nine bullets トラブル
午後3時。大晦日の
「おっせえなぁ」
北原のイライラが収まらない。北原と臼井によると、対戦相手のチームは2時に来る予定だった。しかし、1時間待っても来ない。携帯に連絡しても繋がらない。試合という雰囲気じゃなくなっている。
「もうバックレられたんじゃねえのかぁ?」
梁間は大股を広げて座っている。公共の場でやる格好じゃない。
「電話もでねぇし……」
滝本さんと児島は北原のイライラモードに怯えている。
「北原様」
どこかに行っていた新内さんが帰ってきた。
「売店で牛乳を買って来ました。これで精神は安定するはずです」
「おう」
北原は不機嫌なまま牛乳を受け取る。給食に出てくるような小さめのサイズではなく、500mlの牛乳パックだった。北原は新内さんから渡されたストローを無言で返し、牛乳パックの口を開けてそのまま飲み始めた。
「あと30分経っても来なかったらジムでトレーニングしとこうか」
臼井が苦笑しながらそう提案する。
「お、いいねぇー。椎堂さん、ベンチプレス何キロまで上げられるか勝負しようぜ!」
「ああ、やるからには負けない」
「そうこなくっちゃな」
梁間は少しやる気になったらしい。
「あ、夏希ちゃん牛乳の白髭~。夏希ちゃんおかしいー! あはははははっ」
臼井は北原を指差して、涙目にまでなって笑っている。そんなに面白いか? っていうか、今そういう雰囲気じゃないだろ。イライラしてる北原をイジるか普通。笑っているのは1人だけ……。
「あははははっ、北原さんマジおもしれぇっ!」
いたぁー……!
梁間まで笑い出す。ちょっとテンション上がって臼井の空気に呑まれているようだ。
白い髭面の北原は口を真一文字にして臼井を睨んでいる。緊張感漂う空気を察知する臼井と梁間以外は、息を呑んでこの後どうなるか見守るしかなかった。
その時、北原の腕が動く。北原は牛乳パックの口を臼井の口に勢いよく押しつけた。牛乳パックの口から牛乳が飛び出す。
臼井の口から牛乳が零れ、上下ピンクの迷彩服を濡らしていく。臼井は北原から無理矢理突きつけられた牛乳パックを両手で持ち、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいる。
北原は牛乳パックを下げた。臼井は咳き込む。やっぱり苦しかったらしい。
「もう夏希ちゃんびっくりするじゃ~ん!」
臼井は眉尻を下げてぼやく。緊迫感に欠ける雰囲気に戸惑う。すると、北原はニコッと笑った。
「ふ、私より髭生えてるぞ」
臼井の口周りは幼児が口を汚したように白くなっている。
「夏希ちゃんがしたんじゃん!」
臼井は頬を膨らませる。
「新内、タオルを買ってきてくれ」
「はい。かしこまりました」
新内さんはフルスロットルで駆け出す。
「あ~もうびしょびしょだし」
「美白できたな」
「そうか、美白と思えばいいのか!」
「お前は平和だよな」
北原は呆れた様子で呟く。
「え、何が?」
「なんでもないよ」
「えー、私に隠し事なんてしないでよ~。ねぇ~、夏希ちゃ~ん」
「濡れた服で絡んでくんな!」
「びしょびしょにしたのは夏希ちゃんですぅ」
「着替えて来いよ」
白鬚を蓄えた臼井と北原は険悪な雰囲気からなぜかじゃれ合い始めた。俺達は顔を見合わせて静かに笑みを零す。
「お取り込み中失礼しますよー」
突然大きな声が聞こえてきた。視線を前に振ると、こちらに向かってくる7人の男女がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます