eight bullets モーニングプラクティス

 社会人になって、人の顔色をうかがわず休める連休は滅多にない。大晦日くらいゆっくりしたい。

 本当なら今頃惰眠をむさぼってやるところだが、エヴァンスのマネージャー兼コーチになってしまったがために、朝からペイントシューター施設にいる。マネージャーなので銃を持っていく必要はないが、一応持ってきていた。

 今日もエヴァンスチームはSA室で精度向上に励む。しかし、今日はこれだけでは終わらないらしい。

「今日試合するんですか?」

 児島はSA室のベンチで弾倉に弾を詰めながら臼井に聞く。

「ええ、今日は関西のチームと練習試合よ」

「前から疑問に思ってたんですけど、よく対戦相手を用意できますよね。コミュニティでも作ってるんですか?」

 その点は一条さんと同様俺も疑問に思っていた。俺は臼井の返答に耳を傾ける。

「対戦相手の確保は私もどうやってるのか知らないんだよね。夏希ちゃんが全部やってくれてるから」

「なんですって!?」

 スクッと立ち上がり、大げさに驚く新内さん。

「おい、マネージャー。それはマネージャーの仕事だろう」

 新内さんは俺を指差し、眉間に皺を寄せて怒ってきた。

「いや、俺がマネージャーって知ったの昨日だし」

「しっかりしろ。北原様のお手を煩わせるなっ!」

 もう敬語すら使わなくなったな……。

「まあまあ、椎堂くんには仲間集めやコーチのこともあるから」

 臼井が新内さんをなだめる。

「仲間はあと1人いればいいか?」

 俺は早速マネージャーの仕事をしてみる。

「うーん……できればあと4人かな」

「最初聞いた時より増えてないか?」

 俺は顔をしかめて尋ねる。

「いや、最初はこんなに早く集まると思ってなかったから控え目に言ったんだよねー」

「はあ……強引にマネージャーにしたくせに変なところで遠慮するなよ」

「ごめんごめん」

 7巡目のSAが終わった。滝本さんと梁間、北原が出てくる。

「お疲れ様です。北原様」

 新内は北原が出てきた途端、SA室のドアの横に位置を取り、ひざまずいて北原をねぎらう。

「おう」

「タオルです」

「ありがとな」

 北原は新内からタオルを受け取り、首にかける。

 すっかり板についたな。北原の執事。


「夏希ちゃん、どうやって対戦チームの確保してんの?」

「唐突になんだよ」

「一条くんにどうやって対戦相手確保してるかって聞かれちゃってさあ」

 臼井は困惑しながら尋ねる。

「昔よく遊んでたサバゲーの仲間のツテを使ったんだよ」

 北原はゴーグルを外し、新内さんに買ってもらったペットボトルのジュースを飲む。

「さすがフレグラン・スナイパー」

「昔の話だよ」

 北原の言葉は少し哀愁を纏っているように感じた。

「そのお仲間さんの入ってるチームと闘うんですか?」

 滝本さんは興味深げに問う。

「いや、その仲間はサバゲー派だからペイントシューターはやってない」

「ペイントシューターもサバゲーもほとんどルール同じですよね? どっち派とかあるんですか?」

 一条はいぶかしげな表情で聞く。

「サバゲーは屋外フィールドもあるからね。屋外の方がリアリティもあるし、解放感のある場所でやってみたいっていう人もいるんじゃない?」

 臼井が答えたので視線を振った。どこで買ってきたのか知らんが、臼井はいつの間にか柏餅を食べている。

「ペイントシューターも屋外フィールドを使えるようにできりゃあいいのによ」

 梁間はSAが終わった後も大きな窓にもたれかかり、ずっと俺達の話を聞いていた。

「ペイントシューターの弾は硬カプセル剤とほぼ同様の物を使い、中には着色料やデンプンなどを使った粘液体で構成されている。地面に落ちた弾を回収する必要があり、屋外では困難。だから、サバゲーではバイオ弾という環境に憂慮した弾が作られ、屋外フィールドでもできるんだ。しかし、ペイントシューターの弾はバイオ弾みたいに微生物によって分解されたりはしない。それに、いくらバイオ弾だからと言っても、全て分解されるまで半年くらいかかる。一番環境にいいのは屋外でやらないこと。IPSU国際ペイントシューター連合はそう判断したらしい」

「そうなんですね」

 児島はポカーンとした表情で感心している。


「屋内ならゲーム中のプレイヤーの進入は少なくなるからな」

 北原が俺の説明を補足する。

「まあ俺は断然ペイントシューター派だけどな」

 梁間はニカっと笑って断言する。

「なんでですか?」

 一条さんは前に立つ梁間を見ながら聞く。

「室内ならではの切迫感ってのかな。窮屈な場所での駆け引きが痺れるじゃねえか」

「それはなんとなく分かるかもしれません」

 滝本さんが同調する。

「サバゲーでも屋内フィールドはありますよ」

 梁間の隣に立つ新内さんが苦言を零す。

「あ、そっか。んじゃあ……」

「やっぱり安全に配慮してるところじゃないですか。たまにペイントシューター用の銃での犯罪も取り上げられちゃいますけど、製作側が改造できないように色々と銃に細工してるみたいですし」

 一条さんは微笑しながら梁間の代わりに言う。

「1つ1つの銃にシリアルナンバーが入ってるし、購入者は必ず名前と身分証明書の提示が義務づけられている。取り扱いに気を配る物を持つ者は、その代価として素性を晒す義務を負う」

 俺はそう言いながら腕組みをする。

「気持ちよく遊ぶためには仕方のないことです。それくらいの代価なら、僕は全然苦になりませんがね」

 新内さんは当然と言わんばかりに余裕の笑みを浮かべる。

「ペイントシューターの判定制度が正確なのもいいですね。サバゲーで試合中に被弾したかどうかの言い争いや疑心暗鬼が生じないですから」

 滝本さんは苦笑する。

「お、もしかして経験済み?」

 児島は不幸話にニヤつく。

「はい……」

「ま、試合形式やスタイルはほとんど変わらないから、正直あんまり大差ないけどな」

 北原は肩を竦めて言う。

「その分サバゲー経験者は有利ってね」

 俺達は試合時間が来るまでペイントシューター談義をしながらSAをして過ごした。

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