four bullets フレグラン・スナイパー
SAは終わり、ポイントの最終結果が出た。
臼井、1034ポイント。
新内さん、1055ポイント。
一条さん、987ポイント。
3人は室内で握手を交わしてSA室から出てくる。
「凄いなお前」
梁間が新内さんを称える。
「今日は調子が良かっただけですよ」
新内さんは澄ました顔で謙遜する。
「私が見込んだだけのことはあるわね」
敗れたはずの臼井はまったく悔しそうにせず、スカウトした自分に酔っているようだ。
「まだまだだと知りました」
一条さんは少し悔しそうだ。
「そんなに落ち込むことねぇよ。この2人が異常なだけだから」
「夏希ちゃん、異常って言わずに天才って言ってほしいな」
「はいはい」
北原は素っ気なく臼井をあしらう。
「じゃ次は誰が行きますかな」
臼井が次の射撃者を促す。
「俺が行こう」
真っ先に梁間が手を挙げる。
「じゃあ私が」
滝本さんも名乗り出る。
「じゃあ先輩、よろピコ」
「お前は同期だろ」
北原はなついてくる臼井を軽く振り払い、SA室に入る。振り払われた臼井は悲劇のヒロインっぽく床に座り込んでしまう。
「私、捨てられたのね……」
「椎堂さん、アレはどうすればいいんですか?」
俺はそんな臼井を険しい表情で見つめる。
「椎堂さん」
「ん、なんだ?」
「いや、あの臼井さんがあんな感じなのはどうすればいいかなと……」
児島は
「……ほっとこう」
2巡目の3人は準備を始める。俺達は射観通路のベンチに腰かけ、様子を見守る。
「梁間君のショットガンは見ものですね。椎堂さん」
「いや、あれはサブマシンガンだ」
「え、そうなんですか?」
児島はキョトンとする。
「弾を飛散させるショットガンはSAでは禁止されているからな」
「ショットガンじゃないんですね」
児島は残念そうにする。
「同じサブマシンガン、ライフル。どちらを見るか迷います」
滝本さんはおどおどする。
「割合的にはどちらが多いんですか?」
一条さんが滝本さんに尋ねる。
「そうですね。やはりサブマシンガンの方が試合では多いですかね」
「なら、サブマシンガンの方がいいんじゃないですか?」
「そうですね。ありがとうございます。一条さん」
「いえ……どういたしまして」
一条は照れた様子で視線を逸らし、眼鏡を触る。
そんな話をしているうちにカウントダウンが開始された。3人は銃を構える。
「え、北原さん膝ついちゃってますけど……」
児島は北原の構えに戸惑う。北原は片膝をつき、銃床を頬で固定する構えを見せていた。
「まあ見てなさい」
臼井は含んだ笑みでそう言う。
SAがスタートした。ライフルから放たれる弾丸はどんどん的の真ん中を貫いていく。
「おお! 凄いですね」
児島は北原の銃さばきに釘付けになっている。北原の鋭い目つきはより一層増し、カッコよさを彷彿とさせていた。負けじとサブマシンガンを持つ2人もポイントを重ねていく。
「あの人、スコープ使ってないですね」
新内さんはくぐもった声でそう呟いた。
「よく気づいたね」
臼井は新内さんの洞察に感心する。
「なぜですか?」
新内さんは真剣な様子で臼井に問う。
「本来であれば、SAを行う時はスコープを使った方が有利。だけど、試合となれば別。スコープに集中してしまうと周りの状況把握が散漫になりやすいし、スコープを覗いているうちに注意を向けていなかった方向から撃たれる可能性がある。
そうなってしまわないように、夏希ちゃんはスコープを極力使わない。そういう癖をつけて、スコープを使わずに照準を合わせ、遠方の敵を撃ち抜く。
前に他のプレイヤーから聞いた話だけど、夏希ちゃん、スナイパーの中でも有名なプレイヤーらしく、サバゲーでプレイヤーを狩る女性プレイヤーで、えーっとなんて言ったっけなぁ……」
臼井は難しい顔をして思い出そうとする。
「フレグラン・スナイパー、ですか?」
「そうそれ!」
臼井は一条さんを指差して答える。
「まさか、あの方が」
新内さんも動揺している様子だった。
「高潔な女狩人、か」
「なんですか?」
児島が俺の呟きを問う。
「フレグラン・スナイパーの別名だ。まさか、北原がフレグラン・スナイパーだったなんてな」
「そんなに有名なんですか?」
「有名も何も、サバゲー界では日本で指折りのスナイパーですよ」
一条さんも興奮した様子で児島に説明する。俺達は北原の無駄のない射撃を夢中になって見続けた。
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