白いふわふわはゴールの上でくつろぐ
狩込タゲト
少しヘンなモノとゴールと私
バスケットゴールの上に白い
ふわふわとした白い毛並みは、たんぽぽの綿毛のようだ。
見つけたときは丸まった姿で、ただのわたぼこりのように見えた。
ときどき飛び出るちいさな2つのでっぱりは、耳だろう。
「そんな高いところ、危ないぞ」
私の呼びかけに、その耳だけがピョコリと動いた。しかし、どこうとする
ふさふさの細長いものをふりふりと振っている。私はしっぽで軽くあしらわれたようだ。
試合の準備が始まったのでその場を離れる、その間にどこかに行っているだろう。
そう思っていたのだが、試合が始まってもまだいた。
私は準備やらなんやらですっかり忘れてしまっていた。
コートの中で赤と青のユニフォームをまとった選手たちが、ボールを追って走り回っている。それをゴールの板の上から眼下に広がる光景として眺めている。白いふさふさとした毛に覆われていて、どこを見ているのかもわからないけど。
私と同じく準備をしていて、いまは試合を観戦中の隣のスタッフに話しかける。
「あのネコ?は、大丈夫でしょうか」
「猫?えっ?どこ?」
「ほら、あのゴールの上に」指でさしたが、わからないらしい。
「あの白いホコリみたいなのですよ」
「じゃあ、ホコリなんじゃない?ひっかかったタオルかもしれないよ」
試合が白熱した展開になったので、途中からは気もそぞろな返事をされた。
赤いユニフォームの選手が放ったボールは大きな弧を描いて、ネコがいるゴールに飛んでいく。
しかし、ゴールの輪にはじかれて、得点にならなかった。
またボールは中央に戻され、みんなの目もコートの中央へと集まる。
だけど私はネコのいるゴールから目が離せなかった。
さきほどボールが飛んで行ったときに、ネコが手を伸ばしたように見えた。もしかしたらしっぽだったのかもしれないが、いくらふにゃふにゃしていて腕とは思えなかったとしても、しっぽをボールに伸ばそうとはしないだろうと思い直した。
ボールにじゃれたくなるのはわかる。でも、それが試合中のボールなのはいけない。
そのあともたびたびネコは手を伸ばした。ボールにその手が当たっているのかは、ふわふわしていてよくわからない。ボールの軌道が違和感のある
試合がいったん中断するときを狙って、ネコの近くに行った。
「ごはんがあるよー、こっちにおいでー」
小声で呼びかけてみる。コンビニで急いで走って買ってきたキャットフードを、これ見よがしに振ってやる。
すると、ネコが降りて来た。音も無く、くるりっふわっと着地した。猫は高いところから落ちても怪我をしないってほんとだったんだと私は感動した。
出入り口まで誘導し、ひとけのないところでごはんをやる。ネコは毛が長いせいか、手足が見えず、滑るようにするすると移動した。
「試合中はボールにさわるのはやめてね」
言葉が通じるとは思わなかったが、ダメもとで話しかける。
そうしたら「なんでだ?」とでも問いたそうに首をかしげる。
だから「ボールがゴールにを通ることで勝敗が決まるので、ネコが片方の赤のゴールにだけ入らないようにしてしまうと、平等ではなくなってしまう」というような説明をした。
私の話を理解してくれたのかはわからないけど、ごはんを食べるのを再開した。猫用のごはんは、吸い込まれるように白いふわふわの中に消えていってしまった。ふわふわが深くて口が見えないので、そういう風に見えたのだろう。
あのふわふわをなでてみたかったなと、少し寂しく思った。
私が会場に戻ると、ネコが居た。
いつのまに戻ったのだろうかと驚いた。
そしてまた、ゴールの上からボールに手を伸ばしている。
やはり私の話をわかってはくれなかったんだと、ガッカリしかかったのだが、会場全体を見渡した私は、それは違ったと気づいた。
白いネコがいるゴールと反対側のゴールにもネコがいたのだ。
そちらは黒いネコで、白いネコと同じようにボールにちょっかいを出している。
どうやらネコは『平等さ』は維持してくれたようだった。
白いふわふわはゴールの上でくつろぐ 狩込タゲト @karikomitageto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます