【PV三万突破企画!】男子校に入学したはずなのに、なぜか超能力バトルな件:後編
「カヅキ、どうだった?」
俺の視点が無事戻ってくると、アオイが俺の顔を覗き込んでいた。
「うわぁ!」
びっくりして大声を上げると、アオイものけぞる。
「なんだよ、一応ラブコメなんだから、このぐらい顔近づけても読者様に怒られないだろ?」
「今の状況でよくラブコメを名乗る気になったな……。」
戦いの結果を軽く報告し、近くに誰もいないのを再び確認する。
……あれ?マップに、本来はいないはずの人が写っている。
「アオイ。なぜかアヤカさんとボーイッシュ先輩が写っているんだが。」
「うーん、最初にはいなかったはずだし、恐らく最初にうちらを眠らせた後に運ばせた『助手』だろうな。」
確かに、ボーイッシュ先輩はシオリさんの後輩みたいな感じだったし、アヤカさんのメイド喫茶もシオリさんに紹介されたものだ。知り合いであっても何ら違和感はない。
「とりあえず、能力がわからない間は避けて通るが吉だろ。」
「そうだな。まっすぐ誰かに向かっているわけじゃないから、マップ系の能力ではないと思うけど、それだけだとどうしようもないし。」
「うちも、自分を強化するタイプの能力には弱いからな……。」
そうこうしているうちに、ボーイッシュ先輩とヒカル先輩が近づいていた。
「俺は今からヒカル先輩とボーイッシュ先輩の戦闘を観察するから、周りの警戒を頼む!」
「オーケーオーケー。」
『監視カメラ15に視点を切り替えますか?』
それにしても、いくつのカメラがあるんだろう。
ヒカル先輩の能力は応援した相手の体を操れる、というもの。限定的だし、俺と同じで隙がでかい。
「!?」
ヒカル先輩を見ていると、先ほどまでボーイッシュ先輩がいたはずの曲がり角から、なぜかレイナが現れた。
「れ、レイナちゃん!?」
「おひさしぶりですわ!ヒカル!」
にしてもこのレイナ、何か違和感がある。何より、レイナはさっきやられたはずじゃ……。
「えっと、レイナちゃんにあだ名をつけるなら……シスコン!」
それただの悪口じゃないですかね。まあ、俺が「シス」、何だろうけどさ。
「がんばれがんばれシスコン!フレーフレー、シスコン!」
しかし、レイナは全く意に介せず突き進んでいく。そしてそのまま……。
「いたぁい!」
ヒカル先輩がやられた。
慌てて脳内マップを確認するが、いつの間にか表示が「レイナ」になっている。
ボーイッシュ先輩の能力は、敗者復活とかだろうか?復活させたものを自由に扱える的な。
「見ているのだろう、カヅキ。」
振り返ったレイナがこちらをカメラ越しに見てくる。
「悪いが、勝たせてもらうよ。ここで勝たないと、一か月シオリ先輩の助手をやらされるんだ。見ての通り、あの人の助手は少しハードでね。」
なるほど、あの人にも負けられない理由があるのか。
このまま見ていても仕方がないので、監視カメラ視点を離れる。
「やばい、アオイ!」
今一度脳内マップを確認すると、アヤカさんが近づいている。
「ちょい待ちね。」
唐突にシオリさんの声が、存在を忘れていたインカムから届いた。
「カヅキちゃん、女装フォーム!」
俺の体が勝手に女装した状態にされる。アヤカさんに見られてメイド喫茶でバイトができなくならないようにするための物だろう。
「アオイ、近くにアヤカさんが!」
俺がそう言いながら跳ね起きるのと同時に、あたりを壁で囲まれた。中にはアオイもいる。
「問題!私の能力はなんでしょーかっ!」
その言葉と同時に水が壁の中に満ちてくる。
「カヅキ、まずいぞ。閉鎖した状況下で、うちらを溺れさせるつもりだ。」
かといって、俺もアオイも強化カオリではないので、壁なんて壊せない。
「仕方がないから一か八か、ウチの能力で反射できないか試す。」
しかし、何も起こらない。相手の能力自体は防げても、相手の能力で発生した物質までは反射できないのか。
「もー、二人ともダメダメだなぁ。せめてものお情けに、私の能力を当てられたら助けてあげようじゃないの。」
壁を突き破るより、こちらの方がまだ何とかなりそうな気がする。
「カヅキ、すまん。ウチの能力が通じないばっかりに。」
「謝ったってどうしようもないだろ。当たり判定考えたのはシオリさんなんだからさ。」
そんなことより、アヤカさんの能力を考えよう。
「えっと、同じような能力を使っていたのといえば、ユウキだよな。」
「そして、さっきボーイッシュ先輩はレイナの能力を使っていた。」
俺、アオイの順に二人で話しているうちにも、水が増して、天井が迫ってくる。
「そういやアオイ。さっき、アヤカさんの姿を見たか?」
さっきのボーイッシュ先輩は姿までレイナに変わっていた。
「いや、うちは姿を見る前に閉じ込められたからな。」
「マップ的に、ボーイッシュ先輩とアヤカさんは同時投入だ。」
「なら、二人の能力が対になっていたり、同じだったりする可能性もあるな。」
「つまり、アヤカさんとボーイッシュ先輩の能力は……。」
「「アウトになった人になりきることができる!」」
「ピンポーン。」
壁と水が一気に消失した。
「思ったより早く当てられたから、ご褒美にいいことを教えてあげると、私たちはどちらかが使っている能力は、もう片方は使えないんだけどね。」
それにしても、今日は珍しく俺の頭さえわたってる?
