thirteen bullets すれ違う気持ち
俺と北原は途中で缶コーヒーを買い、試合会場の外に出た。試合会場の建物のすぐ
「座れ」
北原は淡々と促した。正面玄関のない建物側面方向から見える前方、木々の山々を背景に、火と水のモニュメントの造形品が目立っている。そのモニュメントの周りで屋台がずらりと並んでおり、客の列ができていた。
缶コーヒーの蓋を開ける音が鳴り、北原は苦味を一口含む。
「お前、集中してないらしいな」
北原は俺をとがめるような内容を言い出しそうな言葉を発したが、怒りの音色は感じられない。
「新内か」
「ああ」
北原は十分な間を置いて口にする。
「まだ、調べてるのか」
「……」
「調べてどうするんだ?」
俺はひずむ心を震わせた。
「分からない。でも、臼井の心臓が誰の者なのかはっきりすれば、俺は苦しみから解放される」
「本当にそんなことで苦しみがなくなると思ってるのか?」
「それを考えたところで、何も始まらない。動かなきゃ、俺は一生このままだ」
俺は缶コーヒーの蓋を開けた。蒸気と共に濃厚な香りが鼻孔をくすぐる。
「お前、本当に解決しようと思ってるのか?」
「何が言いたい?」
「なんていうか、回りくどい方法ばかり選んでる気がするから、本当は鉛を取りたいなんて思ってないんじゃないかってな」
片脚を折り曲げ、膝の上に腕を置く北原の表情が少し呆れているように見える。
「俺だって色々考えなきゃいけないことがあるんだ」
「まあ、お前らしいっちゃお前らしいけどな。ただ、傷口をいつまでも自分でつついて、
俺は頭に響く雑音と胸の奥のざわめきをかき消すようにコーヒーを飲んだ。
「過去にすがることを毛嫌いする必要なんかない。前のチームとは馬が合わなくなったけど、そこで出会えたたくさんの人や得たものが、今の私を作ってるんだ。あの嫌な思い出がなかったら、私はこのチームと出会えなかったかもしれないし、あの思い出があったから、ペイントシューターが楽しく思える気がしてる」
「俺が過去を受け止めきれていないって言うのか?」
「実際そうだろ」
お互いに視線を交わした。何か反論すべきか迷う。でも、俺の口は動いてくれそうにない。
俺は先に視線を逸らした。
「もし、鉛を取ったら苦しみは消える。でも、お前には鉛の弾が必要だったんじゃないのか?」
「お前に何が分かるんだよ!」
震えた声でこらえていた怒りを少し零してしまった。北原に当たっても、意味なんてないのに。
「そうだな……。どんなに話を聞いたところで、お前の抱えている痛みが分かるわけない」
「……」
北原は立ち上がり、俺の前を通って試合会場の建物の壁に沿って去っていく。
何やってんだ俺は。
傷口に
北原が去って、少しだけ1人で過ごし、俺は控室に戻った。
控室のモニターには臼井と児島が敵と交戦している姿が映っている。弾は当たったようで、2人の敵が手を挙げた。臼井と児島はハイタッチをしている。どうやら勝ったらしい。
「遂に来ましたね!」
石砂さんは興奮気味にそう呟いた。
「そうですね。まさかここまで来られるなんて思わなかったです」
滝本さんにも笑顔が零れる。
「決勝まで1時間も空く。これからちょっと考えないと」
北原は神妙な
「そうですね」
滝本さんは先ほどとは打って変わって悲しそうな表情を浮かべる。
「何かあったのか?」
俺は引け目を感じながらも北原に聞いた。
「新内が足を
「分かった。じゃあ決勝は新内をメンバーから外して考えよう」
「問題はそこじゃないんだ」
「え?」
俺は北原の言葉に疑問を投げかける。
「児島はもうスタミナがもたない。梁間も集中力が切れてきて、命中度が下がって来てる。一条も決勝で戦う体力は残ってないだろう」
確かにそう思っていたが、1人体力が限界に来ていたとしても、
控室の扉が開く。1本の松葉づえをつきながら新内が入ってきた。
「新内さん、大丈夫ですか?」
滝本さんは心配そうに尋ねる。
「はい、少し痛みますが、問題ありません」
靴下の上から
「念のため病院で検査した方がいいってさ」
後ろから梁間が控室に入りながら説明してきた。
「じゃあ病院には梁間が言ってくれるか?」
「オーケー。じゃ、行こうか」
「北原様、申し訳ありません」
「謝ることなんて何もないだろ。お前のおかげで決勝に行けたんだ。安心して病院に行って来い」
新内は少し泣きそうになっている。
「行こうぜ……」
梁間は微笑み、優しく促した。新内は首肯し、哀愁漂う背を向けてドアへ向かう。
「んじゃこれ、預かってくれ」
「あ、はい」
梁間は持っていた新内の装備品一式を滝本さんに手渡す。
「それじゃ、勝利の報告を待ってるぜ」
梁間はキザなセリフを残して新内と共に去って行く。
俺は新内の表情に少し驚かされていた。悔しくて泣いていたのだろうが、悔しくて泣くほど大きな大会じゃない。新内はそういうタイプだと思っていた。
「さて、これからが大変だぞ。椎堂」
北原は気持ちを切り替えろと言わんばかりに明るい声で投げかけてくる。
「そうだな。普通のやり方じゃ、俺達に勝機はない」
「何か作戦があるのか?」
「いいや、これから考える」
俺は感化された熱い想いを握り、控室を出た。
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