難易度高めの異世界アレコレ

堡塁夕芽

異世界キタコレ

─── ここは…? ───


煉瓦と木造の家々。

溢れる自然。

中世ヨーロッパの木こりや町娘の様な服装の人々。

現代ではありえない、まるで丸い城壁で囲まれた街並みでもおかしくない世界観。

これは、間違いない!


「異世界キタコレ!!」


夢物語としか思っていなかった異世界に、自分が本当に足を踏み入れた感激につい叫んでしまった俺、日向蒼ひなたあおに周囲の視線が注がれる。

突然異世界に放り出された衝撃で、前のめりにコケて四つん這い状態だったこともあり、少し気恥ずかしくなって慌てて立ち上がると、服の埃を払った。

「う、うん」

照れ隠しに咳払いひとつして、改めて周りの状況を観察する。

異世界である事は間違いないだろう、しかし、ん?何か少し変な気が…。

状況から考えても、転生系ではなく召喚・転移系だろう。

俺の姿形もそのままだし、第一俺は死んだ覚えはない。

だが、それにしてはここは見るからにのどかそうな田舎の村ってカンジだ。

召喚なら城とか教会とかの、いかにも神秘的な部屋とかじゃないの?

「ふーむ…」

あ、アレか!召喚術中に何らかのトラブルがあって、召喚場所がズレたとかそんな感じ?

って事は城からのお迎えがその内ズラッと並んで、皆で俺にかしずいて「お迎えにあがりました、勇者様」みたいな。

そんでもってその使者を率いてるのが美少女騎士だったりして…く~っ、テンションあがるわー。

おっと、その前に夢じゃないか確認しておこう。

自分の頬を指で抓んでひねってみる。

うぉ!いてぇ!よっしゃ、夢じゃないのは確定っと。

突然叫んだかと思うと、百面相し、あげくに自分の頬をつねってたりしてる俺に、周囲の奇異の目が更に突き刺さる。

おっと、いけないいけない。ここは落ち着いて、勇者たる者、おかしな噂になる様な言動は慎まねば。

顔をキリッと引き締めて、堂々とした風情で、はすに構えて立っちゃったりして。

カッコつけすぎかな?

まぁ勇者だし、これくらいいいよね。

「……」

え?あれ?俺これからどうすればいいの?

いつまでもここに突っ立ってるワケにもいかないだろうし、かといってあまり動き回ってもお迎えと擦れ違っちゃマズいし、大体道も分からないし。

身の振り方に悩む事数分、遠巻きに俺を眺めていた村人の一人が近づいて来た。

ふむ、とりあえずあの人から少し情報収集するか、まぁ冒険の基本だしね。

「●☆◎△×」

「うえっ?!」

話し掛けられたのはいいが、何を言ってるのかまるで解らない。

え?え?こういうのって普通なんでか言葉が通じるってのがセオリーじゃないの?

言葉通じないってマジで?

「◆△□◎×●□×△」

いやだから、そんな話しかけられても分かんないってば!

ちょ、これ、難易度高すぎねぇ????


何とか意思疎通を試みるも、やはり言葉の壁はでかい。

俺たち二人の会話(?)の様子を見ていた周りの人達も寄って来ては口々に何かを喋っているがまったく解らん!

「だから俺は日向蒼って言いましてぇ、異世界からですね」

身振り手振りを交えて何とか説明しようとするも、通じたのはどうやら名前だけらしい。

「アーオ?」

「そう、そうです、俺、蒼です、蒼」

「アーオ!」

「アーオ」

「アーオォ」

って、人を取り囲んでアーオ連発するなよ。何か変な鳴き声みたいじゃないか。

「アーオ」

初めに話しかけてきた青年が、呼びながら俺の腕をひっぱる。

「いやあの、アオなんだけど、できればアは伸ばさずにね」

伝えるべき事はもっと他にあるのだが、とりあえずアーオと言う間抜けな響きが気になって訂正せずにはおられなかった。

まぁ全然通じちゃいないんだけどね。

そんな俺の葛藤はどこ吹く風で、何故かグイグイ腕を引っ張られ、どこかへ連れて行こうとする。

「ちょ、ちょっと待って!」

これ付いてっていいものなの?

