GAME4

one bullet 頭を抱えるマネージャー

 年越しから数日。実は言うと、関東大会申請まで時間がない。

 期限は1月末の午後6時。あと4人をたった1ヶ月弱で集めなければならない。この時期になると、大会に出ようとしている人はもうチームに入っているはずだ。

 SNSを使ってチーム参加の募集をしているが、通知が来たことは一度もない。俺は携帯をスーツのポケットにしまい、落胆する。

 合宿のせいで体が重い。普段と変わりない仕事をやったはずだった。

 久々の筋肉痛は体に染みるな。10代の時はここまで筋肉痛がしんどいと感じていなかった気がする。


 俺は重い足でマンションの階段を上がっていく。

 自分の部屋の鍵を取り出しながらドアの前に立ち、鍵を差し込んで回す。部屋の中に入り、ソファのそばに鞄を置いてコートを脱いだ。冷えきった部屋に暖房を入れ、ソファに腰を落とす。ソファの座面が沈む。

 少しのんびりしよう。のんびりした後は夕食を食べ、チームへの勧誘の下準備をするか、次の合同練習の日程調整、あるいは練習メニューを考えるか。

 ……臼井は汐織の心臓を受け継いでる。未確定だが、その可能性が高い。

 少ししおれた10年以上前の1羽の鶴が、どれだけ存在するだろうか。心臓を提供したという汐織のお母さんの話と心臓をもらったという臼井の話。偶然だろうか……。


 俺の疑念が増長しているのは、臓器提供があったという共通点だ。いつ手術したんだろうか。汐織の心臓が取り出された時期と臼井が手術をした時期が近く、手術が行われた場所が同じであればほぼ確定だろう。

 しかし、どうやって調べる。病院に聞いても、他人である俺に教えてくれるとは思えない。汐織の方は母親に聞くとして、臼井の方は本人に聞くしかないか。変に思われるだろうな。まあいいか、そう思われても。

 俺は着替えるために少し回復した体で立ち上がった。



☆ ☆ ☆



 1月も中旬に差しかかって、寒さも厳しさを増してきている。俺は相変わらずペイントスクエアに来ていた。

 ランダムで選ばれたチームで試合に2回参加する。普通に楽しむためだが、もちろんスカウト目的もあった。だが成果はない。何人かに声をかけたものの、やっぱり仕事もあるとか、大会に出るほど上手くないしと断られた。

 手当たり次第声をかけているわけではない。エヴァンスチームに必要なタイプのプレイヤーや大会に出ても通用しそうなプレイヤーであるかを見ながら勧誘しているし、あまり勧誘ばかりしていると煙たがられてしまう。事は慎重に進めなければならない。


 俺は少し疲れた体を休めるため、セーフティエリアにある長机のテーブル席に座る。

「やあ、椎堂ちゃん」

 ねっとり漂う口調を携えて加納が俺の前に座った。

「仕事は休みだったのかい?」

「ああ」

 俺は適当に相槌を打った。加納はパーマのかかった茶髪をかき上げる。

「俺はあんたに会えなくて寂しかったよ」

「そうか」

 気持ち悪いことを言ってくるな……。

 俺は小さなカゴの中から携帯を取り出し、携帯の中に入り込む。


「また腕を上げたんじゃないか?」

「は?」

 俺は加納に指摘されて眉をひそめる。

「さっきの試合、見てたけど動きながら撃つなんて椎堂ちゃんらしくなかった。もっと慎重なタイプだったのに、あんなに攻撃的な椎堂ちゃん初めて見たよ」

「試したいことがあったんだ」

「心境の変化かい?」

 加納は微笑みながら見つめてくる。

「……」

 俺は視線を携帯画面に戻した。

「ま、これで俺も負けてられなくなったわけだ。じゃ、俺もその布石として、試合に参加してくるよ」

 加納は立ち上がり、カウンターに向かい出す。俺は去っていく加納の背に注意を向けた。

 えり好みしている状況じゃないか……。

「加納」

 加納は立ち止まって振り返る。

「なんだい?」

「関東大会に興味はないか?」

「突然だね」

「どうなんだ?」

 加納は半身になって不敵な笑みを浮かべる。

「ふふっ、興味はあるよ」

「俺は大会に出るチームのマネージャーをすることになった。そのチームの人数が足りてない。選手として出てみないか?」

「なるほどね。だから、あんなに血気づいてたのか。あんたに誘われるのは光栄だけど、断らせてもらうよ」

 やっぱりダメか。


「理由は?」

「知りたい?」

「もったいぶるな」

「……戯曲ぎきょくはお嫌いか」

 加納は嘲笑うような笑みを零す。

「俺はもう関東大会のチームを作ってるよ。何より、あんたがマネージャーに成り下がっているチームにいるなんて、俺には耐えられない」

「そうか」

 俺はため息交じりに零す。

「かなりピンチのご様子だね」

「いや、そこまでじゃない」

「そうかい。サブメンバーの補充か」

「おそらくそれだろう」

「もし弾かれた残り物を見つけたら紹介しようか?」

 加納は片手を腰に当て、申し出てきた。あいつの心眼なら期待できる。喉から出てくるように吐き出す。

「お前に協力を請け負われるとはな」

「このくらいならしてやるよ。ま、あんまり乗り気じゃないけどね」

 そう言うと、加納は背を向けて歩き出した。

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