ten bullets チーム【ターコイズ】
「遅ぇぞお前等」
北原は7人の男女がやってきて早々文句を言う。
「しょうがねえだろー。大晦日で仕事休みの人がここぞとばかりにお出かけしてるんだから、渋滞にも巻き込まれるってもんよ」
チャラそうな細身の男は疲れた様子で言う。金髪ドレッドの頭はひと際目立った。
「こっちだって長時間車の中で軟禁状態に遭ったんだ。それでもここまで来たことを感謝してほしいものだな」
ガタい良さげな男は腕組みをしながら俺達を見下げる。
「じゃあ連絡返せよ」
「連絡?」
チャラそうな男は
「携帯に連絡入れただろ」
チャラそうな男は携帯を取り出し、操作する。
「あ、本当だ。連絡あるわ!」
「何笑ってんだよ。こっちは真剣に文句言ってんだよ。つーか遅れるんなら連絡入れろっての」
北原はまたイライラモードに入る。
「マナーモードにしてたから気づかなかったんだよ」
チャラそうな男は携帯をしまう。
「大晦日に対戦相手として引き受けてるんだからそこは見逃してよ」
チャラそうな男は右手のつま先を揃えて顔の前に持っていき、眉尻を下げながら許しを
「ふぅ、まあいいや。とりあえず、試合を再申請してくる。試合開始時間は午後7時でいいか?」
「さっすが北原。恩に着るよ」
すると、アメリカの海兵隊にでも入ってるようなガタイのいい男は北原を見つめている。眉をしかめ、口をゆがめて尋ねる。
「それにしてもお前、なんで牛乳髭つけてんだよ」
「っ……!!」
北原はチャラい男の集団に背を向けて素早く口を拭う。チャラい男は呆れながら俺達を一通り
「ふーん……なんつうかこうマヌケ面が多いなぁ。俺等の相手になんのかぁ?」
「まだ出来立てのチームだからな。ま、経験不足の部分は目を瞑ってくれ」
北原は恥ずかしさからまだ立ち直れない素振りをしながら、相手の挑発に乗らずに空かして返答する。
「せっかくここまで来たんだ。ちょっとくらい楽しませろよ」
そう言って7人の男女はJPSUプレイカンパニーから出て行く。
「なんか感じわりぃな」
梁間は不機嫌そうに呟く。
「ふふ、熱くなるのは構わないけど、頭は冷やしとけよ。梁間」
気持ちは分からんでもないと、北原の笑みが向けられる。
「けどよ」
「冷静さを欠いてたら真っ先にやられるぞ」
「……」
梁間は険しい表情で7人の後ろ姿を見つめる。
「あの方々が今日の対戦相手のチームですか?」
滝本さんは
「ああ。大阪を拠点に活動するターコイズ。奴等はペイントシューター関西大会で準優勝した実績がある」
「ええ、マジですか!?」
児島は驚愕する。
「ああ」
「じゃあ、僕達と全国大会で戦う可能性もあるってことですか……」
一条さんも少し怖気づいているように見える。
「いや、今回は出ないらしい」
北原は自分の荷物のあるベンチへ向かう。
「そうなんですか」
安堵したようにも見えるが、滝本さんは疑問を滲ませて呟く。
「ああ、ここ最近は小さな大会で地道に活動してるらしい。ま、全国大会常連のチームから対戦を申し込まれてるみたいだから、強いことには変わりねぇけどな」
「ははっ、腕がなるなぁ!」
梁間はやる気になっている。
「うん、もうウズウズするね」
臼井もテンションが上がってきたようだ。
「緊張してきました」
「大丈夫大丈夫。自分達のできることをおもいっきりやればいいだけ」
臼井は不安げな滝本さんを励ます。
「まあ、空いた時間を使って戦術を考えたり、体温めたりして備えようぜ」
「はーい」
北原の促しにみんなが一斉に立ち上がる。
「北原様ー!」
新内さんが走って帰ってきた。
「タオル、買って来ました。お店で一番高い物です」
新内は走ってきた勢いをも殺してスマートにひざまずき、タオルを差し出す。一番高い物と言うが、さして変わりないごく一般的なタオルに見える。
「いくらした?」
「いえ、これは僕の代金で構いません」
「いいから言えよ。飲料代も奢ってもらっちゃ悪い」
「そんな、お気になさらず」
新内さんは寂しそうに表情を曇らせる。
「はあ……」
北原はため息を零す。
「もういい。明日朝飯奢ってやる。いいな?」
「さすがにそれは……」
新内さんは困った様子で遠慮する。
「借りつくんのは性に合わねぇんだよ」
そう言って北原はエレベーターに向かう。
「こんな僕に気を使ってくださるとは、なんて心の広い方なんだ!」
新内さんは北原の背中を見てうっとりしている。
「なんか、めんどくさい人になってきましたね。新内さん」
児島は声を潜めて俺に言う。
「ああ、北原の気持ちがよく分かる」
「え?」
「さ、行こうか」
俺達は再度試合時間までそれぞれくつろぐことになった。
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