第5話

5.Magic principle(魔法の原理)


 バスが出発してから約4時間ほどが過ぎていた。


 そしてこの世界に着いてからも2時間以上が経過している事になる。


 朝食を食べたのが6:40だったのでお腹が減るのも当たり前か…と月斗(げっと)は思っていた。


 予定では10時には寺に到着して境内(けいだい)で軽く運動をしてから昼ごはんのはずだったので、皆おにぎりやらお弁当やらの類(たぐい)のものは持っていなかった。


 堂島がお腹が空くだろうと気を利かせてマネージャーの2人に用意させたパンとお菓子で、妃音(ひめの)や運転手を含めた全員がお腹の足しにした。


 太陽が沈んで元の世界で見るよりも灰色がかった月が地平線のほんの少し上に浮かんでる。


 こんなにも真っ暗な夜空に星一つみえないのは雲が夜空を覆い尽くしているせいだろうか?


「でもそもそもこの魔法と名前の共通点てどうなってるんだ?」


 月斗(げっと)が誰に聞くでもなく呟く。


「この世界にも神様がいて、俺らの事を見ていて、コイツこの名前だからこの魔法な!みたいな?」


 それに陸(りく)が答える。


「いやいや、異世界って神様の数が少ない割に身近にいたりもするみたいですけど、そんなマメなことはしないでしょ!」


 2人の問いかけに1年の梶(かじ)が答えた。


「日本みたいに八百万(やおよろず)もいたりしないの?」


「居ませんよ!精霊=神様みたいな概念もあるみたいですよ!」


「梶(かじ)ぃ!お前詳しいな!」


「ええ、僕は異世界モノ好きなので!そんでもって異世界に来た人間は、大体チーターなんですよ!」


「チーター?異世界モノ?」


「ええ、すごい能力値が高くて無双するんです!」


「チーターが?」


「いえ、その発音だと大御所演歌歌手みたいになりますんで!」


 梶(かじ)が月斗(げっと)のイントネーションに突っ込んだ。


「正しくはチーターです」


「その能力ってどうやってわかんの?」


「大体は目の前に自分のステータス画面が表示されたり、ギルドや教会なんかで能力値を測ってもらうんです。」


「ギルドって?」


「商人なら商人ギルド、手工業なら手工業ギルド、ここでは、冒険者ギルドの事ですね。いわゆる組合?みたいなものですかね。」


「へぇー冒険者ギルドってのがあるのか!」

 

「じゃあさ。みんなに魔法の事も教えといてくれよ」


「そうですね、異世界が舞台のアニメやゲームだと皆さんご存知の様に、火、水、風、土、雷といった攻撃魔法や、怪我を治したり、死者を蘇らせる魔法なんかもあります」


「おお!」


「ぼくが思うのは自分で頭の中か、無意識に自分の名前と自分自身の魔法を思い浮かべてるんじゃないか?とおもってます」


「うーん、でも俺が火の玉出したときは、妃音(ひめの)さんの光をイメージしてたし、自分のことや名前なんて思い浮かべもしなかった!」


「私、あの時、月斗(げっと)を見てて火の玉とか出そう!って思ってたかも…」


 マネージャーの南 千里(ちさと)がそう言いながら月斗(げっと)の方をみた。


「ぼくも…月斗(げっと)先輩って赤!ってイメージだから一瞬、炎が頭に浮かびました」


 1年の梶(かじ)がそう言う。


「そういえば俺、陸(りく)の足元がちょっとだけ盛り上がったら面白いなぁって思ったかも!」


「カイちゃんの指先は水鉄砲って思っちゃってた!」


「これって、自分が思い描くイメージじゃなくて他人から見たイメージが影響してるんじゃないか?」


 陸(りく)が髪を整えながらそう言う。


「じゃあ、何で妃音(ひめの)さんは最初にあんな事が出来たんだろう?」


「多分それもイメージなんだと思います。日本人なら小さい頃から慣れ親しんだアニメの主人公が技を放つときのポーズ」


「か〜め〜は〜……」


「いけません太(たい)さん!それ以上は!」


 1年の梶(かじ)に2年の太子橋(たいしばし)が制される。

 

