異世界ナニコレ
現在の俺の心境。
見開きドアップで呆け顔 ── 位の衝撃。
HP残り一桁で状態異常掛かりまくってますな状況。
落ち着いて、一旦話を整理しよう。
まずこの二人、俺を引っ張って来た青年はユージュンさんという名らしい。
そして店 ─正確には店ではなかったが─ の女性はミアさんといって、いわゆる村役場的な所の責任者だという事だ。
申し訳なさそうに二人が説明してくれた話によると、やはりここは剣と魔法な異世界。
町や村の集落の外には野生動物よろしく魔獣が闊歩する。
ただし、至って平和な世界だという事だ。
魔獣が村や町を襲う事もほぼ無く、他国や魔族等との戦争なども今のところ起きる気配はない。
よって異世界から助太刀を呼ぶ様な事態もなく、またそういった技術等も確立していない。
つまり、召喚勇者ってのは俺の勝手な思い込みの勘違いなだけで、実際はただ単に異世界に迷いこんだだけの迷子ってのが正解らしい。
いや待て、日向蒼!
絶望するのはまだ早い!
これまでの情報を合わせた結果でた結論は『召喚勇者ではなかった』という事だけだ。
異世界転移は何も人間による召喚だけではない。
人間以外、もっと大きな意思によって、まだ人々が気付いていない大いなる危機に備えて行われた可能性もある。
そう、人はそれを神と呼ぶのだ!
そしてこの一見平和な世界を襲う未曽有の災害から人々を救う事こそが俺に与えられた使命ってヤツだ!
そう、神に選ばれた救世主!
それこそがこの世界に転移した理由に違いない!
しかし、何一つ説明も無しなんて、手抜きがすぎるぜ。
やっぱりちょっと難易度高くありませんか?神様。
「ふっ…ふっふっふっふっふっ…」
この世の終わりみたいな顔をしていた俺が、突然笑い出したせいで、ショックでおかしくなったとでも思ったのか、手を取り、身を寄せ合い、おびえた様に青い顔で遠巻きに俺を見る二人。
安心させようとくるっと首を巡らせ二人に顔を向ける。
「ひぃっ」
二人から短い悲鳴が漏れた。
え?そんなにヒドイの?俺。
「ごめん、ごめん、大丈夫だよ」
努めて明るく話しかける。
変な噂が立ったらこの先やりにくいし、少しはちゃんとしたトコ見せないとね。
「ちょっと想定と違ったんで驚いただけで、おかしくなったりしてないから」
笑顔で話す俺にほっとした表情を見せる。
少し笑顔がぎこちない気もするが、そこは許してくれ。
「それなら良かった。まぁヒナタも突然の事だし、情緒不安定になっても仕方ないよね」
とミアさん。
情緒不安定か…確かに。
「そうだな、少し落ち着いてゆっくり考えるといいよ」
俺の肩をポンポンと叩きながらユージュンさんが続けた。
うーん、二人ともいい人だ。
とりあえず少し落ち着こう、というので奥のテーブルに誘導されて、椅子に腰を下ろす。
ミアさんが飲み物を入れてくれ、3人でテーブルを囲んで一息入れることにした。
俺も人生初の出来事に一喜一憂しすぎて疲れたし、せっかくなので淹れて頂いたお茶(?)を一口。
「ぶっ!」
口に含んだお茶を噴出した俺に、再びユージュンさんとミアさんが固まる。
「だ、大丈夫か?」
「どうしたんだい!?」
ゲホゲホと
「い、いやあの…」
お茶だと思って飲んだ物がすっぱ甘苦くて、あまりにも予想外の味に吹き出してしまったのだ。
「思ってた味と違くて、驚いてしまって反射的に…」
