【PV二万突破企画!】女子校に入学したはずなのに、幽霊と大冒険な件
修学旅行といえば京都。誰がそう決めたのか。これは、きっと恐らく長きにわたり高校生たちの話題になっていることだろう。だからといって、急に広島に行き先を変更した人間はそういないだろう。
ましてや、私のような行動力皆無の根暗少女なら、初めての例かもしれない。
私、一ノ瀬マキには、たった一人を除いて友達がいない。高3にもなってボッチなのはどうなのか、とみんなにはよく聞かれるが、別にボッチじゃない。みんなには見えない友達がいるのだ。
「ねえユウリ、本当にこんなことして大丈夫なの?」
この、ちょっと珍しい友人が建てた作戦は、京都駅でいったん集合のところを、こっそりと人ごみに紛れて身を隠し、そのまま広島まで行くというものだ。
「大丈夫だって。うちの妹なんか、歩いて広島から東京まで行ったんだぜ。」
私の体の半分が勝手に動き、勝手にしゃべる。この子はユウリ。体育倉庫で会った戦時中の幽霊で、今は私の体を半分貸している。
「それに、妹さんも例の件、怒っているかもしれないんでしょう?正直私、会いに行くのこわいんだけど……。」
「それに関してはそうだな……。うう、ウチまで不安になってきたじゃねえか。」
この子の生き別れ……いや、死に別れになってしまった妹、フウリさんと会いに行く旅は、こうして不安だらけのまま始まったのだ。
「おいおい、嘘だろ……。」
京都駅を出発してから約三時間後。少し道に迷いはしたが、なんとかしてフウリさんが亡くなった場所についた私たちは絶句した。
「西園寺ホテル」
日本の中で知らない人はいないだろう超巨大財閥。その財閥が経営する巨大ホテルは、日本のホテル市場をこれでもかと牛耳り、世界でも評判がいいらしい。一泊の値段までは知らないが、西園寺グループの経営するものはすべて、異常なまでに物価が高い。
「よりによって西園寺グループかよ。昔っから好き放題やってくれちゃって。」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、奴らもともとは神職なんだよ。お払いとか何とか。何代か前の奴らとは、ウチだって戦ってるんだぜ。それが経営を始めたら、神の加護がどうの、とかでやたら繁盛しちまったんだ。」
この友人は本当に物知りだが、これって私も戦わさせられる展開だろうか。さすがに私の能力には限界がある。
「ちょっとお嬢さん、そろそろ浦和家の旦那が到着するんだ。なんでも、娘をたまには旅行に連れ出してあげるとかでね。」
ホテルの人に声をかけられた私は、思わず委縮する。大人の人、それも男の人は大の苦手だ。
「す、すみませんっ!」
慌てたせいでユウリと息が合わず、バランスを崩してしまい転んでしまった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
顔を上げると、かわいらしいショートカットの女の子がこちらに手を差し伸べていた。嬉しいけどなんか子ども扱いされているようで素直に喜べないな……。
「あ、ありがとう。ご、ごめんね。」
そう言って、せっかくの厚意なので女の子の手を借り、立ち上がった。
「ユウキ、何をしているんだ。おいていくぞ。」
少し厳格そうなこの子……ユウキちゃん?のお父さんらしい人が言うと、女の子は返事をした後こちらに向き直り、
「気を付けてね、お姉ちゃんたち!」
とだけ言って去っていった。
「おい、あの女の子、ウチのことに気が付いてたのかよ。」
ユウリは霊感のある人しか見えないらしいので、つまりはそういうことだろう。
「結構見える人って、いるのかもね。」
「ていうか、早くフウリを探そう。一秒でも早く謝りたいんだ。」
「それでも、探すのは明日からにしよう?」
季節的に暗くなるのは遅いが、それでも十分遅い時間になってきている。まさか広島まで来て野宿などできるはずもない。夏とはいえ、下手したらユウリとフウリさんの仲間入りだ。
「それも悪くはないだろ。」
心が共有されてしまうのはこの形態の嫌なところだ。
「でも、ウチのおかげでこないだのテストは助かっただろ?」
