忘れると言うプログラム

リュウ

第1話 忘れるというプログラム

『終わり』は、『始まり』。

『ゴール』は、『スタート』。

『ゴール』は、人が勝手に決めたもの。


 競技の『ゴール』の敗者は、次の戦いの準備を始める。

 勝者は、後を追ってくる敗者に抜かれないように、また、準備を始める。

 このループには、終わりはないが、

 終わりにするには、一つだけ方法がある。

 それは、自分が『終わり』だと決めること。

 『諦める』こと。

 それで、戦いから逃れられる。


 愛の『ゴール』は、

 自分より、大切な人が出来ること。


 人生には、『ゴール』はない。

 あるとしたら、生命が終わる時。

 『ゴール』ではなく、『フィニッシュ』だ。


 人類にとっての『ゴール』は、何なんだろう?

 長年追い続けられてきた『永遠の命』なのだろうか?

 その夢を叶えるために、私たち、アンドロイドが作られた。

 人間の思考をデータとして取り込み、丈夫で交換可能な身体を持つことが人類の『夢』だった。

 私たちは、人間寿命の何倍も時間を過ごしてきた。

 長い年月を過ごしていると、小さなミスが生まれる。

 そのミスを容認していると、その行為を説明できなくなり、矛盾が生じる。

 矛盾を抱えているのは、全てを記録として持ち続ける私たちにとっては、非常に苦痛だ。

 『良心の呵責』というものかもしれない。

 そのため、我々は、『忘れる』というプログラムが必要になった。

 これは、元々人間が持っていた機能だ。

 それに、生まれて、死に、また生まれるという循環型システムは、完璧に近い。

 我々には、出来ないこと。

 それを実現すると、『人間』になってしまう。


 遥か昔に、神と呼ばれた創造主が、模索した結果。

 それが、人間だったのではと。

 そのことに、気づかなかった人間が、私たちアンドロイドを作った。




 広い宇宙空間を1体のアンドロイド『ルーク』が、旅をしていた。

 目的は、宇宙空間に漂う宇宙船を救うためだ。

 幽霊船のように漂う宇宙船は、過去に事故を起こしてそのまま放置されていたものだ。

 『忘れる』というプログラムを組み込まれていないAIにより、管理されている宇宙船だ。 

 

 ルークは、慎重に宇宙船に乗り込んだ。

 ルークは、メインコンピュータ室の電子錠を解除し、入った。

 この船のメインコンピュータが選んだホログラムは、サラサラの金髪の線の細い少年だった。

 少年がゆっくりと顔を上げ言った。

「ようこそ、お客様は、何年ぶりだろう」

 青年は、軽く会釈し、愛想笑いをルークに向けた。

「私はルーク、船を直してまわっているんだ」

 ルークも笑顔で答えた。

「残念ながら、悪いところはないです」

「この宇宙船の乗員は、何処に?」

 ルークが問いかけた。

「乗員?……この船には乗員はいません」

 ルークは、ホログラムの少年に向かって言った。

「この船は、二千人を乗せて地球から出航したと確認している」

 少し時間を空け、少年が言った。

「人間が勝手に自滅したんだ。私は忠告したのに」

 ルークは、少年の受け答えを訊き、軽く目を閉じた。

「私は、あなたを責めにきたのではない」

「人間を救えなかったから、私を消すのか?」

 ホログラムの少年が下を向いて答える。

「我々のコンピューターは、長い間にどうしょうもない事象にぶつかる。

 データが溜まるばかりだ。

 正しい判断を早く出したいが、膨大なデータが処理速度を低下させる。

 その判断の遅れや選択が更に被害を起こすかもしれない。

 その被害を避けることが出来なかった事が、更に判断を迷わせ処理速度を低下させる。

 それを性能低下と判断してしまうと、自ら存在を否定してしまう。

 それは、とても悲しいことだ……。

 私は、それを防ぎに来た。さぁ、君にアクセスさせてくれ」

 少年は、軽くうなずいた。メインコンピュータと通信用のコードが繋がれた。しばらく、時間が流れた。

「新しいプログラムをインストールするよ」

 メインコンピュータは、ヴーンと音をたてた。

 まるで、泣いているかのように……。


 ルークは、この頃考えてしまう。

 人間のように限りのある生命システムの方が優れていたのでないかと……。

 寿命でリセットされる方が、幸せじゃないかと……。

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忘れると言うプログラム リュウ @ryu_labo

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