せっかく淹れて頂いたのに吐き出してしまった事が申し訳なくてぺこぺこと頭を下げる俺にミアさんが気にするなと言葉を掛けてくれる。
「ああ、ヒナタの世界とじゃ食文化が違っていても仕方ないね」
ミアさんの言葉に、俺が噴出したお茶を拭いてくれていたユージュンさんも、なるほどと頷く。
食文化か、なるほどなぁ、そういうのもあるよね。
同じ地球上でも全然違うんだ、ましてやここは異世界だもんな。
これも異世界の醍醐味だと思うと感慨深い。
せっかくだから色々とゆっくり味わおうとお茶を啜った。
う゛ーん、味を覚悟していれば飲めない事はないが、やはり美味いとは思えない。
俺がお茶を飲み始めたので、二人も席に着いてお茶を飲む。
「さて」
全員落ち着いたところでミアさんが口を開いた。
「これからのヒナタの生活の事だけど」
ゆっくりと俺に向き直り、話を続ける。
「とりあえず、当面のある程度の支援はこちらで出来るとはいえ、ヒナタ自身にも収入源の確保をして貰わないといけない」
声と表情に真剣さが増す。
そういえばミアさんはこの村の責任者のお役人なんだよな。
ビジネスモードになるとキリッと引き締まって美貌が際立つなぁ。
っといけないいけない、俺もここは真面目に真面目に。
「ヒナタは元の世界ではどんな仕事をしていたんだ?」
ミアさんの言葉を受ける様にユージュンさんが質問してきた。
「仕事っていうか、俺まだ大学生だったからなぁ、バイトくらいはしてたけど」
「ダイ…ガクセー?バィトゥ?」
変なトコで区切るなよ、違う意味に聞こえるだろ。
「それがヒナタの仕事だったのかい?」
「違う違う、大学生ってのは職業じゃなくて」
慌てて両手を振って否定する。
うーん、言葉が通じる様になったとはいえ、社会構造がまるで違うし、認識の擦り合わせだけでも苦労するなぁ。
なんとか簡単にこちら側の社会構造を説明する。
「なるほど、大体は解ったよ」
俺の説明をメモしながら纏めていたミアさんが、メモを見ながら話しを整理しているのか、時折頷きながら返事をする。
しかし、文字の意味もちゃんと理解できるとは、すごいな魔石。
まぁ書けっていわれたらムリっぽいけど、とりあえず読めるからいいか。
「えーと、つまり」
ミアさんのメモを覗き込みながらユージュンさんが話をまとめる。
「ヒナタの世界ではダイガクという組織で知識を学ぶ場があり、ヒナタはそこに通っていたと」
そうそう、そういう事。
うんうんと頷いて見せる。
「つまりヒナタは賢者の修業をしていたって事だね」
ちっがーーーーう!
いや、こっちの世界観じゃあながち間違っていないのか?
しかしそんな大それたモノでは…。
「ま、まぁそれ程凄い事をしていたワケじゃないけど、そんなカンジかもしれなくもないです」
細かいニュアンスを説明できる気がしないので、とりあえず日本人の必殺技、なんとなくうやむやにして流すを発動。
それはさておき、確かに現状収入源の確保というのは大切だ。
この世界での主な稼ぎをミアさんが説明してくれたのでまとめてみよう。
『ミア先生の異世界お金儲け講座』
まずこの村、サイリンは鉱石や魔石の採掘で出来た村です。
なので住民のほとんどが採掘で収入を得ている、ここでは最もポピュラーな仕事です。
採掘量の2割を領主に収め、残りは自分の物という完全出来高給のため、簡単な登録をすれば誰でも可能。
そしてこの村の鉱山はかなり優秀でコンスタントに稼げる&一攫千金も期待できるかも?
うーん、異世界に来て採掘師ってのもないだろう、次、次。
その鉱山での監視や警備をする警備兵。
盗掘や盗賊等からの監視、警備や万一事故が起きた時の避難誘導、人命救助等をするお仕事です。
給料は固定給、危険手当等がつくのでそれなりに高給。
ただし、盗賊と戦ったりする可能性もある為、入隊には剣技等の実技試験や確かな身元保証などが必要で、領主からの許可がでないとなれません。
まぁ、異世界人の俺としては盗賊なんかにはヒケはとらないと思うが、身元保証とかネックがあるし、もっと華々しく活躍できる職が希望なのでこれも却下。
村の中での仕事と言うとそれくらいで、店などもあるが、家族経営の個人商店ばかりなので基本求人はしていません。
なので、日に何本か出ている乗合馬車で一時間程の場所にある町に行けば店の従業員等の仕事もあります。
また、元手があれば登録料を払い、物件を準備して店舗の開設も可能。
元の世界じゃコンビニバイトもしてたけど異世界に来てまでしたくない。
次いってみよー!
一攫千金も狙えて高収入、但し命の危険も少なくないのが魔獣ハンターです。
依頼によって、畑を荒らしたり、街道で人を襲う魔獣を退治したり、魔獣の
強い魔獣ほど素材も高値で取引されますが、怪我や命を落とす危険性も当然高くなります。
大体4~6人程度のパーティを組んでいる事が多いです。
それだぁぁーーーっ!!
魔獣ハンター!
く~っ、いい響きだぜ。
「ヒナタ、本気で言ってるのか?」
魔獣ハンターに興味を示した俺に、ユージュンさんが慌てて真意を確かめる。
「ちゃんと話を聞いていたのかい?怪我で済めばいいけど、命を落とす事も稀なんだよ」
ミアさんも俺を思い止まらせようと危険性を強調する。
しかし、腐っても異世界転移者、その実力を存分に発揮するにはコレっきゃないでしょ。
「まぁ見ててくださいよ、俺はやるときゃやる男なんで」
「でも今までそんな経験はないんだろう?」
俺の自信たっぷりの言葉にも全く信用の無いミアさんの冷静な突っ込みがはいる。
そりゃあね、ゲームならともかく、現実世界に魔獣なんていなかったしね。
「大丈夫ですってば」
ドンっと胸を叩いて見せたが、そういえばまだ自分の能力の把握すらしてなかったな。
まずはそこを確認しておかないと、二人ともびっくりするだろうなぁ。
「ところで、ステータスとかはどうやって見るんですか?」
俺の言葉にキョトンとして顔を見合わせる二人。
うーん、この状況も今日何度目だろう。
まぁこちらでは当たり前の事でも俺には聞かないと分からない事なので説明に付き合って欲しい。
「ステー…タス?」
「はい!」
「って何?」
ユージュンさんの言葉にガクッと体勢を崩す。
あれ?言葉が違ったのかな?
「えーと、能力を数値化したものとか、スキル…個人の特殊能力の一覧っていうか」
益々困惑顔になる二人。
え?何でそんな反応?
「ヒナタの世界ではそういうのが見れるのかい?」
ミアさんの言葉に今度は俺が混乱する。
「え?いや、俺の世界にはないですけど、異世界なワケだし…」
しどろもどろで答える俺にミアさんのとどめの一言が刺さる。
「ヒナタの世界で見れないならこちらでも見れないと思うよ?」
グワーーーン!!!
再び脳髄を強打された様な衝撃。
え?ステータス見れるのってお約束じゃなかったの?
じゃあどうやって強さを把握すればいいんだ?
いやまぁ地道に実戦で計るとかあるけど、でもスキルは?
どんなスキル持ってるか解んないとどれだけ強いスキル持ってても発動しようもなくない?
あ、戦ってレベルアップすると獲得スキルが自分にだけ分かるとかそういう感じなのかな?
そうすると最初はあまり強い敵には挑まない方がいいのか。
「そうだ!魔法!」
再び長考に入った俺に、恐る恐る近づいて来ていた二人が突然の俺の叫びに飛退く。
「え?はっ?」
「魔法ですよ、魔法!こっちって魔法使えるんですよね?」
「「あっ?ああ、つ、使えるけど?」
俺の迫力にたじろぎながら答えるミアさん。
「そうだよ、魔法だよ、魔法!」
異世界から来た大魔法使い!
これだよ!!
難易度高めの異世界アレコレ 堡塁夕芽 @hourui
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