three bullets 早撃ち
みんなが着替えを終えた後、俺達は射撃場に足を運んだ。
プレハブ小屋のような場所に大小様々な的が設置されており、その真向かいの人工芝の上に、白い横線が引かれている。細長い廊下のような場所で、窓からその内装を覗く滝本さんと児島。社会見学に来た子供のようだ。
ここはSA射撃場。的をいかに早く正確に狙えるかを競う場だ。SA杯なんて競技もあるくらいで、フラッグ戦や殲滅戦などのフリーゲームと違って地味だが、射撃精度を上げる練習や素早く照準を合わせる練習になる。
「以前の試合なんだけど、みんなの射撃精度も上げた方がいいと思うのよ」
細長い廊下、射観通路で臼井が立ち止まって話し始める。
「確かに当たらないことが多かったですね」
滝本さんはためらいがちに言う。
「試合形式で射撃した方が良くないか? プレイヤーも敵プレイヤーも動いている状況で、かつ弾が飛んでくる状況の方がいい練習になるだろ」
梁間はあまり乗り気じゃないらしい。
「基礎に立ち返ることで実践での成熟度が増すのよ」
「はあ、古くさいなぁ」
「まあ騙されたと思ってやってみて」
臼井はやる気になれない
「この射撃場は3人ずつしかできないみたいね。それじゃ、誰からやる?」
臼井は楽しそうに尋ねる。遊園地に来たかのような振る舞いをする臼井のテンションは、
「まず経験者からした方がいいだろ」
獲物を狙う獣が爪を研ぐように、スナイパーライフルを組み立てている北原が臼井に提案する。
「じゃあ、私が最初ね。あと他にやったことある人は……」
「じゃあ僕が」
新内さんが手を挙げた。
「僕もやります」
一条さんも手を挙げる。
「おっけー。じゃ入ろうか」
俺達は射観通路の窓から3人を見守ることにする。
臼井、一条さん、新内さんは射撃場の端にある椅子に座る。それぞれゴーグルを着用し、銃に弾を込めていく。人工芝の地面から生えたように設置されている小さな台の上に、銃や弾倉、弾を置く。
「新内君はボルトアクションでいくのか」
児島は新内さんの銃を興味深そうに見ている。
「重そうですね」
ボルトアクションは遠距離型のスナイパーライフルであり、連続撃ちをするとなればスピードは劣る。ボルトアクションは引き金を引く前に一度ボルトハンドルを上げ、ボルトを引く操作を必ずしなければ撃てない仕組みだ。それを毎回撃つ前にやるのはかなりめんどくさい。
「でもカッコいいですよねー」
児島の言うように動作性のリアルさと反動に惚れ込んでボルトアクションを好むプレイヤーもおり、戦い方を工夫すれば試合でも戦えないことはない。何より、操作性の手間こそ敵に当たった時の喜びが増幅される。
3人が白線の前に並んだ。どうやらもうすぐ始まるようだ。
「開始5秒前」
施設スタッフの声が響く。3人は銃を構えた。
「4、3、2、1……」
3人は一斉に撃ち出す。それぞれA、B、Cと振り分けられたブロックに、同じような配置で紙の的が現れる。およそ4秒から5秒の間に25の枠の中でランダムに5つの的が出現し、それを正確に撃っていく。
インターバルは弾倉を取り換える時間を鑑みて5秒。弾倉を取り換える手際の良さもこのゲームで試される。もたついた分、的を撃つ時間がなくなる。それぞれのブロックの上部に設置された電子表示板が、合計ポイントをリアルタイムで表示していた。
「みんな凄いな。どんどんポイントを稼いでいく」
児島は3人の射撃精度に感嘆する。
「おう。新内は臼井とほぼ同じポイントだぜ」
梁間も楽しそうに見ている。
俺は3人の成績よりも臼井の射撃に注目する。あの時に見た姿が間違いかどうか確かめたかった。奥のレーンにいる臼井の手元を瞬きすら忘れて見つめる。臼井は両手で銃のグリップを包むように握り、グリップに絡まる指を隙間に入れている。
同じだ。あの時と……。騒がしい心臓の音が体中に震動で伝えてくる。俺は右の拳をギュッと握りしめた。
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