eleven bullets 置いてけぼりのガンナー

 俺達はイベントスタッフの人に呼ばれ、控室に集まっていた。

 第1試合、出場者は北原、臼井、梁間、一条、石砂さん、滝本さん。

「インカムばっちりだね」

「おう」

「エヴァンスチーム。インカムに問題ありませんでした」

 臼井はメンバーに確認を取った後、イベントスタッフに報告する。

「了解しました」


「みんな頑張ってね」

 桶紙さんはみんなにエールを送る。

「この俺が桶紙さんに勝利をプレゼントするぜ」

「うわっ、やったよこの人」

「なあんだよ新内」

「いえ、頑張ってください。梁間さん」

「みんな、ちょっといいか?」

 俺はみんなの注目を集める。

「どうしたの?」

 臼井は怪訝けげんな様子で聞いてくる。

「円陣を組もう」

「円陣ですか?」

「円陣を組んで、結束力を高めるんだ」

「どうかしたんですか、椎堂さん?」

「なんだ?」

 児島は動揺した反応を見せているが、何をもって動揺しているのか分からなかった。

「いや、椎堂さんがそんなこと言い出すなんて思わなかったんで、頭でも打ったのかと」

「児島、殴っていいか?」

「いいわけないでしょ」


「うん! 円陣いいね。やろう!」

 臼井なら賛同してくれると思っていた。

「えーっと、円陣組んで頑張ろう的なことを言えばいいの?」

 臼井は俺に聞いてくる。

「やったことないのか」

「やったことないよね」

「ああ」

 北原は首肯する。臼井ならそういうことしそうだから任せればいいと思って何も考えてなかった。


「じゃあ……」

 俺が提案しようとした時、

「あの……」

 滝本さんがおずおずと手を挙げた。

「なんだ?」

「えっと……こういうのはどうですか。Let's enjoy. go ebums!」

 滝本さんは照れくさそうに言った。

「いいよ!! 最高だよセイラ!」

 臼井はえらく気に入ったようで、滝本さんに近寄って喜ぶ。

「俺も気に入ったぜ。やろう!!」

 梁間も気に入ったようだ。

「仕方ありません。やりましょうか」

「はい」

 新内と一条も顔を見合わせてやる気満々のようだ。少しずつ、みんなが結束していく。

「じゃあ早速やっちゃおう!」


 俺達は円陣を組む。

「みんな、いいかな?」

 臼井はみんなの顔を見る。

 みんなが首肯した。臼井は大きく息を吸う。

「Let's enjoy!」

「「「「「「「「「go ebums!!」」」」」」」」」

 部屋の中で声が反響し、耳の奥が痺れた。



 試合に出る6人は準備万端なようだ。全身を纏う服のところどころに見える銃という銃。予備の弾倉やホルスター。ウエストポーチやカートリッジベルトなどが装備されている。

「行ってきます」

 そう言って、臼井は5人を引き連れて試合場に向かっていった。

「じゃ、俺達は控室で見ていよう」

 俺は同じく廊下で見送りに出ていたみんなに促す。

 俺達は部屋に入り、モニターの前のソファに座る。リモコンでチャンネルを変えられるようだ。みんなあまり緊張していないようだ。


 楽しむか。

 滝本さんの考えた言葉が俺に後ろめたさを生み出していた。

 俺だけがペイントシューターを楽しめていない。俺だけが、チームの中に入れていない。形だけ。形だけが、このチームにいるという証だった。

 俺がボーっとしている間に試合開始のカウントダウンが始まっている。サイレンが鳴り、エヴァンスチームは動き出した。

 試合場は会社の事務作業をするオフィスのような作りになっている。一条に取りつけられたカメラがデスクや書類棚の間を進んでいく。試合形式は殲滅戦、制限時間は15分となっている。


 敵陣に進む方法は部屋の中を進むか、廊下に出て進むかの2つ。臼井と一条は一緒に廊下を進んでいる。廊下には障壁になるような物が少なく、敵と遭遇したらどっちが先に当てるかの勝負になりそうだ。


 臼井は何かに気づいたのか廊下に置かれた清掃の時に使われるメンテナンスカートに身を潜めた。

 臼井はアイコンタクトで後ろにいる一条に視線を送る。床に映った影が角から伸びていた。影は1つ。おそらく後ろにも人がいるはずだ。臼井は物陰から覗くのをやめて隠れた。無音の状態が続く。お互いに状況を見極めているようだ。

