ten bullets 幸先悪い

 30分後、だだっ広い屋外会場を探している中、やっと臼井から返信が来た。『試合会場の前にみんないるよ』とだけの返信。俺はすぐに向かい、ようやく世話の焼ける連中共を見つけた。

「よ。遅かったな」

 北原は俺の苦労も知らないで初っ端から気にさわることを言い出す。

「椎堂君遅いよ。遅刻だよ遅刻」

 臼井は軽く怒り出す。

「受付にはまだ時間あるだろ」

「私達20分くらい待っちゃったんだよ~。20分待たせるのは遅刻だよ」

 なんで俺が怒られてるんだ。

「この会場についてからメールを送った。それに臼井が気づけば待つこともなかったんじゃないか?」

 俺は責められるのはお門違いと暗に反抗してみる。

「私達は椎堂君がこの会場に到着する30分前にいたんだよ? だから、色々な場所を見て回って、写真撮ったりしてたんだから当然気づくわけないじゃん」

 すげぇ言い分を主張してきた。


「未生。見苦しいぞ」

 北原からさすがに忠告が飛ぶ。

「ええーー、夏希ちゃん私達の味方だったのに~」

「私は客観的に見て言っただけだ」

「え、そこは椎堂さんが好きだからというのがお約束……いだだだだっ」

 北原は余計なことを言い出す滝本さんの耳を引っ張る。北原と滝本さんはかなり仲良くなったようだ。

「みんな集まったし、調整に入ろう」

 俺はぐだぐだになりそうな予感を悟って、本来の目的に修正をかける。

「そうだね。優勝目指そー!」

「おー!」

「おー!」

 臼井の鼓舞に同調し、児島と梁間が呼応してついていく。俺達は少し士気の高まりを感じつつ、ペンタゴンの形をした建物に入った。


 みんなは更衣室で着替え、特設されたセーフティエリアに集まった。普段はディナーショーや披露宴で使われているらしく、内装だけは豪華に富んでいる。

 茶色い丸テーブルが点々と並ぶセーフティエリアではプレイヤー達が俺達と同じように準備していた。

 和やかに会話するプレイヤー達もいれば、緊張感を漂わせるプレイヤー達もいて、にわかに漂う少しの温度差が混じり合っているような雰囲気が、大きな空間に形成されている。もちろん俺達は後者の部類に入る。

「なんか、みんな強そうですね」

「装いに騙されてたらキリないですよ」

 新内は怖気づきそうな児島の様子を悟ったのか、ため息交じりに助言した。

 俺達は弾倉に弾を込めたり、銃のバッテリーを充電したりと下準備を始める。

「60チームもいるんですね」

 滝本さんはテーブルに置かれたトーナメント表を見つめながら呟く。

「1回でも負けたら終わりか。痺れるねぇ」

 梁間は生き生きとした様子で語る。

「優勝景品がトロフィーと温泉旅館の1泊2日の無料宿泊券。微妙な賞品ですね」

 一条は率直な感想を言う。


「私達と同じように、この大会イベントを地区大会の調整試合にしてるチームもいるんじゃない?」

 臼井は推測を述べる。

「でも僕達、一度も勝ったことないんですよねぇ」

 一条は暗い雰囲気を纏って呟く。

「あれ、そうだったっけ?」

 臼井は全然把握してなかったらしい。

「そうですよ」

 一条も呆れているようだ。

「まあ色々ブースもあるし、負けたら余った時間で回れるじゃん」

 臼井は楽観的にそう言う。これでいいのか。俺は疑念に思いながら呑み込んだ。

「でも、みなさんとても実力はついてると思いますよ。ベストを尽くしましょ」

 桶紙さんはほんわかした口調で優しく励ます。

「そうそう。落ち込むのは負けた後にすればいいんだよ」

 梁間も気楽に言う。

「じゃあ椎堂君。オーダーは任せたよ」

「ああ」

 俺は首肯して、目の前にあるオーダー用紙を見つめる。

 1試合ずつ6人の出場者を決めていかなければならない。それが今回の俺の役割の1つだ。俺はボールペンを持って書いていく。

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