第3話夏期講習の闇

「ほら、ここの答えはこの方法で解くのですよ。」

中学三年生の私の脇腹を触りながら、講師の伊藤いとうが猫なで声で言った。

不愉快な気分だ、夏期講習のためこの松山塾を選んだのは間違いだった。

松山塾はマンツーマン授業なので、必ず伊藤と二人きりになるのだ。

「あ・ありがとうございます、伊藤先生。」

私は愛想笑いを浮かべながら頷いた。

それから一時間、私は伊藤からのセクハラ地獄に耐えながら勉強した。

「はい、今日はここまで。また明日も頑張ろうね。」

「はい、さようなら・・・。」

私は学生カバンを持って部屋を出た。

『あーー、もうーーー!!何で私がこんな目に遭うのよ!!』

私は心の中で叫んだ、そして帰宅しようと下駄箱に向かったときだった。

「あの、屋内菊美やないきくみさんよね?」

後ろから声をかけられた、そこには新田にった先生の姿があった。

新田先生こと新田里美にったさとみは今年この松山塾に来た新人の講師で、男女問わず好かれる優しい性格である。

「何でしょうか、新田さん?」

「あなた、伊藤にセクハラされているでしょ?」

新田は真剣な顔で質問した、私は急なことでドキッとしたが「はい」と答えた。

「やっぱり・・・。ねえ、これから時間ある?」

「はい、一時間程なら。」

「じゃあ、近くの喫茶店へ行きましょ。奢ってあげるし、私は仕事を上がるところだから、気にしないで。」

そして私と新田先生は、松山塾の右隣にあるカフェに入った。

注文して席に座ると、新田が話し出した。

「伊藤はね、高校生の頃から何人もの女を泣かしてきたの。私の知り合いにも、やられた人がいるわ。」

「そうなんですか、あいつ本当にゲスで最低ですね。」

「だから伊藤を松山塾から追い出したいの、協力してくれるかしら?」

「いいよ、協力してあげる。」

二つ返事で私は新田と手を繋いだ、伊藤なんていない方が勉強に集中できる。

「それで、何をやるの?」

「あなたにはこれを持ってほしいの。」

新田はカバンからボイスレコーダーを渡した。

「ああ、これでセクハラしている音声を録音すればいいのね。」

「ううん、ボイスレコーダーはおとりよ。証拠は私が仕掛ける隠しカメラで撮影する。だから伊藤がセクハラしたら、『警察に訴えるわ。』と言って一芝居してほしいの。」

「なるほど、新田先生凄い・・・。」

「じゃあ、明日ボイスレコーダーの電源を入れて授業を受けてね。あなたなら必ずできる。」

新田の笑顔に私は自信が湧いてきた。

そして注文したクリームソーダを飲み終えると、喫茶店を出て家に向かった。







そして翌日、私はいつも通り松山塾で伊藤の指導を受けた。

案の定、伊藤はセクハラをした。しかも私のお腹を撫でてきた。

「伊藤先生、もう我慢できません!!」

急にどなった私に驚く伊藤、すかさずカバンからボイスレコーダーを取り出す。

「屋内君、それは・・・。」

「もう耐えられない、これを持って警察に行く!!」

「それを渡しなさい。」

「嫌だ!!」

「渡すんだ!!」

伊藤は正体を出した、逃げようとする私の腕を咄嗟に掴んで、部屋の壁に私を押し付けた。

「ひゃっ!!」

「フフフ、今時の中学生にしてはやるじゃないか。」

伊藤は私の胸を撫でた、私は羞恥心でたまらなくなった。

「やめてください・・・。」

「じゃあ、ボイスレコーダーを素直に渡してくれる?」

私はボイスレコーダーを伊藤に渡した。

「それでいいんだ、さあ授業を続けよう。」

それから私は授業を続け、終了の時間を迎えた。

松山塾から帰ろうとする私に、新田先生はたけのこの里を渡して、「よく頑張ったね!」と笑顔で言った。

私は嬉しくて、涙を一粒こぼした。









それから伊藤は松山塾から消えた、新田先生の仕掛けたカメラの映像を塾長に見せたことで、伊藤は懲戒解雇になった。

しかも月謝の一部を盗んで、キャバクラの費用に使っていたこともわかった。

このことを両親に話すと、「塾を変えた方がいい。」と言われた。

でも私はこれから新田先生とマンツーマン授業するので、松山塾に通い続ける予定だ。

それから三か月後、新田先生は松山塾を辞めたが、新田先生のことを私は忘れないと誓った。






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