何か変なトコに売られたりしない?

言葉は解らないが、皆結構笑顔だったりして、フレンドリーな感じなので、強く抵抗するのも躊躇ためらわれて、つい流されるままに引っ張られて行く。

着いた先は一軒の何の変哲もない家のひとつだったが、読めない字で何かの看板が掛かっている所を見ると、何かしらの店なのか?

まさか奴隷商とかじゃないよね?

ちょっとびびって引け腰になっている俺を更に強い力で引っ張る。

「アーオ!」

ドアを開け、俺の名を呼ぶと、カモン!とでも言っている様に店の中を親指で指さす。

こうなったら腹を括るしかない!

何かあったとしても、きっと勇者特有スキルとかで何とかなるだろう。

俺は恐る恐る店へと足を踏み入れた。

「おお、これはっ!」

店の中は別段おどろおどろしい雰囲気でもなく、机の上にはクリスタルの様な虹色に光る玉が置かれ、奥の棚には色とりどりの石や、立派な装丁の分厚い本などが置かれ、正に異世界の店ーっってカンジでちょっとドキワクした。

ああいう玉って何て言ったっけ?魔法道具的な、あっ、そうそう、オーブとかそんなん。

雰囲気からすると占いの店とかそんなカンジなのかな?

ここで俺の勇者としての運命を告げられる、みたいな。

でも言葉通じないしな。

そんな事を考えていると、店の奥とを仕切る布の陰から、店主と思われる女性が出てきた。

ストロベリーブロンドの美人!

しかし、占い師にしては割と普通の格好だ。

もうちょっとこう、妖しげなローブとかヴェールとか宝石ジャラジャラとかあってもいいような気がするが。

俺を引っ張ってきた青年と何やら二言三言言葉を交わすと、オーブ(仮)の奥で俺を手招きする。

「△■◎〇▽□◆◎×」

いやだから、しつこいけど何言ってるか分かりませんから。

相手の身振りや、俺のファンタジー知識を総動員すると、どうもオーブ(仮)に手を置けって事らしいな。

やっぱ占いとか、潜在的な力を読み取るみたいなものか?

とりあえずオーブの上に手をかざしてみる。

「◆◇◎×▽」

今度は何だって?

青年と店主が揃って口の前で手をパクパクさせる。

何か喋れって事か。

「あー、俺は日向蒼って言って、地球って星の日本って国から来ました」

何喋ればいいのかわからんし、とりあえず自己紹介してみる。

するといきなりオーブが眩しく光りだした。

おおーーー、これぞファンタジーだぜぇーーー!!

興奮してつい鼻息が荒くなってしまう。いかんいかん。

光はすぐに収まり、虹色だったオーブがターコイズブルーぽく変わった。

その変化をじっと見ていた店主が奥の棚の前に行くと、そこに置いてある石を見比べ、中から一つを取って戻ってきた。

店主の手に握られていたのは、オーブと同じ色をしたライター大の石だった。

それをオーブに近づけると、二つが共鳴したかの様にもう一度眩しく光った。

店主と青年でまた二言三言言葉を交わし、青年が後ろのテーブルから皮の紐らしき物を持ってくると店主に渡す。

それを器用に石に巻き付けてペンダントの様に結んだ。

そいつを俺に差し出して、首に掛けろというジェスチャーをする。

お守りとかなのかな?

とりあえず綺麗だし、いかにもファンタジーっぽいし、つけてみよう。

首から下げると、石の中に水玉のラメみたいなものが幾つも現れて、更にファンタジー度が上がった。

「おおーっ、すっげキレイ」

石を親指と人差し指で挟んで、目の前に持ち上げるとまじまじと見る。

水玉のラメがバーバリウムみたいに石の中で揺れて、異世界の宝石感が凄い!