「そもそも誰のせいであまり勉強できなかったと思ってるの……。」
おかげさまで赤点こそ逃れたが、そもそもユウリがテスト三日前に体を引きずってカラオケに行ったのが悪いのだ。しかもちょっとあり得ないほどの音痴。私も歌は得意ではないが、カラオケマシンで0点出す人は初めて見た。
「あの時のはマキの声帯の調子が悪かったからだろう?」
「私はきちんと30点出せましたー。」
どうも、この友人とだけは多少まともに話せるのだが、少し口が悪くなるのがよろしくないところ。
「それで?あんまりもたもたしてもいられねえぞ。どこに泊まるよ?」
そこそこ頑張って捜し歩き、結局女子が一人で泊まれそうな場所を見つけられたのはほぼ夜になってからだった。
なぜか西園寺ホテルの周りは、圧倒的ぼろ宿しか残っていなかった。
「どうせ西園寺の奴らが圧力とかかけまくってたんだろ。」
お部屋についた風呂に入り、寝るころには疲れ切っていたので、ユウリの西園寺家に対する悪口に突っ込む元気などでなかった。
「じゃあ、おやすみ。」
「ああ。明日こそあいつを見つけて謝らないとな。」
ちなみに、その時にはすでに京都府警の間で私たちがガチの捜索をかけられていることなど知らなかった。
「おはよう、ユウリ。」
「おはよう。うちは寝る必要もないし、いろいろ考えて寝られなかったがな。」
朝ごはんの定食をもぐもぐやっていると、頭の中でユウリが起きたのがわかった。
「きょうはどこを探索するかとかももう決めているの?」
「まあ、大体だけどな。」
「その心は?」
「西園寺ホテルの上階。」
理由はよくわからないが、ユウリ的には思うところがあったのだろう。私は指示に従えばいい。
「でも、そんなところどうやって入るの?」
「ちょうどこの近辺にツテがあるんだよ。」
不安な予感しかしないが、頼るしかないのだろう。友人の頼みとはいえど、ついてきちゃって失敗したかなぁ。
「なんでも、ここら辺に鈴木さんってのが住んでて、その人とは知り合いなんだ。」
「いや、でも、鈴木さんなんて日本には腐るほどいるんじゃ……。」
だが、ユウリの考えが頭の中に流れ込んできている私には、何をしようとしているのかわかった。
「それやるの!?絶対にオチが見えてるし、恥ずかしいから嫌なんだけど……。」
「いいだろ!これしかないんだから。」
「でも、ほかにもっといい方法があるはず……。」
そこまで言った時点で、ユウリは行動を起こした。
「すーずーきーさーん!!」
あろうことか、私の体を使って大声で叫び出したのである。
もちろん、道のど真ん中で大声で鈴木さんと叫んでいる少女がいたら、注目を浴びる。鈴木さんじゃなくても振り返るし、じろじろ見るだろう。
「ほら、ユウリ、みんなこっち見てるって。」
「いいじゃないか。こうすれば、ヒトの前に回り込んで鈴木さんを探すより、手間が省けるだろう。」
「あらまぁ、ワタクシに何か御用かしらぁ。」
少し後ろの方から声が聞こえてきた。日傘をさし、ゴスロリと呼ばれる類の服を着た女性だ。
「えっ、いや、まあー。」
「あれ、その話し方、もしかしてキヨコの娘か!?」
「確かにワタクシの母の名まえはキヨコですけどもぉ、あなた方はぁ?」
今になって気が付いた。街中でありきたりな名前を叫んで徘徊する少女。そこに反応し、ましてや自分のことだと思い、話しかけてくる女性がまともなはずがない。
「実は、うちはキヨコの知り合いでさぁ!西園寺財閥のホテルの屋上まで行きたいんだけど、どうにかなんないかな!?」
今になって気が付いた。控えめに言って自分の友人も……自分も、相当まともな女の子じゃないんだった。
「母なら今は仕入れのためにホンジュラスかジンバブエにいると思いますけどぉ。」
ヤバい匂いしかしないよこの人。絶対かかわっちゃいけないやつ!
さっきからユウリに向かってそう念じ続けているのに、まったく聞いちゃくれない。
「まあ、母の知り合いだっていうのは本当みたいですし、お助けすればよいんですねぇ。いいですよぉ。」
どうしよう、私が一言も発さないうちに、私の体の行く末が決まっていく。気分はドナドナである。
「そうと決まればレッツゴー!」
ユウリ?この体、本来は私の物なんだからね?