「まあ、考えてたのほとんどアオイちゃんだけど、カヅキちゃんはかわいいから許す!ていうかシオリさんじゃなくて私にペロペロさせて!」
そういってアヤカさんが近づいてきて……。
「あ、後ろ。」
マップに移った影に嫌な予感がし、俺は後ろを指さす。
「そんな手には乗らないよ!」
「いや、本当に後ろを確認した方がいいと思いますよ。」
「まだまだだなぁー!」
何を言っても聞かないだろうし、俺は黙ってアオイの後ろに隠れた。
「デュフ、デュフフフ!ぐはぁっ!」
後ろからアヤカさんをレーザーが打ち抜く。貫通したレーザーはアオイが反射して壁を焦がした。
アヤカさんがシオリさんルームへと送られていったのち、陰から姿を現したのはルナだった。
「ちょっと!」
「なに?」
「最初からいる私が一番出番が遅いって、どういうこと!?」
運が悪かった、いや、デスゲーム式なんだから、運がよかったんじゃないだろうか。
「それに、私の能力、なくてもさして変わりないじゃない!普段通りよ!」
「はいはいそうだね。」
「それであんた、いつまでも女の影に隠れてないで、でてきなさい!」
「出ていったら撃つでしょ。」
「撃たれたくなかったら出て来なさい!」
ここからは押し問答になったのでしばらくカット。
「じゃあ、うちらも後ろから攻撃しないから、ここで別々の道を行くのはどうかな?」
あまり長い間騒いで、漁夫の利狙いの他の人が来るのを嫌がったアオイが、そう提案してきた。
「ぜ、絶対によ。もし破ったら、元の世界でレーザー打ち込んでやるから。」
そこまで言われて破るやつはいないだろう。
「それと、次あった時は敵。容赦なく撃ち抜くわよ。」
「わかったわかった。早くどっか行け。」
こうして、ルナとは戦わずに済んだ。
だんだんと人数も減ってきている。俺、アオイ、ルナ、カオリ、ボーイッシュ先輩。
ちなみにユウリは運悪くカオリと接敵した際、普段幽霊だからすり抜けられると勘違いし、さらには自分の能力がカオリのと相性が悪いことに思い至らなかったのか、タコ殴りにされてアウトになった。
「アオイ、そろそろルナとボーイッシュ先輩がぶつかるぞ。」
「カオリが近くにいないなら、警護する必要もないか。」
この言い方……。何か怪しい。まるで、これをもって同盟を終えるとでもいうかのような……。
ザンッ!
俺が飛びのいたところにわずかに残っていた女装フォルムの髪型が、アオイの振るった包丁でちぎれとんだ。
「チッ。」
アオイが包丁を振り下ろした姿で固まっている。
「やっぱり、このゲームで同盟なんておかしいと思ったよ。お互いに利用価値はあったが、今なくなったからこうして裏切ったわけか。」
「ルナとボーイッシュ先輩なら、ユウリの能力を引き出したボーイッシュ先輩が勝つ以外にない。そうすれば、カオリと先輩がつぶしあってウチが背中を取れば勝ちだ。」
クソ、こいつ何気に頭いいんだよな……。
「それで俺はもういらないってことか……。」
「もちろん、カヅキは大切な親友だ。でも、ここ、ゲームでは別。つぶすときは本気でやりあうのが友達だろ!」
全く、おっしゃる通りで言葉が出ない。
「手加減は期待するなよ。」
そういうと、俺はマップで人を表示しないようにし、ダッシュで逃げる。
こないだの砂浜での合宿が随分と効いたのか、体力でもアオイに負けないで逃げ続けることができる。
「逃げ回ってもいつかは武器のあるウチに捕まる運命なんだ。諦めな!」
アオイから逃げ始めて約5分。迷路が立体なのもあり、お互い息が切れ切れだ。だが……!
「か、カヅキ、どこまで逃げるつもりだ。ぜぇ、ぜぇ。」
「さ、さあね……。はぁ、はぁ。」
あとちょっと……。
そこのT字路を横切れば……。
ズドンッッッ!!
