【PV六万突破企画!】せっかく女子校に入学したはずなのに、異世界を救いに行くことになった件

 私は、のちにボーイッシュ先輩などという失礼極まりない名前で呼ばれることになる、普通の女の子……だったら、どんなによかったであろうか。


 小さいころから一緒に遊ぶのは女の子だけだったし、自分でも自分のことは女子だと思っている。


 なのに、体ばかりがその思考を邪魔するのだ。女子トイレに入ると怒られるし、粗野で幼稚な男子どもと着替えを強要される。


 制服は、周りの女子はかわいいスカートをはいているのに、私だけは黒のズボンと学ランを強制される。いっそ髪を伸ばしてみようと思ったら、まるで私という異分子を排除するためだけかのように「男子は髪を短くすること」という校則が作られた。


 中学での私のあだ名は「女好き」。まあ、たしかに男は嫌いだし、女子と一緒にいる方が気持ちが安らぐから間違ってはいないのかもしれない。だが、彼らの言いたいニュアンスを間違って受け取るほど私もバカではなかった。


 さて、先生というのは研究会なるものがあるらしく、そこでは教育に関する成果なども発表されるらしい。私は男子どものおかげで視線が苦手だったから、学校で生活するうえで嫌なイベントの一つだった。


 その研究発表会のある日、二人の先生とすれ違う、それが私の運命の転換点だっただろう。


 校内がいつも以上に人が多い中、やはり私は学ランとズボンを着させられていた。今年で中三、最後だし我慢しよう。そんな私に声をかけてくれた先生がいたのだ。


「そこの女生徒!」


 私は最初、自分のことを言われているのだと気が付かなくて、通り過ぎようとした。


「君だよ君!えーっと、ズボンと学ランのさ!」


 そこで私は飛び跳ねるように振り返った。


 そこにいたのは、女……と自分のことを思っている私でも惚れてしまいそうな、とても綺麗な金髪の女の人だった。


「田中先生、この子がどうかしたんですか?」


 横には、「普通だ」という印象を最初に与えさせる男の人がいた。背が高く、ガタイもいい。でも、最初に「普通だ」と思わせる人間はたいてい普通じゃない。


「いやあね、佐藤先生。あなたもまだまだですね。この子、女の子ですよ。」


 田中先生と呼ばれた女の先生がもう一人の男の先生に呼びかける。佐藤先生も数瞬考えたが、すぐに理解した、ということだ。


 田中先生の方が私のところへやってきて、耳打ちした。


「君、女の子でしょ?スカート、履きたくない?」


 さらに驚きを重ねる私に、佐藤先生が言ってきた。


「大丈夫だ。実は私たちは、この学校のいろいろな調査にやってきていてね。ひとまず、相談室を抑えるから、一緒に来てれないか。」


 その後はびっくりするぐらいとんとん拍子に話が進み、気が付いたら私は、相談室の席で先生二人の前で座っていた。


「あー、少しお茶でも入れてくるか。」


 ただでさえ緊張している私が、相談室で、しかも先生二人を相手取るなどという状況でガチガチなのを察した佐藤先生が部屋から出ていく。


「さーてと。男もいなくなったし、こっからはガールズトークと行こうぜ!」


 田中先生がノリノリで話してくる……が、先に聞いておきたいことがあった。


「なんで私が……女子……と自分のことを思っていると気が付いたのですか?」


 すると、田中先生はきょとんとして、


「だって、君の歩き方、息遣い、目線、細かな関節の動き方から匂いまで、男子であることを強要されている人間の物だったよ。完全にね。」


 今度は私がきょとんとする番だった。そんなのわかる人いるんだ。


「まあ、子供たちに関する私の勘は外れないから!佐藤先生も、私と大体同い年なのに、この力のせいで弟子にしてくれとか行ってくるし。」


 す、すごい人だな……。


「それでね、物は提案なんだけど、君、男子きらいでしょ?だからさ、いっそ女子校に入らない?女子校だと、どんな体でも意外とばれないし。」


 田中先生はにやっと笑って続けた。


 再び驚いた私は、


「でも、それって法律とか……。」


 と言ってしまう。もったいないことをした。そんなの、法律なんて見なかったことにしての話に決まってる。これでこの話もお流れか……。


 だが、どこまでも私の想像を裏切ってくれるこの先生は、ちょっとワルのような笑顔を浮かべると、


「子供を守れないでなーにが法律ですか。責任は全部私が取るから、散々我慢してきた女子トーク、楽しんでおいでよ?」


 そのあとも、自己紹介を含め、しばらく話していると、ドアがノックされる。


「失礼します、お茶が入りましたよ。ついでに、教育委員会への報告と、この学校の一部教師の解任も決まりました。」


「さーすが佐藤先生!よっ!仕事の早い、いい男!」


 田中先生が茶化し、私もノリで拍手する。


「あー、それでそれで、私が紹介できるのってこの学校なんだよね。数少なくて申し訳ないけど、良いかな?」


 複数も選択肢があり、申し訳ないなんて言われるとこっちが申し訳ない。


「十分ですよ。って、これ、常楚じゃないですか!こんな有名高校にも伝手が!?」


 すると田中先生は、あははと笑って、


「実はここ、私の娘が通っていてねぇ。それにこっちの佐藤先生も去年までかな?勤めていた。私たちにかかわりの深い学校なんだよ!」


 私は、どちらかというと偏差値よりなにより、この二人にかかわりが深い学校ということでここに決めた。






 数か月後。


 私が常楚に受かって、いざ入学準備!


 そう意気込んでいたころに事件は起きた。


 チェキを買って、制服が届いたときにすぐに写真を撮れるようにといろいろスタンバイをしていた時だった。床に変な模様が浮き上がり、気が付くと今までいたところとは違うところにいるという珍事件が起きたのだ。


「これって、異世界転移ってやつか?」


 中学のころ、と言ってもついこの前まで中学生だったが、クラスの男どもが騒いでいた気がする。異世界転移してみたいだのなんだのと。


 私は、少なくとも心は女なので、いや、女子だから、という区切りで分けることもないが、そういったことに憧れることはなかった。


 正直、せっかく女子校に入学できそうなときにこんなところに飛ばされても迷惑極まりない。というかやめてほしい。


「目がおさめになられましたか。」


 横には、それはそれは美しいお姫様がいた。


 このドレス、本物のシルクじゃん。ティアラに使われているダイヤモンドも、恐らくは本物だろう。だとすると、この人の着ているものって全身でいくらかかっているんだろう。聞くのも恐ろしい。


「異世界から来たあなたに、お願いがあります。私の名前はセレイ。この国の王女を務めさせていただいております。あなた様につきましては、どうかそのまま、セレイとお呼びください。」


 こうして、セレイの話を聞いていると、どうも異世界から来た人は、この世界においてとてつもない力を発揮できるらしい。世界の基準がどうのとかいう難しい話は放置したが、まあそういうことだろう。


「それで人様の世界に勝手に呼び出すとか、随分となご都合で。」


 相手が王族であるとはいえど、皮肉っぽい口調になってしまう。


 だが、私はようやく常楚に入れることになったんだ。こんなところでほっぽり出されてたまるか。


「わかりました。乱暴とかそういうのは嫌いですが、私にも帰ってやりたいことがあります。ことが片付いたら帰してくれる、そういう約束で手を貸しましょう。」


 セレイの話を聞くには、この世界には四聖獣なる獣がいるらしい。彼らはみな人など超越した存在であるが、先日青龍と呼ばれる巨大な龍が死んでしまい、彼らが封印していた魔王の四分の一が解き放たれてしまったそうだ。


 その、いわゆる勇者パワーでその力を消してほしいらしい。勇者の戦い、などと聞いて少し身構えたが、近くに行っただけで掻き消えるらしい。どこからそんな情報が出てきたのか、ソースも気になるが、今はただ早く帰りたい。


 そろそろ制服が着払いで届くはずだし、届いたらすぐにでも着てみたい。


 数か月前の田中先生たちと出会った時同様、やたらとんとん話が進み、そのまま旅に出ることになってしまった。


 もらった服は、青龍の革で作られたという革の服なのだが、何よりかわいくない。青いし、勇者っぽさはある。説明を聞いている限りだと、この装備ならだれでも何でもできそうだと思う程度の高性能だ。


 でも、かわいくない。


 正直言ってきたくなかったが、仕方ない。これを男物の服の着納めとしよう。


「魔王の封印は、この先の港町の先、海の中の神殿にあります。あなた様は服があるので呼吸ができますし、私も魔法で呼吸ができるので心配なく。それに、あなた様は私が守りますので、安心してくださいね。」





 さすが異世界人というべき発言だったが、なんだかんだ言って危なそうな獣にも何にも会わずに港町までこれてしまった。


 魔王がどうの、という話が流れてしまっているのか、港町にはほとんど人がいない。いるのは、先遣隊的な雰囲気の兵隊だけだ。


「こちらです。」


 セレイがそう言って指示した先にある、石造りの鳥居のようなものをくぐって水に入っていく。確か、地球にもあったなぁ。ストーンヘンジ、だっけ?それの一つ分みたいなものだった。


 濡れないなんて、本当にすごいなこの服は。あとでワッペンでもつけてかわいくしてあげようかな。


 そこまで考えたところでこの服が借り物だということを思い出す。


「一応、水の中でも息ができるかどうかきちんと試してくださいね。」


「わかりました。」


 恐る恐る息を吸ってみると、無事吸えた。よかった。酸素ボンベみたいな仕組みになっていて、急に水中で空気が切れる、なんてことはごめんだけど、それでも何よりもこの服が我慢ならなかった。たぶん、これからは女装だけで生きてもいいと思っていたせいで、男装への嫌気が限界に達してしまったのだろう。


「大丈夫、無事に吸えます。早く行きましょう。」


 水中特有の動きにくさはあるのに息は吸えるというのは不思議な経験だったが、早く帰りたかったので、それをじっくり楽しむことなく、奥に見えた神殿のようなところに行く。


 神殿の中は、空気があるようだった。セレイも魔法を解くと、ふたりで顔を見合わせ、うなづきあうと奥へと進む。





 セレイと友達として出会っていたら、どんなに良かったか。私の体も女子で、彼女と普通に高校で出会い、友達になって、学校へ行ったり、部活をしたりする。


 体だけが男の自分には部活なんて夢のまた夢なのはわかりきっているけど、夢を見るくらいは許してほしい。





 最深部に、砕けた龍の石像があった。


「ここで、封印の儀式をします。それをすると、あなたはその時に散る力の余波を受けて元の世界に帰れるようにあらかじめセッティングもしておきます。」


「ありがとうございます。最初から最後まで無礼な態度ですみませんでした。……そうだ、お詫びと言っては何ですけど、これ、撮りませんか?」


 無事帰れそうで少し胸をなでおろし、ここに来る前にそういえばチェキをポケットに入れていたのを思い出す。


「これは……?」


「えっと、写真と言って、その時、その場所の絵を精密に残しておけるものなんです。」


 不思議そうなセレイの肩を抱いて、自撮りのポーズになる。チェキでの自撮りは実は結構難しいので、私の腕の見せ所だ。


「ひ、ひゃっ!?」


 パシャパシャッ!


 驚いたのか身をすくめたセレイと一緒にチェキを二枚撮り、出てきた写真を渡す。


「はいこれ。どうぞ。一枚はあげます。捨てたりしないでくださいよ?」


 私の言葉にセレイはコクコクと頷き、恐る恐るそれを受け取る。


「それじゃあ、お願いします。」


 セレイはぶつぶつと何か魔法の言葉を唱えだす。それの影響か、壊れた龍の石像から黒い光がでてきて、白色に変わると私の体の中に入ってくる。


「本当に、ご迷惑をおかけしました。」


 セレイがキチンと頭を下げてくる。魔法の仕組みとか、詳しいことはわからないけれど、私がどうしても必要でやったことだったのだろう。仕方ないか。


 やがて、私の体からあふれた光は、体の表面も覆ってくる。足先、胴体、そしてやがては頭へと。


 視界がすべて光に包まれる少し前に、セレイが顔を近づけてきた。異性としてのキスなどであれば、絶対に受け取れないし受け取るつもりもない。だから、顔を背けようとしたとき……


「あなたは、初めて私に皮肉というものを言ってくれた、二人きりで旅をしてくれた、それと、あなたの手つきでわかりました。この、シャシンとかいう魔法も、恐らく親しい人と行うものなのでしょう。


 この世界とあなたの世界は時間の流れが違います。あなたの世界を相対的に一度止めているせいもあり、ここから時間がどう動くかはわかりません。もう二度と会えることもないでしょう。でも、これだけは忘れないでください。


 あなたは、私にとって初めての友達よ。名前も最後まで聞けなかったけど、あなたと会えてよかったわ。」


 驚いて呆然とする私の視界は、やがて光で埋め尽くされて……





 ピンポーン。


 ドアのチャイムの音で目を覚まし、慌てて、届いた制服を受け取る。


「これ、捨てるに捨てらんないじゃん。」


 今着ている服をつまみ上げる。


 今着ている服は異世界製の青龍の革で作られたもの。配達の人に変な目で見られてないかな。


 随分と長く感じたが、時計は最後に見たときとほとんど変わっていない。まあ、異世界に行って帰ってきて、という時間なら短すぎるぐらいだ。


 さて、彼女は、私にとって初めて「同性」の友達かもしれない。小学校の低学年では性別を意識した友達関係などなかったし、小学校の高学年以降は私にとっては男子が異性の友達、女子は向こうから異性の友達として見られていたからだ。


 最後の男装と決めたはずの勇者の服だったが、初めて同性の友達からもらった服と思うとなかなか脱げなかった。


「もう、会えないかぁ。」


 どっちかがおばあちゃんになってからでも、どっちかの子孫にでも、会えたらいいな。





 その後私は、高校で数多くの人と出会い、「同性の」友達や先輩、後輩ができる。


「おー!お母さんから聞いてるよ、男の娘ならぬ女の娘なんだって?まあ、性別とかどうでもいいから仲よくしようね!そうだ、まずは部活においで!」


「私はヒカルって言います!うーん、君は……ボーイッシュだね!かわいい!これから一緒にたくさん踊ろう!」


「あなた、面白そう。でも、婚約者ではない。」


「こういう人がいてもおかしくないですわぁ!」


「たしか、LGBTQIA、でしたっけ。」


「今日も掃除完璧にしておきましたよ!」


 まあ、若干一名「同性」かどうか怪しいのもいるが、みんないい人たちだ。


 でも、初めての友のことはもちろん忘れられないがね。





 こんなことを思い出していた数日後、学校で起きたテロのような現場で、再会ではない再会を果たすことになるが、それはまた別のお話。

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男子校に入学したはずなのに、クラスメイトがどいつも女子っぽすぎる件:番外編 怪物mercury @mercury0614

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