「なるほど、何となくだけどこの世界のルールがわかって来たな」


 梶(かじ)の説明に月斗(げっと)は頷きながら

 

「じゃあさ、誰からもイメージされない1人きりの時って魔法は発動しないのかな?」


「そうなるんじゃないかな?」


 陸(りく)がそれに応え


「試してみる必要があるな!」


 顧問の堂島(どうじま)が


「もちろんそれ以前に単独行動は避けるべきだが…」


 と皆に伝える。


「先生、俺トイレ行きたいんですけど。」


「おう、トイレなんて無いからそこらでしろ!1人じゃ危ないから連れションでもしてこい!」


 堂島(どうじま)にそう言われ月斗(げっと)達が連れ立って行く。


「あの…私たちも…」


 マネージャーの女子2人だった。


「あ…ああ。お前たちも1人では危険だから、なんだ…その…バスの向こう側の陰でするしか…ないか…」


 そう言われ、恥ずかしそうに南(みなみ) 千里(ちさと)と天道(てんどう) 京華(きょうか)が橘(たちばな) 妃音(ひめの)を誘って向かう。


「トイレが無いなんてありえなく無いですか?」


 天道(てんどう) 京華(きょうか)が2人に話しだした。


 この世界が一体どういうもので、これから何が起こるのかわからないがこの辺りにはトイレと呼ばる様な代物は一切無かった。


 順番に1人1人交代で用を足すことにした。


<挿絵>


「ところで京華(きょうか)ちゃんとやら……見守る必要ってあるのかしら?」


「もちろんですわ!妃音(ひめの)さんとやら……お姉さまを見守れて光栄ですわ!」


 先に京華(きょうか)にお姉さまと呼ばれた南(みなみ) 千里(ちさと)が2人に見守られながら用を済ませた。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 代わって赤いクーペを運転していた橘(たちばな) 妃音(ひめの)の順番だ。


「何だかチェッカーフラッグみたいね……ゴォールみたいな……」


「和柄の今治(いまばり)制ですのよ!」


 千里(ちさと)と京華(きょうか)の持つタオルで目隠しがされている。


<挿絵>


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


「ほんと、てか今私たちがいるところって、巨人の髑髏(どくろ)の中なんだよね?忘れてたけど…」


 南(みなみ) 千里(ちさと)がそう言うと


「ほんと忘れてました…てか本物なんですかね?オブジェ的なものなんかじゃありませんの?」


「何のための?」


「客寄せパンダ的なですわ!」


「今時?パンダで人来る?」


「ものの例えですの。関東でやたらパンダの赤ちゃんがすごいニュースで騒がれてた時期があったんですけど、白浜アドベンチャーワールドだとそんなの、そんなに珍しくないですの。」


「そうなの?」


<挿絵>


 「あと、パンダ、うさぎ、コアラって歌あるじゃ無いですか!知ってました?あの3種類が実際いるのって、日本じゃ神戸の王子動物園だけなんですの!」


 見た目はお高くとまってそうなお嬢様の天道(てんどう) 京華(きょうか)。


 実際かなりな資産家の娘で何故この学校にいるのか不思議だった。


 そんな天道(てんどう) 京華(きょうか)が神戸市立の動物園のこんなウンチクを語るのも不思議だった。


「そうなんだ。」


………………………………………………………………


「もしこんな巨人に出くわしたらどうなるんだろう?」

 

「怖いこと言わないで下さい…」


「それこそ魔法をキチンと使える様にしないと!」

 

………………………………………………………………


 「あースッキリしました!お姉さま方戻りましょ!」


 妃音(ひめの)と千里(ちさと)が顔を見合わせる。


 天道(てんどう) 京華(きょうか)が2人に声を掛けてみんなが集まる場所へと向かった。

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