3話 人形探し
多くの人が行き交う広大な町の中を片手で抱えられる程度の人形を探すのは容易ではない。
はじめの1時間は漠然と手当たり次第に歩いた。
もちろん見つかるはずもないし、手がかりなんてあるわけもない。
しかし、その中で重要な要素を発見することができた。
小石の使用方法についてだ。
原理は不明、ただなんとなくこの小石が人形へと導いてくれるような感覚を掴むことができた。
別にそれでいいじゃないか。
ここはファンタジーの世界、魔法的な何かが作用して探し物の場所を告げてくれる。
便利ではないか。
でも、なんだかきな臭い場所へと進んでいると、頭の中で危険信号が囁いてくる。
本当に大丈夫なのか?
人通りも少なくなってくる裏通りの細い道、日が沈んだのもあって、より一層不気味さを増している。
奥に進むにつれて視線の数も増えてきて、不安にさせるには十分過ぎる。
「よぉ、兄ちゃん、あんた
とうとうというべきか、こんなところを歩いていて絡まれない方が不思議なくらいだ。
複数の男たちが徐々に距離を詰めてくる。
随分な警戒具合だが、彼ら自身も来訪者という未知との遭遇に少しばかり緊張している様子が見受けられる。
ここをどう切り抜けるべきか。
ただ逃げるだけならわざわざこんな場所を通る必要がなかった。
「俺らも鬼じゃねぇ、通行料を払ってくれれば万事解決ってわけだ」
通行料とばかりに他者から奪い取ったであろう、雑多に積まれたアイテムの中にお嬢様の落とし物とやらが紛れ込んでいるのを見る限り、この小石は見事に仕事を果たしたらしい。
現地人と来訪者の違いはいくつかある。
成長速度が速かったりするのもあるのだが、なによりも死んでも復活ができるところが一番の違いだろう。
まぁ、当然といえば当然で、比喩的にゲームに命をかけるなどと使いはすれど、本当に命をかける人間はいない。
いたとしても極小数のネジの外れた者だけだろう。
デスペナルティこそあるものの、本当に死ぬことがないと分かっていれば、多少大胆な行動にも出れる。
特に今の俺のレベルならデスペナルティなんてないに等しい。
逆に相手側である現地人は死ねばそこで終わりなわけで緊張が動きを阻害しても仕方がないといえる。
「はっ!?」
驚きの声を上げる男の横を走り抜けて積まれたテディベアを抱えて走る。
「えっ!? ちょっと待てぇぇぇぇ」
「追え、絶対に逃すな」
数テンポ遅れて後ろから大勢が追いかけてくるが、気にせずにひたすら走る。
それ以外にやれることなど何もないのだから。
一般的な鑑定でざっと見られるステータスのことを基本ステータスといって、名前、職業、称号、総合Lvと7つの能力値に分けられる。
能力値はHP、MP、STR、VIT、INT、DEX、AGIと略される。
HPはヒットポイントの略で生命力、つまりはこれが0になると死ぬということだ。
動作を止めリラックス状態を維持すれば自動回復していく。
MPはマジックポイントの略で、スキルを使用する際などに必要となる。
動作を止めリラックス状態を維持すれば自動回復していく。
STRはストレングス、筋力であり、物理的な攻撃力に影響を大きく与える。
VITはバイタリティ、防御力に影響を与える。
INTはインテリジェンス、魔法関連に影響を与える。
DEXはデクステリティ、器用さ、命中率に影響を与える。
AGIはアジリティ、回避率や素早さに影響を与える。
これらの能力値はレベルアップすることにより、職業ごとに決められた値分上昇する。
そしてレベルアップでスキルポイントを獲得でき、それを使用すれば各々の好きなように能力値を上げることができる。
敵を倒したいと強く思えば攻撃力、敵の攻撃を防ぎたいなら防御力、などのようにステータス振りができる。
「ステータスオープン」
かけ声とともにステータスが開かれた。
名前:クロツキ
種族:人間
称号:なし
職業:隠者(Lv1)
Lv:1
HP:110
MP:11
STR:2
VIT:2
INT:2
DEX:3
AGI:3
SP:11
ちなみに現在の俺のレベルは1でこの世界の子ども以下のステータス。
ただし、職業はステータスに補正をかけてくれたり、スキルを与えてくれたりするので一概にステータスだけが全てというわけではない。
それに隠しステータスなるものもある。
隠者はAGIとDEXに補正が入り、初期スキルに
上手く使えばこの状況もなんとかできるはず。
そして逃げながらSPの全てをAGIに全振りする。
「くそっ、どこに逃げやがった」
「舐められたまんまじゃあいられねぇぜ」
「しかも、あの人形を奪われちまったらどんだけ怒られるか……」
「ちっ、まだ遠くには行ってねぇはずだ、探せ探せぇぇ」
ふぅ、半分賭けではあったけど、とりあえずテディベアは取り返せたし、あとは教えてもらった場所まで行くだけ。
それが難しいのは百も承知ながら静かにゆっくりと裏路地を歩いていく。
次に敏捷向上を発動するにはクールタイムが明けるまで待たないといけない。
メモリや時間が刻まれてるわけでも、説明文などがあるわけでもない。
なんとなく分かるといった不思議な感覚。
しかし、戸惑っている暇はない。
スキルの隠密がどこまで通用するのか、所詮は練度の低いものに頼らざるしかない状況。
そんな中でも口角が上がって現状を楽しんでしまう。
見つかったら絶体絶命のピンチに心臓の鼓動がうるさく感じるのを楽しんでいる。
それからは一種の覚醒状態に入っていた。
見るもの全てがスローモーションに、視線はどこにあるのか、どこを注視しているのかさえも把握できる。
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