sixteen bullets 夕陽に映る2人の笑顔

 俺達は臼井を病院に残し、JPSUプレイカンパニーで自主練を行う。各自メニューは昨日の試合を分析し、俺が考えた。

 俺はみんな飲み物を買ってきたり、自主練のサポートをしたりとせわしない。人手がもう1人欲しいなと思いながらもやり遂げ、俺はクタクタになりながらホテルの部屋に戻る。

 俺はベッドに倒れるように入った。

「足が……」

「あはははっ、マネージャーも体力勝負か」

 梁間は隣のベッドでボストンバッグから着替えやらタオルやらを取り出しながら俺の様子を笑う。

「じゃ、俺温泉入ってくっから」

 梁間はそう言って部屋を出ていった。

 この後どうするか……。やはりまだ心配だ。

 俺は着替えを取り出し、ユニットバスに入った。


 俺はシャワーで汗を流した後、病院に向かった。タクシーを降り、臼井がいる病室に向かう。

 病室に向かう途中の廊下は静かだった。穏やかなはずなのに、なぜだか緊張してしまう。

 臼井の名前が刻まれた表札のある病室に入る。臼井は夕日の光が射し込む窓の外を眺めていた。なぜか臼井を見るたびに、汐織の面影を見てしまう。

「あ、椎堂くん! やっほー」

 臼井が気づいて、元気よく声をかけてきた。

「今日の分は終わったの?」

「ああ」

 俺はゆっくり丸椅子に腰を落とす。

「椎堂くんって意外と心配性だね」

「え?」

「だって今日の朝来てくれたばっかなのにもう来てるんだよ? 普通2日3日はあくよ」

「迷惑だったか?」

「ううん、むしろ助かった。だって暇なんだもん。もう早くペイントシューターしたくてウズウズしてる」

 俺は微笑を浮かべて呆れた。

「今度からちゃんと足元も確認しろよ」

「椎堂マネージャー、厳しいっす!」

「マネージャーをつけるな」

 病衣の姿の臼井の胸元に目が行く。

 傷……。


「それ……」

「え、ああ……」

 臼井は病衣の隙間から覗く胸の傷を撫でる。

「私、小さい頃は体が弱かったんだぁ」

「そうだったのか」

「うん……。心臓が悪くてね。学校にも行けなくて、ずっと病室で、窓の外を眺めるしかできなかった。そんな時、私の心臓と亡くなって間もない子の心臓を取りかえて、私は助かったの。おかげで、私は自由に窓の外を駆け回れる。だからね――――」

 臼井は自分の手で銃を作り、俺の額に指先を向ける。

「精いっぱい人生を楽しもうって思うんだ。亡くなって、生きることができなかった子の分も」

 逆光で影がかかる臼井の表情に決意めいた微笑みを見た。

 俺はどういう顔をしていいか分からなくなる。締めつける胸の痛みから飛び出しそうな苦痛のこえを押し殺し、唾を飲みこんでから言葉を紡いだ。

「そうか……」

「あー、なんかしんみりしちゃったね!」

 臼井は快活な声を発して背伸びする。


「そういえばさ、今更だけど、最近椎堂くんくだけてきたよね」

「は?」

 俺は怪訝けげんな様子で問う。

 両手を下ろし、俺を見透かすような横顔が不敵な笑みを携えた。

「前は敬語で話してたのに、敬語使わなくなったなって思って。これって、椎堂くんが私達に心を許したってことでしょ?」

「変な言い方するよな、お前……」

「そうかな?」

「敬語を使うような人種じゃないと分かったのもあるけどな」

 俺はふて腐れたように淀んだ視線を向ける。

「ん、どういうこと?」

 臼井は眉をひそめる。

「マネージャーやらコーチに勝手に任命したり、誘拐を指示する人を敬う必要もないだろ」

「うーん……」

 臼井は腕組みをして考え始める。

「椎堂くんって根に持つタイプ?」

「誰でもそう思うだろ」

「ふふっ、まあこういうリーダーだからさ。サポートがいるわけよー」

 臼井は掛け布団に入っている両脚をバタバタさせる。

「なるほど。ドジを踏むリーダーか」

「お願いね。椎堂くん」

「はあ……何でもかんでも俺に頼むなよ。やれることはやる。臼井もちゃんと怪我しないようにな」

「はい。分かりました」

 臼井は敬礼しておどけた。

 彼女の仕草、笑み。何もかもが俺の淡い記憶に生きている汐織を呼び起こす。本人がそうだったどうか。曖昧なことはたくさんある。何より心苦しいのは……彼女が笑っていることだ。

 過ぎ去った願い。過去に葬られ、焼かれた。あの時のように、また消えていきそうな笑顔があって、鼻根にまで入ってくる死の香りにむせてしまいそうだ。

「未生」

 俺達は唐突に聞こえてきた声に視線を振った。病室に入ってくる女性。臼井の面影を感じる。

「お母さん」

「倒れたって北原さんから聞いたわ。びっくりしたんだからもう……」

 臼井のお母さんは心配を引きずったままそう言う。

「大丈夫だって。特に異常もないってお医者さんも言ってたから。食欲もあるし」

「この方は?」


 ベッドの後端の前に立つ臼井のお母さんは、俺を見て問う。

「ペイントシューター仲間だよ」

「椎堂辰人です」

 俺は会釈する。

「もしかして、付き合ってる?」

 臼井のお母さんはニヤニヤしながら聞いてくる。

「違う違う。ただの趣味仲間だよ」

「あら残念。見舞いに男性が1人で来てるから、もしかしてって思ったんだけど」

「はいはい、すいませんねぇモテなくて」

「うふふふ、拗ねない拗ねない」

 性格は瓜二つだな。


 俺は立ち上がった。

「じゃあ、俺は帰るよ」

「え、もう少しいればいいのに」

「いや、様子を見に来ただけだし」

「私のことは気にせず、もう少しゆっくりしていってください。未生の様子も聞きたいし」

 屈託のない臼井のお母さんの笑みが何かを企んでいるように思えてならない。俺の気のせいかもしれないが、臼井と似ているせいもあって疑ってしまう。

「暇だからいなよ。まだ時間あるでしょ?」

「暇潰し要員にするなよ」

 俺は再び腰を下ろす。俺と臼井のお母さん、臼井で、少しばかり談笑していくことにした。

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