「ははは、気に入ったみたいで良かったよ」

目をキラキラ輝かせて、まるで子供が宝物を見るみたいに石を眺めていた俺を見て、店主が声を掛ける。

「いやー、ほんとイイですよ、コレ」

って、アレ?今言葉通じてなかった?

「ああ良かった、ちゃんと対応したね」

青年の言葉に店主が頷く。

やっぱりちゃんと言葉が解る!って事はもしかしてこの石が翻訳機の役割なのか!

魔石ってヤツか?うおぉぉぉぉ、すげぇぇぇぇぇ!これぞ異世界ファンタジー!やっぱこうでなくっちゃね。

「えっと、この石が翻訳…言葉を通じさせてくれてるんですね?」

一応確認をとっておこう。

「理解が早くて助かるよ」

店主がグッと親指を立てる。

さっきの何か話せの時もそうだったけど、ボディランゲージは割とこっちの世界も同じ様なんだな。

「とりあえず言葉が解らないとどうしようもないしね。だからアーオをここに連れてきたのさ」

青年よ、本当にありがとう。グッジョブだ。

でもやっぱりその呼び方はやめてくれ。

「アーオじゃなくてアオでお願い」

俺のあまりにも間抜けな初めてのお願いにキョトンとする二人。

「ア…オ、アォ、アーオ、アー」

何か口々に言いだしたけどそこまでの事じゃないだろう。

「うーん、やっぱりアーオの方が言いやすいよ、アーオでいいだろう?」

なんでやねん!!

「そんなにアオって言いにくいですかね?」

「ちょっとこの辺りじゃ聞きなれない言い方だしねぇ。アーオの方が良いねぇ」

店主までアーオ押しだよ。

でもアーオってのはやっぱり俺の感覚じゃ変な鳴き声みたいで嫌だ。響きも間抜けだし。

「じゃあ日向の方で呼んでください」

「ヒナタ?」

「俺、日向蒼なので、蒼が言い難いのであれば日向の方はどうかと」

俺の提案に頷く二人。

「分かったよ、これからアーオの事はヒナタって呼ぶことにしよう」

とりあえずこれで呼び名問題は解決、っと。

って、そんな事はどうでもいい、本題だよ、本題。

「えっと俺、ここと違う世界から来たと思うんですけど、きっと俺をこの世界に呼び出した人がいると思うんですよね、それで…」

俺の言葉に顔を見合わせる二人。

何を言ってるんだ、コイツはって感じか。

まぁ仕方ない、この人達はどう見てもただの村A,Bって感じだしね。

突然異世界からの召喚者って言っても理解しがたいだろう。

俺の言葉や服装の違いなんかも、ただの外国人くらいの感覚だったんだろうし。

さて、そうするとこの村では俺を呼び出した相手の情報を直接知るのは難しそうだ。

ここは世界情勢とかこの辺りの権力者の事とかの話を聞いて、そこから推測していくしかないかな。

それよりもやっぱお迎えが来るのを大人しく待つべきか…。

「あの…ヒナタ?」

つい考えに没頭してしまった俺に、心配そうに声を掛けてきた青年。

「あ、ごめん、ちょっと考え込んじまって」

顔を上げた俺に、少し安心したような様子を見せながらも、八の字眉とひきつった様な笑いを浮かべて、困った様な顔で目くばせする二人。

まぁ俺も元の世界でそんな事言い出す奴が目の前にいたらこんな感じになっただろうな。

何か言いたげだけど言い出しにくいって感じで二人がごちゃごちゃやっている。

大丈夫ですよー。別に頭がおかしい人じゃないですからねー。

でもこの反応を見るに、召喚者ってのはあまり口外しない方が賢明かな。

店主がふっと短く息を吐きだし、意を決した様に口を開いた。

「ヒナタ、言い難いが、キミは何か誤解をしている様だ」

「へっ?」

ん?誤解??

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