ある男の一日
ホムラ
ある男の一日
少し暖かくなってきた昼下がり、男は部屋の中でくつろいでいた。
気ままにテレビを見ながら、時間の許す限りだらだらとしているのだ。
今日は平日なので、ほかに人はだれもいない。
「しっかし、暇だな」
今日は裏庭のドアから出ていこうかななどとくだらない考え事をしているのにも飽きてしまったので、男は冷蔵庫へと向かっていった。
「なにかあるかな~♪」
上機嫌に鼻歌を歌いながら開けると、そこには缶ビールが2本。
男は歓喜しながらテーブルに置いてあるスナック菓子を一緒にとり、ソファへと足早に向かった。
酒とつまみを手に入れたのはいいが、くだらないテレビ番組を見るために飲むのももったいないなと思い、男は家じゅうを探し回ることにした。
しばらくして、本棚の中の一つのDVDが男の目を惹いた。
数年前にヒットしたラブコメディーの洋画だ。
男は噂の面白さが気になったので、そのDVDを見ることにした。
というのも、彼はラブコメがあまり好きではない。
男がDVD を取ったのは、世界中で大ヒットを起こすほどの面白さがはたしてあるのかどうかを判断するためだったのである。
結論から言うと、男は号泣した。
ヒロインのマリーが自らの故郷へ行く空港へ向かうシーンがあり、何歩か踏み出す度に振り返ってしまうのだ。
そこで愛する二人の決別がどれだけ悲しいかを男は思い知ったのだ。
男はラブコメが何故世界中で人気なのかを少しだけわかった気になった。
感傷に浸っていると、酒とつまみがなくなっていることに気が付いた。
しかし、男は酒を補充しなかった。楽しみというものは、たまにあるからこそ良いものなのであって、四六時中楽しさにあふれてしまうと楽しさのハードルが上がり、気軽に幸福を得られなくなったり、人の道を踏み外してしまうことがあることをよく知っているからだ。
時計を見ると、もうすでに16時を回っていることに気が付いた。
そろそろ仕事を始めるべきかもしれない。
2階へ上がり、鍵のかかっている部屋に入る。
男は持ってきたバッグからピッキング工具を取り出し、DVDを探しているときに偶然見つけた、黒光りしていていかにも頑丈そうな金庫の前に座り、金庫破りの作業をし始めた。
ある男の一日 ホムラ @homuhomu2021
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