five bullets きっかけをくれた憧れ
2巡目が終了した。
梁間、908ポイント。
滝本さん、845ポイント。
北原、1073ポイント。
3人はSA室から出てきた。
「北原様」
突然、新内さんが北原の前に躍り出た。
「様?」
北原は顔をしかめて投げかける。俺達も新内さんの行動に戸惑う。新内さんは北原の前でひざまずき、両手を前に出す。
「銃をお持ちします」
「……いいって、持てるし」
「では、何かお飲み物を買ってきましょうか?」
「じゃあ、ホットレモン」
「かしこまりました」
新内は風のように射観通路を飛び出した。
「あんなキャラだったんですね。新内さんって……」
児島は呆気に取られて呟いた。
「はあ、俺達には聞かずかよ」
梁間は微妙な待遇の差をつけられたのが気に食わなかったようでため息を零す。
「まあまあ」
滝本さんは梁間を
「俺達だって頑張ったよなあ」
梁間はベンチに腰かける。
「そうですね。梁間さんも頑張ってました」
滝本さんは梁間を励ます。
「でも、やっぱ北原さんには敵わねぇわ」
梁間は苦笑しながら隣に座る北原に視線を振る。
「精度だけならスナイパーの方が有利だから、私が勝っただけだよ」
「そんなに謙遜しなくていいよ~。な・つ・き・ちゃん」
臼井は北原の頬を指でつんつんする。
「鬱陶しい絡み方すんなよ未生」
「照れない照れない」
3巡目で俺と児島、2回目の新内。4、5、6と8巡目までやり、1人3回行った。なぜか俺まで3回やらされた。
俺はどっと押し寄せている疲弊感を背負ったまま、ホテルに入る。ホテルは臼井達が手配してくれていたようだ。料金もあっちが持ってくれようとしたが、さすがに悪く思い、料金を渡しておいた。
俺はルームキーを錠に差し込む。ドアを開けると、自動で明かりがついた。俺は息をついてベッドに腰を下ろす。
「椎堂さんと同じ部屋で過ごせるなんて、人生の半分の運を使い果たした気分だよ」
快活な声と共に梁間が入ってくる。
「大げさだな」
「いやマジでそう思ってるから」
「俺のこと知ってるのか?」
「もちろん。高校生の頃、まだペイントシューター始めたばっかで、右も左も分かんなかった。そんな時、あんたの出てる試合がネット中継されてたんだよ」
ネット中継……。俺は施設の大会にしか……あ、1回あったか。
千葉県内にあるそれぞれの施設で開かれた指定大会で、3位以内に入ったチームの中でチームを作り、4つのペイントシューター施設の合同大会に出たことがある。
その時はギャラリーも多く、予想以上の盛り上がりに少し驚いた。アレがネット中継されていたことは知らなかった。
「あの時の椎堂さん、めちゃめちゃかっこよかった。俺もあんな風にゲームできるように練習しまくったよ。ま、勉強を二の次にしちまって、親から銃取り上げられたこともあったけどな」
「ふ、青春だな」
「そうだな。今も俺は、青春してるかもしんねぇな」
梁間は豪快にベッドへダイブした。大きな体がバウンドし、ベッドが揺れる。
「壊すなよ」
「ベッドに飛び込んだくらいじゃ壊れないって。これからどうする? 食事にするか?」
まだ会って間もないのにタメ口か。百歩譲ってそれはいいとしても、尊敬してる人に対してタメ口ってのが気になるが……。まあいっか。
「椎堂さん。聞いてる?」
「俺はまだ腹減ってないからいい」
俺は不思議な感覚に包まれながら返す。
「そうか。じゃあ、俺は他の奴誘っちゃおうかなー」
そう言って梁間は鞄から長財布を取り出し、部屋から出て行った。
俺は静かになった部屋の中を見回し、何をするか考える。シャワーで汗流すか。俺は着替えを取り出し、ユニットバスへ向かった。
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