結果、西園寺ホテルの屋上への行き方が決まったので、私は今ヘリコプターに乗っている。詳細な説明など不要だろうし、する元気もない。
「どうせこんなことになると思っていたよ……。お願いだから、私をお助けください、神様、仏様……。」
「だらしねえなあマキは。一度くらい死んだ方が努力が付くんじゃねぇか?」
そんなにポンポン殺されたらたまったもんじゃない。
「それにしても運がよかったですねぇ、私は今日特に理由もなく唐突にあそこを散歩しようと思ったんですよぉ。」
どういう心境だろうか。なんか見えざる者の力を感じる。……って、小説やマンガじゃあるまいし。
「それに、明日から東京の方に引っ越す予定だったんですよぉ。なので、本当にうんがよかったですねぇ。」
「本当だよ全く。マキ、ここからはうちらの息の合わせどころだからな!?」
「勘弁してよ、本当に……。」
「まもなく降下地点ですわぁ。短い旅路でしたけど、とっても楽しかったですのぉ。またどこかでお会いできたらうれしいですわぁ!」
「あ、あの。私たちは東京の出身なので、もしかしたら向こうで会うかもしれないです。」
私は、たぶん初めてまともにこの人の目を見た。初対面なのもありとても怖かったが、友達を助けてくれた優しい人だ。
「礼には及びませんわぁ!」
「じゃあ、キヨコにもよろしくな!」
「どうか、死にませんようにっ!」
そういうと、私たちはヘリコプターの出口に向かって走り出した。
空へと躍り出る直前、
「それ、パラシュートじゃなくて非常食ですわぁ!中には、乾パンしか無いですわよぉ!」
少し慌てた女性の声が聞こえた。でも、助走も付けたからもう止まるわけがない。
「えっ!?」
「はっ!?」
そういうのは、早く言ってください!
すごいスピードで落下する。これはさすがに死んだわと、そう確信した。
そう思うと、走馬灯のように周りの景色がゆっくりに見えてくる。
ママ、パパ、ごめんなさい。ユウリも、あと一歩でフウリさんに会えたのにごめん。たった一人の友達の願いすらかなえてあげられないような非力でごめんね。
「ふざけんな。」
落ちながら、私の半身が声を上げる。
「うちはもうしないって誓ったんだ。」
もうしない、とは、フウリさんの件のことだろうか。だが、この状況で何ができよう。
「いいかマキ、絶対に最後まであきらめんじゃねぇ。このバッグはかなりの重さがある。下に向かって勢い良く投げれば、運動量保存の法則的にうちらが落ちるスピードを緩和できる。」
確かにそれっぽい理屈だが、このバッグはユウリの言う通り重い。よほど息が合わなきゃどうしようもない。
「できるかな……。」
「うるさいな、やるんだよ!うちとマキならできる!」
こうしている間にも、ホテルの屋上はぐんぐん迫ってくる。地上30階のビルだ。迫ってくるのが早くてもおかしくはない。
「いくぞーっ、せーのっ!」
ユウリの掛け声で、全身全霊をバッグにぶつけた。私の体のもう半分も同じようにする。
タイミングはちょうど。
ジャパーンッッ!!
屋上は風呂が作られていたらしい。絶妙に暖かい水がまき散らされ、しぶきとなって虹を作った。
「生き……てる……。」
「だから言っただろ、諦めるなって。」
あたりは幻想的な空間になっており、虹が現実離れした、極楽かのような雰囲気を漂わせている。
「そこにいるのは、誰ですか。」
後ろから声をかけられ、慌てて振り返る。純日本人な顔つきだが、腰まで伸びた金髪を持つ女の子がいた。
「人に名前を尋ねる前に自分から名乗れ!って、侵入者のうちらが言うことじゃないけど……。」
言葉とは裏腹に、ユウリがおびえているのが伝わってくる。それに、幽霊のようなこの感じ。恐らく、フウリさんだ。
「もしかして、ユウリ?」
「あ、あ……。」
私の体に、ユウリ側の震えが伝わってくる。
「ご、ごめんなさい、急にお邪魔して。あなたに会いたいって、ユウリが……。」
体が震え、声が出なさそうなユウリに代わって、私が答える。無理もない。自分が死なせてしまった妹が、幽霊としてこの世にとどまり続けているなどと知ったら、その悲しみは計り知れないだろう。それも、強気なふりをしていつつもとても繊細なこの友人には。
「あなたも、体の半分を姉に使わせているのですか?それ自体を否定するつもりはありませんが、不幸が起きたときに逃げられませんよ?」
その声からは、戦火から逃げ続けた時代の人間の重さがこもっている。急にのどが渇いていく気がした。
「ふ、フウリさん、まずは落ち着いて、話し合いましょう?」
「私は、姉以外に興味はないのです。あなたもここで私たちの仲間入りをしたくなければ、失せるのです。」
