seventeen bullets 鶴のお告げ
俺と臼井のお母さんは面会時間ギリギリまでいた。
病院の出入り口付近で臼井のお母さんから、「迷惑をかける娘ですが、未生をよろしくお願いします」などと意味深な言葉を残され、別れた。
とりあえず、気のせいってことにしておく。親も親なら子も子だなと嫌な汗をかいた。どう答えていいか分らなくて、生返事をしてしまう俺も俺だが。
まともに返答するのも馬鹿らしいと思い直し、タクシーを降りた。肌を突き刺す寒さに思わずポケットに手を入れる。
ホテルに入り、フロントへ向かった。
「椎堂」
北原がラウンジにあるテーブル席から俺を呼び止め、手招きをする。
横柄だな……。
俺は北原のいる席へ近づく。
「なんだ?」
「未生に変わりはなかったか?」
北原は俺に問いながら手で座るように促す。
「ああ。ペイントシューターしたくてウズウズしてるらしい」
俺は北原の向かいに座る。
「ふふっ、そうか」
俺はテーブルに置かれた小さな物を目にした。
「どうしたんだそれ」
「ああ、JPSUプレイカンパニーのスタッフから渡されたんだ。あの時の忘れ物らしい」
1羽の鶴。横には掌より小さな透明な小袋が置かれていた。中にしまわれていたのだろう。
「お前のか?」
「いや、未生のだ」
そう言って鶴の左の羽の裏を見せる。そこには臼井の名前と電話番号が書かれていた。
「どこに落ちてたんだ?」
「この前試合した場所だ。たぶんポケットかなんかに入れてたんだろ」
「……」
1羽の鶴、銃の握り方……。偶然なのか?
臼井と汐織は、どこかで会ってる? そんなはずは……。
「椎堂」
「っ……どうした?」
「それはこっちのセリフだ。さっきから何度も呼んだ」
北原はしかめっ面でとがめるように言う。
「ああ、すまない。で、なんだ?」
「明日はキツネ狩りをしたいと思ってる。どう思う?」
「いいんじゃないか? 両方ともいいシミュレーションになる」
「そうか。じゃ、その予定で明日のスケジュールは組み上げるよ」
北原はよっこらせと20代らしからぬ言葉を発しながら立ち上がる。俺も立ち上がろうとすると、北原と目が合った。何かを見透かすように睨みを利かせてくる。
「まだ何かあるのか?」
北原の視線が妙に何か言いたげだった。そんな顔をされては、何も聞くなというのは無理がある。
「未生と何かあったのか?」
「いや、何もなかったよ」
「……ならいいけど」
「何か不満があるのか?」
「不満というより懸念だな」
俺はもったいぶった言い草に眉をひそめる。
「チーム内のいざこざはウンザリなんだ」
「そんなものはない。心配するな」
俺がそう言ったものの、北原の表情は疑念が滲み出ている。顔つきが元々ガンを飛ばしているように見えるせいかもしれないが、俺の感じたのはきっと北原の顔つきのせいじゃない。
「北原様ー!!」
突然大きな声と共にドタバタと駆ける音が聞こえてくる。新内が物凄い勢いでこちらへ走ってきた。新内は立ち止まると、俺と北原のいるテーブルの前で華麗に膝をつく。
「お食事の用意ができました」
「分かった。あとホテル内を走るな」
そろそろ北原も呆れ始めているようで、あからさまに声のトーンが「またお前か」と口をついて出てきそうだ。
「以後気をつけます」
新内は澄ました様子で執事を全うしている。
「じゃ、行くぞ。椎堂」
「は?」
「昨日できなかった年末祝いだ」
「そんなものまで用意してたのか」
「ああ。言い出しっぺがいないけどな」
苦笑する北原は悪魔がお似合だ。
「では北原様、こちらへ」
新内は北原に背を向けてしゃがんでいる。
「なんだ?」
「お疲れでしょう。私が北原様の足となってお食事処へお運びします!」
新内は受け入れ態勢のまま、キラキラした期待の眼差しを向ける。
「馬鹿言ってないで行くぞ」
そう言って北原は新内の横を通り抜ける。
「あ、待ってください。北原様!」
「様はやめろ。恥ずかしい」
「そういうわけにはいきません。北原様は北原様でございます!」
嵐のようだな……。
俺は新内の様子についていけないまま、北原たちの背を追った。
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