 足音が鳴り出す。その瞬間、臼井はメンテナンスカートから顔を出して撃つ。敵の1人が角から出てきて手を挙げた。2人の敵は一条と臼井の一斉射撃から逃れ、角に身を隠す。

「おしっ!」

 隣に座る児島がガッツポーズを出す。1キルしたことで桶紙さんにも笑顔が零れている。新内は無表情で見ていた。まだ1キルしたくらいでは喜べない。新内もそう思っているのだろう。


 俺はチャンネルを変える。

 画面が切り替わった瞬間に、バシュバシュと銃声が流れてきた。淡い肌色の木製棚のそばでしゃがむ石砂を画面中央に捉える。

 時折棚の端や上から撃つ石砂さん。敵からの発砲に物怖じすることなく、撃てているようだ。この映像を撮るカメラを取りつけた石砂さんの隣にいる人物も、サブマシンガンを棚の端から撃っていく。Dグロウシリーズ、リサーブDグロウSU。太めの筒状の銃身が特徴的だ。

 梁間も踏んばっているらしい。近づけさせまいといい具合に敵を足止めさせている。


 積極的にインカムから滝本さんの声が聞こえてくる。

 滝本さんが以前から情報を引き出したり、渡したりという能動的なコミュニケーションを取れていることを活かし、滝本さんがリーダーの実戦練習を繰り返しやってきた。

 自分が教育係となって指導していた新人が頼もしくなってきたのを実感する時と同じように、込み上げてくる嬉しさを密かに感じてニヤケそうになったが、恥ずかしくなってグッと堪える。


「夏希ちゃん。TOBBで」

「了解」

 臼井が仕掛けるようだ。俺は臼井の視点にチャンネルを変える。

「一条君、お願い!」

「分かりました」

 一条と臼井は威嚇射撃を増やしていく。

「準備できた。いつでもオーケーだ」

 北原から作戦準備完了の知らせが入る。臼井は一条の後ろに回り、一条の襟を掴んだ。

「3、2、1……GO!」

 臼井と一条は敵が隠れている場所に向かって走り出した。一条は臼井の前を走り、臼井は一条の後ろに隠れながら走っている。敵は突撃を阻むように乱射していく。

 臼井と一条は少し身を屈め、不規則に左右に動きながら突っ込む。臼井の視点はずっと一条の背中と頭がずっと中央に来ている。ぶれないように動いているのだ。

 臼井が一条にアルファベットの暗号で指示を出して呼吸を合わせている。何度も繰り返しやってきた無茶な方法。諸刃の剣にもほどがある。その間も一条と臼井は射撃をやめない。


「エス」

 臼井から指示が出た瞬間、一条の頭が臼井の視界から下へフェードアウトした。臼井の視点が床を見下ろすような形になる。下前方を見据えた敵へ、臼井は撃った。

 臼井は華麗に着地する。2人の敵の胸にあるプレートが青く光っていた。臼井は後ろを向く。


 そこには、床に這いつくばるように倒れた一条と、少し後ろの離れた場所で、膝をついてライフルを構えていた北原がいた。

「こちら北原。一条はやられたが、廊下にいた敵3人を倒した。これから援護に向かう」

「了解」


 どうやら上手く行ったようだ。作戦名TOBB。スリーオンバックバレット。3つの位置から撃つことだけじゃない。

 前を走る一条は後ろを走る臼井の盾になり、敵が脅威に感じる距離まで近づいたら後ろの臼井は前の人を踏み台にして飛び上がる。アクロバティックな動きが得意な臼井だからこそできる技だ。

 踏み台になった一条は床に伏せる。ここで極端に下と上の2視点に分かれるため、どちらに射撃を定めていいか分らなくなるという狙いだ。

 また、この2人はおとりの要素もある。後方にいるスナイパーが落ち着いて撃ち、確実に仕留めていく。

 ただこの作戦はリスキーであり、臼井と一条が2つに分かれる前にやられる場合も考えなければならない。場所と敵の数などの条件を見極めて使う必要があるのだ。その辺はマネージャー兼コーチの俺から十分に説明しておいた。


 俺は北原の視点に切り替える。臼井の後ろを追う北原。北原の視点で映った臼井の背中が汐織と重なる。それを見た時、切なく感じた。


 俺は、何がしたいんだろうな……。


「椎堂さん、聞いてますか?」

「なんだ?」

 俺は肩を叩かれて振り向いた。

「滝本さんの視点に変えてもらってもいいですか?」

 新内は苦い表情でう。

「あ、ああ」

 俺はリモコンでチャンネルを変える。

「もう安心ですよね。5対3。しかも敵を挟んでいる状態。これは勝ちでしょ」

「そうですね。まず僕達の勝利はほぼ確定です」

 新内も児島の意見に同調する。

 その予想通り、エヴァンスチームは敵プレイヤーを全滅させて初勝利を飾った。

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