ゴールしたくないマンガ家
タカナシ
終わらせたくないマンガ家
マンガ家、
そんな折、編集の私が様子を見に行くと玄関先で、
「いやだぁ~!! ゴールなんてしたくないよぉ!!」
目の前で大の大人が駄々っ子のように暴れているのを見るのはかなり精神的に苦痛なのだが、それでもこれも編集者の仕事の一部と思い、なんとか耐える。
「先生、もうラスボスも倒しちゃいましたし、あとは大団円のエピローグとその後だけじゃないですか。もう少しですから頑張りましょう!」
「そんな事したら、俺の可愛い可愛いキャラたちの冒険が終わっちゃうじゃんっ!!」
「でも、読者もラストを読みたがっているんですよ」
「もうラスボス倒した辺りでラストは予想つくでしょ! そこまで求められてないって!!」
「そんな身も蓋もないことをっ! キャラたちのその後とか気になるじゃないですか」
「まぁ、それはそうだけど……。だいたい、なんで終わらせなきゃいけないのさ! 別に人気が悪い訳でも単行本の売り上げが芳しくないわけでもないのにっ!」
私はひとつため息をついて、事実を教える。
「それはあなたが、テレビのインタビューであと2巻で終わるって言ったからでしょ。そうしたら、人気マンガですからニュースとかでも取り上げられて、編集部としても、もう引くに引けないんですよっ!!」
「うっ、それは申し訳ないと思ってるけど、でもさ、最近は引き延ばしなく終わらせてくれるし、あのときはここで終わらせるのがベストだと思ったのぉ!!」
「その結果がこれですよ。反省してください」
尾張先生はその場で正座すると反省の意を見せる。
「えっと、ついでに聞くけど終わらせるのやっぱ辞めたっていうのは?」
「無理ですね。先生もご存じの通り、終わらせるのは2か月前からお知らせしていただくことになってますよね。それはつまり、次の新連載を探す期間でもあるんですよ。やっぱ辞めたっていったら、その新人作家はどうなりますか?」
「う、うぅ、でも新人、より俺を残したほうが、売り上げが伸びたり……」
「断言はできませんが、初連載が大ヒットすることなんて良くあるじゃないですか。ワンピースとか鬼滅とか。で、先生を無理矢理戻すリスクと、その新人が先生ばりにヒットするのを賭けたときは、どちらもわからないという意味で五分五分ですよね」
「ソーデスネ」
もはや、キャラがゴールするか自分が死ぬかの2択になってきている。
「とりあえず、先生、この連載をゴールさせて、新作を書くのはどうでしょう? 先生の実績なら編集部としても新連載を載せるのは吝かではないですし、固定ファンも見込めます」
「いやだっ! 俺はこの作品が気に入ってるの! それに力を入れた新連載がこけるのなんて、それこそ星の数のようにあるじゃんっ!! まぁ、逆に力を抜いて書いた作品が大ヒットとかもあるけどさ……」
「わかりました。では、これが最大限の譲歩ですが、今回ので1部完にするのはどうですか? で、掲載誌を変えて2部を連載するという手もありますよ」
「いや、でもぉ~。第2部とかにするとだいたい主人公を交代しないといけないじゃん」
「別に同じでも構わないですよ」
「いやいや、それでもさぁ、ほら、モチベーションとかあるじゃん」
色々な案を出してみたが、全て断られた。
「なるほど。この話のゴールが見えてきましたね」
私はニコッと精一杯の作り笑顔を向けてから、
「尾張先生。最終回前に書けなくなるマンガ家がいるってうのをいいことに、それをネタにして締め切り伸ばそうとしてますねっ!!」
玄関で暴れる先生を振り切り、仕事場へと踏み込む。
そこには、あまり見たくはない現実が予想通り転がっていた。
「ほとんど白紙じゃねぇかっ!! ふざけんなっ!! 明日が締め切りなんだぞ! さっさと書きやがれっ!!」
無理矢理先生を椅子に付かせ、強制的に続きを書かせる。
「物語のゴールも重要ですけど、まずはこの1話を
「は、はい……」
皆も締め切りは守ろう!! 編集者との約束だよ!!
ゴールしたくないマンガ家 タカナシ @takanashi30
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