第4話ジョーズドッキリ

俺は夏休みになると、爺ちゃんのやっている海の家を手伝っている。

夏休みの時期になると、大勢の海水浴客がやってくる。

「おーい、魚山うおやま!!コーラ補充してくれ。」

「はーい。」

俺は海の家の冷蔵庫にコーラの瓶を補充する。

爺ちゃんは料理と経営の担当で、雑用は俺や地元の学生バイトにやらせている。

「おーい、焼きそばとコーラ四つ!!」

「あいよ。魚山、コーラ四つ持ってこい。」

爺ちゃんに言われて、俺は四人組を見た。

四人組とは話したことはないが、去年もこの海水浴場に来たのを見たことがあり、ナンパなどの迷惑行為をしていた。

俺はコーラの瓶四本を、注文した四人組に渡した。

「姉ちゃん、俺たちと遊ばないか?」

四人組が女子大生であろう二人にナンパしてきた、二人は嫌そうな表情をしている。

「俺たちと遊ぶと、いい夏の思い出になるよ~。」

四人組の正体は大学生の男たち、顔と体はかなり良いが、やっていることはみっともない。

「うーん、そういう気の強いところもいいよ~。」

嫌がる女子大生に、四人組の一人が腕を掴む。

見ていられなくなった俺は、「止めろよ!!」と大声で怒鳴った。

「あ?なんだこのガキ。」

四人組全員の目が俺を上から冷ややかに見つめる。

「嫌がっているでしょ、止めてあげなよ。」

「お前、中学生のくせに生意気言うんじゃねえよ!!」

「俺はまだ小五だ。小五がみっともないと思うことをするなんて、お前らの方が子供だよ!!」

「んだとこらぁ!!」

「止めんかナンパ者共ーーっ!!」

激昂した爺ちゃんの声、焼きそばの入ったトレーを四つ持っている。

俺と四人組だけでなく海の家の客全員が、爺ちゃんの迫力に凍り付いた。

「焼きそば四つだ、金払ってとっとと失せろ。」

爺ちゃんの声はヤクザ顔負けだった。

四人組の一人が代金を払って焼きそば四つを受け取ると、四人組は決まりが悪そうに海の家から出ていった。

爺ちゃんは「大変失礼しました。」と客たちに謝ったが、客たちから神対応だと賞賛され、ナンパされた女子大生二人は俺と爺ちゃんに何度もお礼を言った。







その後、俺は親戚の優二ゆうじのところへ向かった。

優二は有名大学のロボット工学部に所属していて、開発メンバー五人と一緒に開発したサメ型のロボットの試運転をしに来ている。

優二は海水浴場から百メートル離れた海岸に、開発メンバーたちと一緒にいた。

「優二ーっ!!」

「おっ、魚山!よく来たな。」

「これが開発したサメ型ロボット?」

「そうだ、ホホジロザメをモデルにしたんだがどうだ?」

サメ型ロボットはデザインがリアルで、大きさは二メートル以上。

パーツを分解してまた組み立てることができるので、持ち運びしやすくなっている。

サメ型ロボットを海に浮かべると、優二はリモコンのスイッチを入れた。

サメ型ロボットは滑らかに泳ぎ出した、その姿は本物さながらだ。

「すげえ、リアルなサメだぜ。」

「そうだろ?完成に二年かかった力作なんだ。」

「作るの大変だったけど、楽しかったな・・・。」

三つ編みの女性が言った、名前は沖海子おきうみこだと優二が教えてくれた。

俺は海を泳ぐサメ型ロボットを見て、あることを思いついた。

「優二、このサメ型ロボットを貸してくれない?」

「は?何をするんだ?」

俺は優二に海の家で出会った四人組の事を話した。

「それで、そいつらにイタズラしたいんだ。だから貸してくれないか?」

「えーっ・・・。そんなくだらないことには貸せない。」

優二は冷たく言い放った。

「いいよ、私も混ぜてくれるなら。」

突然、海子が口を開いた。

「海子さん、いいの!?」

「海子、お前本気か?」

「そうよ、その四人組の話聞いてたら許せなくなったわ。海の上でギャフンと言わせてやりましょ!」

海子はノリノリで俺と握手した、優二は深いため息をついた。








その日の午後二時、俺は優二たちと一緒に海水浴場の端っこに来た。

俺は双眼鏡で、四人組を捜す。

「いたぞ!」

四人組は意外にもすぐ見つかった。しかもかなり沖の方に出ている。

優二に双眼鏡を渡して位置を確認する。

「あれくらいの距離なら大丈夫だ。」

優二は双眼鏡を僕に渡すと、サメ型ロボットを海に置いて、発進させた。

「まず潜水して、あいつらの所へ行きましょ。」

「わかっている。」

サメ型ロボットは海中を泳ぎながら、五分程で四人組のいるところへ来た。

「少し海面に近づこう。」

サメ型ロボットは海面近くまで浮上した、すると双眼鏡を持っている海子が言った。

「あ、誰かが気づいたみたい。かなり慌てているわ。」

「よし、次は背びれを出して奴らの周りを旋回だ。」

サメ型ロボットは背びれだけ海面に出すと、四人組の周りを泳いだ。

四人組は恐怖に怯えた顔で、身を寄せ合っている。

「かなりビビッているわ、ロボットなのに・・・。」

海子は双眼鏡を持ちながら笑っていた、そして他の二人にも双眼鏡を渡した。

「なあ、今度はジョーズみたいに襲いかかってよ。」

「無理だ、リアルにできているが本物みたいに噛みつくことはできない。」

「じゃあ、ジャンプさせてよ。かなり驚くわ。」

「・・・一回だけだからな。」

海子に言われて優二はサメ型ロボットをジャンプさせた。

「おっ、跳ねたぞ。」

「うわあ、すげえ!!」

俺は跳ねるサメ型ロボットに興奮した。

四人組はすっかりビビッて、海岸へと泳ぎ出した。

「よーし、追撃だ!!」

「駄目だ、電池が切れる。すぐに戻らせないと。」

「あーあ、残念・・・。」

海子は子どもみたいに落ち込んだ。

でも俺はとってもスッカっとした。

それからサメ型ロボットを回収すると、優二と海子たちは泊っている宿へと帰って行った。







翌日、あの海水浴場でホホジロザメが出たとニュースになり、しばらく海水浴場が遊泳禁止になってしまった。

爺ちゃんは「商売あがったりだ・・・。」とぼやいていたが、俺はあの「ジョーズドッキリ」を忘れない。

機会があったら、また泳がせたいな・・・。

















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夏の痛快大作戦 読天文之 @AMAGATA

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