「フウリ!マキにそんな言い方……!」
どうしてもフウリさんには強く出られないのか、いつも私をかばってくれる時に比べて、明らかにユウリの迫力がない。
「ユウリも、何か余裕がおかしいですよ。いつの間にかそんなに弱気になってしまったの。」
「そ、それは……。」
もしかしたら、いや、確実にユウリはフウリさんへの負い目でまともに話すことすらままならないのだ。
「この、田中シオリとかいう人間の体は非常に強い。私も以前みたいには、簡単に死ぬことはないです。私と一緒に、またいろいろ遊びましょう、お姉ちゃん。」
フウリさんがお姉ちゃんといった瞬間、ユウリの体が再び震えた。
「さあ、行きましょう。」
フウリさんは、迷わずユウリの側の手を取った。私の手ではなく。
「また、いろいろして遊びましょう。」
しかし、次の瞬間だった。
「私には、フウリと一緒にいる資格はない。」
そう言って、フウリさんの手を振り払ったのだ。
「妹を殺した姉が、親友も殺して妹の元に戻るなんて、そんなのできない。ごめん。」
この強すぎる自責が、フウリさんにはたまらなかったのだろう。
「ふざけないで!例の事件では、多くの人が死んだ!その中に私が偶然含まれていただけ!お姉ちゃんのせいじゃない!」
だが、次の言葉がいけなかった。
「こんな弱気になっているなら、お姉ちゃんと再会なんてしなければよかった!今のお姉ちゃんは気持ち悪いよ!」
胸を突き刺されたかのようなユウリのショックが、体を通して私にも流れ込んできた。
無理を通して、親友にも無理をさせてようやく会えた妹に、気持ち悪いと突き放された。誰よりも大切にしてきた妹に。
「……ごめん。」
マキ、帰ろう。
言葉ではなく、気持ちだけが伝わってくる。どこまでも悲しい気持ちが。
「そんな、でもっ!」
私の言葉は、今のユウリには届かない。私とユウリは、お互いを引きずるように、引きずられるようにして西園寺ホテルを後にした。
それから、どのようにして帰ったのかは覚えていない。次に記憶に残っているのが、警察に保護された私たちを迎えに来た担任の佐藤先生が、泣きながら抱きしめてくれたこと。
「無事でよかった……。本当に、本当に良かった……。」
この先生は熱血で、生徒思いで、誰よりも親身になってくれる先生だ。服装もボロボロなところを見ると、きっと引率をほかの先生に任せて、自分も走り回っていたのだろう。私たちも、先生に抱き着いて泣いた。
次の日の朝、起きると、ユウリがいなくなっていた。右手側には、
「マキの霊感は全部吸い取った。もう、私が見えるようになることはないと思う。」
ユウリの字でそう書かれたメモが残っていた。
久しぶりの自分の体を全部自分で動かす感覚に、なぜか体の重さだけが感じられた。
翌週、東京に帰り、新聞を開くと、広島の西園寺ホテルの屋上で謎の爆発があったことが記されていた。
フウリさんだろう。もしかしたら、西園寺家の人たちに除霊されてしまったのかもしれない。
そう思うと、少し寂しいような、懐かしいような気分になった。
月日は過ぎ、卒業式。
私は佐藤先生の影響で、教師を目指すことにした。科目はまだ決めていないが、大学は教育学部だ。
「バイバイ、ユウリ。」
私は、ユウリがやたら気に入っていた体育館倉庫に別れを告げた。
奥の方で何かが倒れる音がしたが、それがユウリのせいなのかはわからない。
さらに月日が過ぎ、私は教員資格を得て、常楚女子高校に戻ってきた。教壇に立つときはあがり症が治らないし、やたら出席率が低い生徒も若干名いるが、比較的穏やかなクラスだ。
でも、今日は少し緊張するお仕事である。
「実は、一学期の時点で、出席日数が足りないんです。」
クラスの中でもトップで出席率が低い、佐藤カヅキさん。この子にこの言葉を伝えなくてはいけなかったのだ。
「あ、あ、えーっとですね?正確には、出席日数がかなり少なすぎるよって言う警告が付いてるんです……。ご、ごめんなさいっ!」
ついつい謝ってしまう自分の弱さに歯噛みしながらも、佐藤先生のようになると決めた自分を奮い立たせる。
佐藤先生を目指して一年目の問題児が佐藤だなんて、何か運命的なものを感じる。そういえば、浦和さん、鈴木さん、田中さんもウチのクラスにはいたなぁ。三年には西園寺財閥のお嬢様もいるらしいし。
約二週間の後、それでもどうしても学校を休みたかったらしい佐藤さんが、わが校の新しい謎制度、国内短期留学から帰ってきた。
これには、レポート提出が義務付けられている。
そのレポートには……。
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