俺の後ろにいたはずのアオイが吹き飛ばされ、アウトになっている。
「みぃつけた。」
ここからが本番だ。
俺の後ろでアオイを吹き飛ばしたのは、今やバーサク状態にある幼馴染だ。垂れ流している雰囲気はもはやラブコメのそれではなく、バトル漫画、しかも普通に大陸とかを吹き飛ばすようなパワーのインフレが進んだタイプのバトル漫画だ。
「片づけてやるよ。」
どす黒いオーラに赤く光った目。ニタァと笑うと牙のような歯がびっしりと見える。シオリさんのおふざけだろうが、それにしても恐ろしい。
こいつを振り切るのは無理だ。長い直線でもおそらく捕まる。というか、ユウリはよくあれに立ち向かおうと思ったな。
次の目的の場所まで、とあるチェックポイントを通りながら、しかも長い直線を避けていかなければならない。
「待て待てぇ!」
もはやこちらをいたぶっているつもりだろう。今のところカオリはユウキ、ユウリと連続して破っている。
「チ、チェックポイント!」
お目当ての場所にお目当ての物を見つけた俺は、目的の場所へ走る。
そこは、ルナとボーイッシュ先輩の接触予想ポイント。アオイの予想が正しければボーイッシュ先輩が、間違っていればルナが残っているはずだ。最後だけ少し長めの直線が残っているのが不安だが、もう後戻りはできない。
「そろそろ捕まえてやるー。」
カオリの高すぎる脚力が、一歩走るたびに地面をメシャッとえぐる音が近づいてくる。この床、レーザーでも焦げしかつかなかったんだけど、大丈夫かな。
「よし、ゴールだ!」
ゴールに見えてきたのは金髪。ルナだ。どうやってボーイッシュ先輩に勝ったのだろうか。それとも、ルナに変装したボーイッシュ先輩か。
「ルナァッ!」
俺が捕まる寸前、一か八かでルナの名前を呼ぶ。本人であれば、一瞬振り返るのが早まり、あいつは次あったら撃ち抜くと言っていた。その言葉を信じるしかない。超信じたくないけど。
叫んだ直後にスライディングをする。俺は賭けに……勝った。振り返るスピードと、眉間ギリギリ上を通り抜けていくレーザーが、俺を掴もうとしていたカオリの腕から胸までを撃ち抜いたのだ。胸の装甲が厚いヒカル先輩とかならヤバかった。
「なにっ!?」
驚いた表情のままカオリがアウトになって消えていく。ルナが次のレーザーを撃ちこんでくる前にさっき拾ったレイナの包丁をルナに向かって投げた。
「まだだ!」
ルナは構わずレーザーを撃つ。その先には俺……ではなく、俺の投げた包丁だ。レーザーで溶けた包丁が盾状に広がっていく。
……念のため二本拾っておいてよかったぁ。そのおかげで最後の直線がギリギリになってしまったが、あとは、ほぼみんなが忘れているであろう俺の設定、中学の頃にバスケ部だった特技を生かして……。
「スリーポイント包丁!」
今気が付いたが、投げる方向と力の強さが視界に出ている。これもマップ機能の恩恵か。
「ぐはぁっ!」
レーザーのせいで広がり続けていた包丁だったものの向こうで、ルナの声がした。
「ルナちゃん、アウトー!ということで、勝者、カヅキちゅわん!」
またも存在を忘れていたインカムからシオリさんの声が聞こえてくる。
「じゃあ、一日好きにこの機械を使える設定にしてあげたけど、どうする?」
「あー、それじゃあ、マップの要領でコントロールパネルとか、インカムの親機とかこちらに回してくれませんか?」
「いいよいいよー。」
「あと、せっかくならみんなで楽しみたいんで、みんなの回線もつないだままでお願いします。」
「もちろん!美少女たちを独り占め!男の夢でしょうねぇ!」
「シオリさんも来ますか?」
「いいのかい行って!?私もまだまだ捨てたもんじゃないねぇ!」
そう言って、目の前にコントロールパネルとシオリさんが現れた。
コントロールパネルの扱いは普通のタッチパネルと同じようなものだったし、迷路も消して、みんなを呼ぶ。
「さっきはどうも!」
「いやいやこちらこそ!」
やっぱり、少しギスギスするよなぁ。ゲームとはいえ、ここまでリアルに殺し殺されしたんだし。
「まあまあみんな落ち着いて。仲直りのゲームでもしよう。」
俺がみんなをまとめてやろう。
「さっき、みんなの能力を限界まで高めた。ある人以外。」
俺は、そういいながら今回の仕掛け人に目線をくれてやる。
「復讐は何も生まない、なんていうけど、みんな、やられっぱなしは嫌だよな?」
そう言って今度は、シオリさんの能力値を最低設定にする。
「さあ、ダンスっちまおうぜ!」
俺はみんなにサムズアップすると、自分は疲れたので家とベッドを出し、モニターで観察することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます