となりの幼女はユリア様

黒いたち

となりの幼女はユリア様

 人には言えない秘密ひみつがある。

 殺意さつい欲望よくぼうのろいやねたみ。

 ドロドロしていたり、鬱々うつうつしていたり。

 種類は違えども、目をおおいたくなるような部類ぶるいであることには変わりない。


 俺だけではなく、この世の人間すべて。

 もっているだろ、なぁ?




 case.1  俺の場合


 ゲームが好きだ。

 ひたすらに敵を殺していくやつ。

 

 敵に合わせて武器を変え、限界までいつめてから一気にとどめを刺すのが快感かいかんだ。

 強ければ強いほど、達成感たっせいかんは高い。


 俺がつかうアバターは、かわいい幼女ようじょだ。

 むかし好きだった、SRPGシュミレーションアールピージーのキャラをモチーフに、細部までこだわって作成した。

 どこが好きって、顔。


「ユリア様きょうも目が死んでるね☆ ぐうかわww」


 衣装いしょうは、全身黒のゴスロリコーデだ。

 動くたびに、絶対領域ぜったいりょういきの太ももの白さが鮮やかにめだつ。


「敵の将軍しょうぐんきた? 死神しにがみユリアにひれせー!」


 手榴弾しゅりゅうだんを投げつけ、散弾銃さんだんじゅうをぶっぱなしながらHPを削っていく。

 敵がダメージを受けて、のたうちまわるモーションが好きなんだよなー。

 最期さいごは決まって、大鎌デスサイズでサックリと命を刈りとる。

 コロリと落ちる頭を踏みつけ、高笑いのモーションを発動すれば――。


「かんっっぺき……」


 性癖せいへきすぎて、イクかと思った。






 case.2 幼女の場合


東屋あずまやしょう! きょうこそ、わたくしと婚約こんやくしてもらうわよ!」


 となりの豪邸ごうていに住む幼女が、毎日俺のボロアパートをたずねてくる。

 顔だけならユリア様に似てないこともないが、いかんせん目がダメだ。

 希望に満ちあふれすぎている。


由利亜ゆりあさま。下賤げせんの民と関わってはいけません」


 幼女をさまづけで呼ぶのは、幼女のメイドだ。

 そう。なんの因果か、となりの幼女の名前もゆりあ・・・なのだ。

 そのうえ、メイドがいる富豪ふごうの一人娘。

 仮にこいつと結婚したら、死ぬほど働かされるのが目に見えている。


「わるいな由利亜さま。俺の人生の目標ゴールは『一生遊んで暮らすこと』なんだよ」


 有言実行の俺は、長い夏休み中なのだ。


「わたくしと結婚ゴールインしてから、そのゆめをかなえればいいじゃない」

「やだ」

「どうして!? ゆりあ・・・のことが好きだって、いってくれたじゃない!」

「同名の人違いだ」


 死神ユリアたんが可愛すぎて、部屋で絶叫していたのを聞かれたらしい。


「由利亜さま。初等部のお時間が」


 メイドが由利亜をせかす。

 ボロアパート前には、りっぱな黒塗りの車が停まっていた。


琴葉ことは。わかりました」


 由利亜さまはランドセル代わりのおしゃれなカバンをかつぎなおし、さいごにいきおいよく振り返った。


「東屋翔! ではまたあした!」

「あしたも来るのかよ……」


 俺が言いたいのはただひとつ。

 不審者ふしんしゃれるな、三次元の幼女よ。






 case.3 彼女の場合


 幼女という名の嵐がさり、あくびをしながらドアを閉める。

 ガッ、と、ドアのすきまにメイドの足がねじこまれた。


「こわっ! なに?」

「東屋翔。おまえ、由利亜さまのことをどう思っている」

「はあ? てか、フルネーム呼びやめろ」

「ではしょう。わたしのことは琴葉ことはと呼べ。そしてドアを開けろ。足が痛い」


 よくみると、メイドはプルプルとふるえ、涙目になっていた。

 え、このメイド、実はおバカ……?


「おじゃまする」

「勝手に入るな!」


 ドアノブから手を離すと、琴葉が遠慮なくずかずかと家に入ってきた。


「汚いな」

「男の一人暮らしなんて、こんなもんだ」


 平均より、すこしばかり汚いかもしれないが。


「では翔。話のつづきだ。由利亜さまをどう思っている」

「幼女」

「おまえは、幼女が好きなのか」

「俺が好きなのはユリアたんだ」

「なに!? やはり由利亜さまのことが!」

「ちがうちがう」


 めんどくさくなったので、ゲームを起動して、死神ユリアたんを琴葉に見せた。


「はぁー♡ ほんじつもみめうるわしいユリアたん……♡」

「なぜこんなにもスカートが短い? なぜ、つるぺたなくせに、胸の谷間が開いた服を着ている?」

「かわいいは正義」


 琴葉がジト目で俺をにらむ。

 よくみたら、美人だな。

 しかも、俺が好きな高圧的こうあつてきな態度をとるから、ムラっとした。


「えいっ」

「ひぎゃ!?」

「D……いや、Eか?」


 けしからんメロンをんでみる。

 くらえ! ゲームできたえた俺の指さばき!

 

「やめっ……あ、んっ」

「わかったか! 俺が好きなのは巨乳だ!」

「わかった、わかったからもうっ……んんっ」


 しかたないので、離してやる。


「翔、おまえが変態だということは、よくわかった」


 涙目で琴葉がにらむ。

 

「お帰りはあちらでーす」


 営業スマイルで、玄関を指す。 


「私はまだ帰らない」

「は?」

「おまえが由利亜さまに欲情しないように、私がすべてしぼりとってやる」 


 琴葉が、いきなり俺のズボンに手をかけた。


「やめろやめろ! 何してんだおまえ!」

「由利亜さまより、私に発情はつじょうしろと言っている! けっして、さきほどの指さばきにれたわけではないからな!? もっとんでほしいとか思ってないからな!?」


 衝撃的な言葉に、俺の動きがとまる。

 そのすきに、ズボンとパンツを一緒にずり下ろされた。


「うわーっ!!」


 俺が言いたいのはただひとつ。

 変質者へんしつしゃれるな、三次元のメイドよ。






 case.4 美人妻の場合


「あなたが、由利亜ゆりあの想い人ね」

「……おじゃまします」


 琴葉にいろいろと・・・・・ しぼられたあと、となりの豪邸にひっぱられていった。

 俺を出迎えたのは、キレイなお姉さんだ。


琴葉ことは、ありがとう。彼と、ふたりきりで話がしたいの」

「はい、奥様おくさま


 応接室に通され、高そうなソファに座る。

 手ずから紅茶を入れて、お姉さんは俺の前に座った。


「はじめまして、翔くん。由利亜ゆりあの母、美奈子みなこです」


 そうかと思っていたが、やはり由利亜のお母さんだった。

 若いな。

 そして物腰がやわらかい。


「夫が、あなたを由利亜の婚約者にしようとしているの」

「ブッ!?」


 紅茶をふいた。


「あの人、由利亜に甘くて」

「いやいやいやいや、自分で言うのもなんですが、ぜったいやめた方がいいですよ!?」

「そうよね」


 あっさり肯定こうていされると、それはそれで落ち込む。


「それで、本題なのだけど」

「はい」


 落ちつくために、紅茶を飲む。


「由利亜の婚約者になったら、私のことも抱いてくれるのかしら?」

「ブッ!?」


 またふいた。


「お……おかあさま……?」

「夫と20歳も離れているものだから、最近ごぶさたでね。もちろん、結婚するまででいいの。由利亜が大人になるまで、あなたも辛いでしょ? おたがいのために、いい考えだと思うのだけど、どうかしら?」


 にっこりとほほえみ、美奈子さんがブラウスのボタンを外していく。


「ちょ、こまります!」

「こんなおばさん、嫌かしら?」


 あらわれたセクシーランジェリーに、ごくりと生唾なまつばを飲む。

 俺の愚息ぐそくはやる気だ。


「俺、実はニートで! 結婚しても仕事ができる気がしないし!」


 はじをしのんで打ちあける。

 美奈子さんは、うふふ、と唇をちかづけた。


「だから、いいのよ。いつでも相手をしてくれる、若いツバメを飼ってみたかったの」

「でも、旦那さんが!」

「だいじょうぶ」


 ふわりとただよう大人の女性のかおりに、目の前がくらくらした。


「夫も、了承済みだから」


 俺が言いたいのはただひとつ。

 ニートにれるな、三次元の美人妻よ。






 case.5 俺の場合・ふたたび


「東屋翔!」

「翔」

「翔くん」


 気が付くと、俺はボロアパートを勝手に解約されて、隣の豪邸に居候いそうろうすることになっていた。


 ゲームができないから行かないと駄々だだをこねたら、その日のうちに、豪邸内に俺の部屋という名のゲーム部屋が準備された。

 バス・トイレ完備の、ホテルのような部屋だ。 


 最新のゲーミングパソコンにゲーミングモニター、ゲーミングチェア、キーボード、マウス、ヘッドホンにいたるまで、ゲームに特化したものがそろえられていた。


 朝ごはんは由利亜ゆりあがはこび、ほっぺにキスをして出ていく。

 昼ごはんは琴葉ことはがはこび、お礼に指さばきを披露すれば、かわりに搾り取って出ていく。

 夜ごはんは美奈子みなこさんがはこび、ベッドで2ラウンドのちに、出ていく。


 数年に一度しか帰ってこない旦那さんから、俺はペットの一員として、正式に認められた。

 ダラダラし続ける適性を判断した結果、俺は合格らしい。

 なんでも、由利亜の婚約者は、無能むのうなほうが、つごうがいいとか。


 たしかに、まともな感性の人間じゃ、いろいろと耐え切れなくなるかもな。


 現に、すこしばかり成長した由利亜は、いろいろと思うところがあるらしく、嫉妬しっとにかられた大人みたいな目で俺を見てくるときがある。

 もともとユリア様に似ていたが、成長するたびに目が似てきて、いつ俺の理性が切れるかヒヤヒヤしている。

 わざとユリア様に似た服を着てくるのは、とても困る。

 俺の愚息をふみつけてほしい、と、ひれ伏して懇願こんがんしそうになるからだ。


 やめろ由利亜。そっちの道に落とそうとするな!

 俺はノーマルだ! 


 まちがえて『ユリア様』と呼んだときの、由利亜の嬉しそうな顔に、うっかり惚れそうになったのは、記憶に新しい。


 由利亜と結婚するまでは、3人を平等に愛するとちかったから、うっかり惚れるわけにはいかないんだ!!


 そんな悩みおおき毎日を送りながら。

 俺は、一生遊んで暮らす、というゴールに到達していた。

  

 人には言えない秘密だらけだが、そんなもの。


 俺だけではなく、この世の人間すべて。

 もっているだろ、なぁ?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

となりの幼女はユリア様 黒いたち @kuro_itati

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