁ、それはあるかもな、でも攻撃を当てるのが難しいし……」
「隠者でスキルとか使えばいけんじゃねえの」
「そんなもんか」
「外れ職業って噂は何だったんだ」
「そりゃあ、テストプレイとは色々違ってるもんだろ」
「ゴブリンも倒せない奴が武器一つで変わるもんだな」
「いい武器をたまたま獲得して調子に乗れんのも今だけさ」
様々な憶測が飛び交う中、たまたまいい武器を手に入れただけの幸運な勘違い野郎という結論に落ち着いた。
「それに最近は高価な武器やアイテムを狙った一角ウサギとは別の初心者狩りも暴れてるらしいからな」
「この辺りを縄張りにするかもって噂もあるぜ」
「それはめんどくせぇな、実力もあるのが余計にたちが悪い。まぁ、あの様子じゃあ勘違い野郎も獲物にされて終わりだわな」
「間違いないな、へへへっ」
自分が噂の中心になっているなど露も知らないクロツキはご機嫌な様子でウサギを狩りまくって町へと戻っていくのだった。
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