twenty seven bullets リンクする残弾

 一通りキツネ役を終える。結局誰1人キツネで勝つことはできなかった。

 そうして、エヴァンスチームの合宿は終わった。ホテルのチェックアウトを済ませて現地解散する。


 俺は臼井の車で送ってもらうことになった。助手席には滝本さん。後部座席には一条もいるが、2人とも合宿の疲れから寝てしまった。

「みんな疲れてるねぇ」

 気持ちよく寝ている2人に向ける声は優しさを纏っている。リーダーとして頑張ってくれた仲間に感謝しているのかもしれない。

「そうだな」

「椎堂君も眠たかったら寝ていいからね」

「ああ」

 夜の高速は少し混みそうだった。流れていく街灯を横目に心地良い微かな振動とアスファルトを走る車のこもった音を体感しながら静かな車内で和む。

「なあ、臼井」

「ん、何?」

「あの鶴は、昔心臓の病気で入院した時にもらったのか?」


 言い終えた後に俺は期待した。期待した結果が得られたとしても、その後に何をしたいのか分からない。でも、聞かずにはいられなかった。

「うん。そうだよ」

 俺は驚きのあまり息を呑んだ。

「あれは、ドナーの親族からもらったのか?」

「うん」

 早まる気持ちが勝っていく。

「ドナーの親族の顔を覚えてるのか?」

「看護師さんづてにもらったから親族とは会ってないんだよ。直接会ってお礼言いたかったんだけどね」

「名前も聞いてないのか?」

「そうだね。ドナーの親族と受容者が会わないケースは珍しくないらしいから。私の命は他の子の死で生きながらえてるって考えたら複雑なんだと思うよ」


 親が持つ葛藤。誰かの死の上に成り立っていると知りながら生きている。

 臼井はそれを胸に秘めて、ずっと生きてきたんだろう。それは俺の胸の中にある疼きと似ているのかもしれない。

「臼井はドナーの親族に会いたいのか?」

「うーん、今更会っても迷惑なだけかもしれないし、看護師さんや仲介してくれた人にも、ドナーの親族にお礼を伝えてほしいって言ってあるからもういいかなって思ってる」

「……そうか」

「椎堂君、妙に私の病気の話に食いつくね。心配してくれてるの?」

「あ、いや」

 ここで汐織の話をして、ドナー提供者が汐織かもしれないなんて言っても戸惑うだけだろう。俺はつい零した否定の言葉を呑み込んだ。

「ああ、まあ、あんなことが目の前で起こったらな……」

「あはは……ごめんね。チームができあがって、合宿までできるようになってはしゃいでたせいかも。なんともないから心配しないで」

「そうか」

 積もっていく郷愁きょうしゅうを纏った曖昧な感情を鎮めようと、唇を噛み締める。

「あ~でも残念だったなぁ。私もみんなと宴会したかったよ」

「また飲みにでも行けばいいだろう」

「そうだけどさ。豪華絢爛和食料理を私も堪能したかったよー」

「なら、今度飲みに行く時も和食だな」

「椎堂君の奢りでね?」

「お前な。大概にしろよ」

「冗談だよ~」

 俺と臼井は俺の家に着くまで談笑しながら夜のドライブを楽しんだ。

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